夏織さんの念を押すような言葉。
 電話でも聞いた通り、父さんが相手にしてきた人間は普通の人間ではないのも多くいる。
 もしかすると、俺が最近見かけた人間も何かしらの専門の人間かもしれない。
 そうであれば、油断は出来ない。
 たとえ、此方が勝っていたとしても何しかけてくるかは解らないからだ。
「さて、と……この話はこれまでにしましょう。そろそろ、なのはちゃん達のところに戻りましょう?」
「そうだな。これ以上長居するとなのは達が心配する。悠翔の場合はフェイトちゃんも心配するだろうしな」
「……そうですね」
 これ以上この話をしても仕方が無い。
 今は何も動きも無いのだから気にし過ぎていては何も出来ない。
 此方から仕掛ける真似なんて出来はしないからだ。
 ここは座して待つより他は無い。
 それに、このまま長話を続けていたらなのはさん達が心配する。
 多分、フェイトも俺のことを心配しているんじゃないか……とも思う。
 話を切り上げて出ていく士郎さんと夏織さんについて行きながら俺はそう思った。
 とにかく、今は気を引き締めていくことしか出来ない。
 たとえ、何を仕掛けて来ようとも相手の好きにはさせない――――。
 何が来ても護りきってみせる――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 決意も新たにダイニングルームの方へと戻る。
 すると、そこにはなのはさん達の姿だけでは無く、恭也さんの姿もあった。
 多分、俺達が話をしている間に戻ってきていたのだろう。
 忍さんとすずかの姿も見えるしな。
「……夏織母さん」
「ん、久しぶりね。恭也」
「ああ、母さんこそ」
 短く言葉を交わす恭也さんと夏織さん。
 久しぶりの親子再会と言ったところか。
「それにしても朝帰りとは良い御身分ね、恭也」
 しかし、夏織さんの言葉で空気が凍り付く。
 いやいやいや、それは言っちゃ不味いと思いますよ、夏織さん。
「あ、でも……もうすぐ結婚するんだから当然か」
 言うだけ言って思いだしたようにぽんっと手をうつ夏織さん。
 ああ、成る程……結婚か。

 ……って!? 恭也さん、やっぱり結婚するのか!?

 いや、まぁ……忍さんとの関係からしてそうだとは思っていたが……。
 既に夏織さんにまで伝わっているとは。
 と言うことは本当にもうすぐ、結婚するって言うことか。
 もしかして、夏織さんが海鳴に来た理由って……?
「後で、話を聞かせて貰うわよ。色々と確認しておきたいしね」
「……解った」
 成る程……恭也さんの結婚式とかそう言った話のことだったのか。
 確実にこれだとまでは言いきれないが……可能性としては充分に考えられる。
 詳しい理由までは聞いていないからなんとも言えないけどな。
「まぁ……こんな愚息だけどよろしくね?」
 むすっとした表情のままでいる恭也さんに対して凄く嬉しそうな表情をしている忍さん。
 恭也さんの実の母親である夏織さんからこう言われて嬉しいんだと思う。
 夏織さんに反対されていないって言うのは凄く大きいと思う。
 これで、恭也さんも忍さんも心おきなく結婚出来るだろうから。
 しかし……夏織さんも夏織さんでとんでもない話題の振り方だな。
 なのはさん達は皆、固まっていたしな――――。
 普通、誰でもあんな切りだし方だとそうなるな。
 俺も初めは何を言ってるんだと思っていたくらいだし。
 まぁ……夏織さんらしいと言えばらしいけど。
















