「なのは、コイツの名前は不破夏織。……恭也の母親だ」
「え、お兄ちゃんの……?」
「ああ、そうだ」
士郎さんがなのはさんに説明をする。
こう言ったことをはっきりと言い切るのは流石に士郎さんだ。
「因みに今は悠翔の保護者をしているな」
「初めまして、不破夏織です。えっと、なのはちゃんで良いかしらね?」
夏織さんに話しかけられて慌てるなのはさん。
流石に恭也さんの母親だと言うだけあって緊張しているんだろう。
「士郎から話は聞いているわ。貴方が恭也の妹なんですってね」
「あ、はい」
「だったら、私にとっても娘だわ。なんて言っても士郎の子供なんだしね。私はそう思いたいけど……駄目かしら?」
「い、いえっ、そんなことないです!」
「ふふっ、じゃあ……宜しくね。なのはちゃん」
「はい、夏織さん!」
夏織さんがなのはさんを見ながら微笑む。
初めて会った2人だけど、その光景はとても微笑ましいものだった。
夏織さんがなのはさんのことをどう思っていたかは気になったが……。
そんなことは杞憂だったみたいだ。
夏織さんはなのはさんのことを娘みたいなものだと言っている。
なのはさんのことも受け入れていると言うこと……それが、なんとなく嬉しかった。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
なのはさんに対する夏織さんの自己紹介も滞りなく終わったが……。
問題はまだ、もう一つ残っていたりする。
「さて、と……これで、なのはちゃんも認めてくれたわよ?」
「む〜……ずるいです、夏織さん」
夏織さんと桃子さんの言い争いの火種までは消えていなかったりする。
まぁ、とりあえずなんとか鎮火しそうではあるが。
「と言うわけで……士郎、後で良いことしましょ♪」
「夏織さん!?」
うん、とりあえずはツッコミはしないでおこう。
俺にはなんて言えば良いのかさっぱり解らないし。
「え、えっと……悠翔? 夏織さんってこんな人だったの?」
呆然と状況を見つめていたフェイトがおずおずと尋ねてくる。
「いや、夏織さんのこう言った姿は俺も初めて見たよ。夏織さんがここまで絡むとは思わなかった」
別に士郎さんと夏織さんだけの時はここまでにはならない。
寧ろ、大人の付き合いと言うか、夫婦としての付き合いと言うか、そんな感じだったと思う。
「そ、そうなんだ」
俺もなんだかんだで吃驚している。
フェイトも俺の様子を感じ取ったのかそれ以上は聞かないようにしてくれた。
「……とりあえず、この話題はここまでだ。夏織も後で相手をするからそのくらいにしてやってくれ」
「ありがと、士郎♪」
「ううっ……士郎さ〜ん」
ここで漸く、士郎さんがこの話を纏める。
きっちりと纏まったと言えば聞こえは良いが、桃子さんがしょんぼりとしている。
結局は夏織さんの相手をすると言うことで話が纏まったからな……。<>br
とりあえずは何も聞かなかったことにするしかない。
「さて……とりあえず、改めて夏織のことを皆に紹介した方が良いな。なのは、はやてちゃん達も家に来るのか?」
「うん、もう少ししたら来るよ」
「解った。とりあえず、正式な紹介はその時にするとするか。桃子もそれで良いか?」
「うん、解ったわ。士郎さん」
士郎さんがテキパキとどうするかの話を進めていく。
桃子さんもとりあえず、復活したらしい。
すぐさま、士郎さんの問いかけに返事が返ってきた。
「時間もまだあることだし、悠翔と夏織は俺の部屋に来てくれ。話を聞いておきたい」
「解ったわ、士郎」
「はい、解りました」
士郎さんの言葉に頷く俺と夏織さん。
そのまま、夏織さんに続いて士郎さんの部屋へと行こうとする。
「……悠翔」
すると不安そうな表情をしているフェイトに呼び止められる。
多分、真面目な話になるんだと思っているんだろう。
「……大丈夫だ。フェイトはなのはさん達と待っててくれ」
「うん、解ったよ。悠翔」
俺の返答に頷くフェイト。
少しだけ俺を見上げるような様子が可愛らしい。
俺はフェイトの頭を軽くぽんぽんと撫でてから士郎さんと夏織さんの後をついて行った。
「ゴタゴタして言えなかったが……久しぶりだな、夏織」
「ええ、そうね。久しぶり、士郎」
「少し見ない間に随分と良い表情をするようになったな。恭也とも和解出来たのが大きいか?」
「……そうね。それに士郎ともまた、繋がりが出来たから」
「ふっ……そう言われると嫌な気分じゃ無いな」
今まで会えなかった分の時間を少しでも埋めるように話をする士郎さんと夏織さん。
尊敬する2人がこうして話をしている姿を見ると俺もなんとなく嬉しくなる。
士郎さんと桃子さんとはまた、違ったかたち……。
改めて士郎さんと夏織さんの絆を感じさせてくれる。
「さて……と、夏織。今の状況はどうだ?」
「今のところは概ね、平和よ。昨年の事件を恭也が解決してくれたのが大きいわ」
昨年の事件とは恭也さんが光の歌姫と名高いフィアッセ=クリステラさんのコンサートの時に起きた事件のこと。
俺はちょうど、その時は夏織さんと行動していたため、事件には関わっていない。
あの事件は恭也さんにも士郎さんにも……そして、夏織さんにも因縁があった事件だと聞いている。
それは、俺にも同じことが言えるのだが。
事件の首謀者は少なからず、父さんとも因縁があったらしいからな。
最も、事件の首謀者は恭也さんに捕えられ、法の裁きを受けているのだが。
「ふむ……それは良いことだな」
夏織さんの言うとおり、最近は向こうの方は平和だ。
こうやって夏織さんが海鳴に来れているのもこう言った事情が大きい。
「だが、海鳴には不穏な空気が漂い始めている」
「ええ、それは私も気になっているわ。何者かが私達を見ている。それも異質な気配だわ」
「悠翔は既にそれを見たようだがな」
「本当、悠翔?」
「……はい。左腕を診て貰いに行った時に」
異質な気配と言うのが俺が病院で感じた人間のことであれば、間違いでは無いと思う。
不穏な空気と言うのもその人間達の放つ空気だろう。
確かにあの人間達は異質だ何処となく、普通の世界に身を置いている人間ではない。
「私が思うにはあの空気を放っている人間は悠翔のことを見ているわ」
「俺のことを……?」
「……ええ。もしかしたら、一臣に関係のある人間達かも知れないわね。それも、恨みとかの関連で」
「でも、父さんは……」
既に俺に父、不破一臣は死亡している。
恨みを持つ人間がいたとしても、父さんにはもう何もすることは出来ない。
唯、その恨みをぶつけるとすれば――――。
「そう。一臣は既に亡くなっているわ。でも、一臣の遺したものがある――――」
「成る程、それが俺だと言うことですね」
結論的にその対象は俺となる。
御神の剣士、不破一臣の一人息子――――それが俺、不破悠翔なのだから。
「そう言った事情があるからこそ、気を引き締めなくてはならないわ」
「はい、夏織さん」
夏織さんの言うとおり、俺を狙っている人間がいるのであれば尚更、気を引き締める必要がある。
今までにもこう言った輩は存在していたが、それも全部海外でのことだ。
海鳴のような平和な場所でのやり取りとは違う。
しかも、この場所ではなのはさんやフェイト、はやても巻き込んでしまうことになる。
そんなことにならないためにも俺は気を引き締めなくてはならない。
「でも、今のところ相手に関してはいま一つ、ピンと来ないわ。私も一臣が何をしていたかまでは解らない部分が多いから」
「そうだな。俺も夏織と同じだ。一臣が何をしていたかまでは解らない」
「唯、一臣が相手をしていた人間達は普通の人じゃない。それだけは覚えておいて」
「……解りました」
夏織さんの念を押すような言葉。
電話でも聞いた通り、父さんが相手にしてきた人間は普通の人間ではないのも多くいる。
もしかすると、俺が最近見かけた人間も何かしらの専門の人間かもしれない。
そうであれば、油断は出来ない。
たとえ、此方が勝っていたとしても何しかけてくるかは解らないからだ。
「さて、と……この話はこれまでにしましょう。そろそろ、なのはちゃん達のところに戻りましょう?」
「そうだな。これ以上長居するとなのは達が心配する。悠翔の場合はフェイトちゃんも心配するだろうしな」
「……そうですね」
これ以上この話をしても仕方が無い。
今は何も動きも無いのだから気にし過ぎていては何も出来ない。
此方から仕掛ける真似なんて出来はしないからだ。
ここは座して待つより他は無い。
それに、このまま長話を続けていたらなのはさん達が心配する。
多分、フェイトも俺のことを心配しているんじゃないか……とも思う。
話を切り上げて出ていく士郎さんと夏織さんについて行きながら俺はそう思った。
とにかく、今は気を引き締めていくことしか出来ない。
たとえ、何を仕掛けて来ようとも相手の好きにはさせない――――。
何が来ても護りきってみせる――――。
From FIN 2009/1/11
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