 恭也さんと夏織さんの会話内容に驚くしか無い私。
 特に恭也さんと忍さんの結婚については初めて聞いたような気がする。
 なのはは既に知っているみたいで驚いては無かったけど……悠翔は吃驚しているみたい。
「結婚だって、悠翔。凄いよね?」
「ああ、そうだな。俺も吃驚した。何時、結婚するかと思ってたら近いうちにみたいだし」
「だから夏織さんも海鳴に来たのかな?」
「かもしれないな。海鳴に行くようにって言ってきたのは夏織さんからだからな」
「そうなんだ……」
「けど、俺はこのことは知らなかったからな。なんとも言えないな」
「む〜……」
 ちょっとだけ残念に思う私。
 夏織さんが悠翔を海鳴に行くようにと言った理由にそんなことも絡んでいたかと思うと残念で。
 でも、悠翔は知らなかったみたいだから偶然なんだとは思うけど。
「でも、俺はもし、意図的だったとしても良かったと思ってる」
「どうして?」
 悠翔はなんでもないと言った表情で私を見つめる。
 夏織さんが意図的だったとしても良かったと思ってるってどういうこと……?
「大切な人を見つけられた。俺はそのことが一番、良かったと思ってる」
「はぅっ……」
 悠翔の言葉にぼんっと私の顔が熱くなる。
 照れずに言いきった悠翔の意思は本気みたいで。
 さっきも夏織さんに私のことをはっきりと紹介してくれたし……。
 もう一度、言われるなんて私もどうしたら良いのか。
 ここは何か言わないと……。
「え、えっと……私も悠翔のこと……」
 でも、これ以上言葉は出なくって。
 悠翔がはっきりと言ってくれているのにどうして、私は何も言えないのか。
 私が何も言えなくてしょんぼりとしていると悠翔が優しく頭を撫でてくれる。
 悠翔の優しさが嬉しくもあり、悲しくもある。
 もっと悠翔に気持ちをはっきりと伝えたいのに。
 好きだって言いたいのに。
 どうして、私って……こうなのかな?
















 フェイトが何かを言いたそうにしている。
 だが、その言葉が発せられることはない。
 俺に何を言いたいのかまでは解らないが……フェイトは何か秘めた気持ちがあるみたいだ。
 しかし、これは俺から聞き出すわけにもいかないので、黙ってフェイトの頭を撫でるしか出来ない。
 恭也さんと夏織さん達の会話をそのまま、暫く聞きながらフェイトの様子を確認する。
「落ち着いたか?」
「うん」
「なら、良かった」
 フェイトが落ち着いたことを確認し、俺は再度、恭也さん達の話を聞く。
 とりあえずは向こうも落ち着いてきたらしい。
 夏織さんが俺に話しかけてくる。
「悠翔、フェイトちゃんとは随分と親しいみたいね?」
「ええ、そうですね」
「ふ〜ん……他の女の子の時はそんなんじゃ無かったのにね。やっぱり、フェイトちゃんが特別なのかしら?」
「……はい」
 一瞬、フェイトの顔が紅く染まったような気がしたが気にしないでおく。
 俺としては本当のことを言ったまでだ。
 夏織さんにははっきりと言っておかなければならない。
「良いわね、そういうのって。だったら、本気を貫き通しなさい」
「……ええ、解っています」
 夏織さんに言われなくても、それは俺自身が一番、解っていること。
 フェイトが大切な人だと思った時からそれは貫こうと思っていたことだ。
「うん、それなら良いわ。これ以上、私が言うことは無いわ。それに……客も来たみたいだしね」
「……そうですね」
 俺の返答に満足そうに頷き、外の方に視線を移す夏織さん。
 外から感じる気配は、はやて達のもの。
 人数から察するにヴォルケンリッター達も一緒なのだろう。
 後、アリサやクロノさんの気配も感じるからちょうど、皆が揃った感じか。
 それにもう2人――――俺の感じたことのない気配が二つ。
 一つは特に脅威は感じないが……もう一つの気配は尋常ではない。
 恐らくは魔導師なんだろう。
 それも、かなりの実力者だ――――。
 しかし、漸く役者が揃ったと言える。
 これで、俺が管理局に対してどう言った返事をするかが決まる。
 協力するか、それとも協力しないかが――――。
 俺自身の意志は、果たしてどちらなのだろうか――――。



































 From FIN  2009/1/13



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