「だから、俺も咄嗟にフェイトにあんなことをしてしまった。怖がらせてしまって済まなかった」
「ううん。そんなことない。悠翔は護ってくれたから」
 私を巻き込んだことを悠翔は気にしている。
 でも、私は怖くなかったし気にしてない。
 悠翔が身を挺して私を護ろうとしてくれた……それが嬉しくて。
「それに……悠翔の言葉、嬉しかったよ」
「え……?」
「私のことを護りたい人だって言ってくれて。本当に嬉しい」
 悠翔の言ってくれた言葉は夢じゃなくて。
 私のことを言ってくれている――――それだけで充分だった。
 好きな人にそう言って貰えて嫌な女の子なんていない。
「だから、悠翔はそんな顔をしないで?」
 悠翔が申し訳なさそうにする必要なんてない。
 確かに少しだけ怖かったけど、悠翔が一緒だったから私は大丈夫だと思ってた。
 寧ろ、私のことを考えてくれた悠翔が優しすぎるんだと思う。

 でも――――私は悠翔のそう言うところが好きだから

 困ったような表情をしたままの悠翔を見ながら私はそう思う。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 フェイトの言葉に一瞬、面喰ってしまった俺だが……なんとか落ち着く。
 全く、フェイトは予想のつかないことを言う女の子だ。
 俺のせいであんな目にあったと言うのに。
 そこまで、俺を信じてくれていたのは素直に嬉しかった。
 俺だけが気にし過ぎていたらしい。
「……そうだな。フェイトの言うとおりだ」
 フェイトが言うとおり俺もそう言った表情をする必要は無い。
 彼女は無事だったのだから。
 きっと、それで良かったんだと思う。
「さて、と。俺達もそろそろ行こうか? これ以上、士郎さんと夏織さん達を待たせるわけにもいかない」
「あ、うんっ!」
 俺の提案にフェイトが頷く。
 自然な動作でフェイトは俺の手に自分の手を重ねてくる。
 俺もフェイトの行為に応じて手を優しく握る。
 嬉しそうにしているフェイトを連れだって高町家に入っていく。
 しかし、高町家の中に入って俺達の見た光景は――――。
 何やら修羅場っぽくなっていた。
「だから、士郎さんにくっつかないで下さい!」
「でも、桃子は何時も士郎と一緒にいるじゃない? 私は滅多に会えないんだから良いじゃない」
「それとこれとは別問題です!」
 何やら……初めてみる光景だ。
 士郎さんの間で桃子さんと夏織さんが言い争っている。
 なんて言えば良いだろうか……嫁姑の言い争い?
 それとも、前妻と現妻の言い争いか?
 なんかそんな感じがしてならない。
 フェイトはいったい、どう言う状況なのかが解っていないらしい。
 はっきり言ってしまえば俺の方も解らない。
 とりあえず、原因は士郎さんにありそうだが……?
 なんで、こんなことになっているんだろうか?
















「あ、悠翔君にフェイトちゃん」
「なのはさん」
 とりあえず、部屋に入って辺りを見回してみると少し離れたところになのはさんとユーノがいた。
「どうしよう、知らない女の人がお母さんと揉めてるんだけど……」
 そう言えばなのはさんは夏織さんを知らないんだったか。
 それにしても、俺も夏織さんと桃子さんが絡むとこうなるとは思わなかった。
 桃子さんも夏織さんも大人の女性だからな……。
 こう言ったことは大丈夫だと思っていたのだが、これは本当に予想外だ。
 とりあえず、俺の主観で状況を見てみる限りだと……?
 夏織さんは普段、士郎さんに会わない分で絡んでいる印象だ。
 桃子さんは普通にやきもちみたいなものだろうか。
「あ〜……夏織さんのことか。とりあえず、放っておく方が良いと思うんだけど」
「夏織さん?」
「ああ。俺の保護者みたいなものだよ。とりあえず、士郎さんとの関係は直接、本人達に聞くか、恭也さんにでも聞いてくれ」
「悠翔君は教えてくれないの?」
「……俺の口から言って良いことじゃないからな」
 俺が夏織さんの説明をしないことに疑問を持つなのはさん。
 なのはさんの疑問はごもっともなんだけどな。
 教えられないと言った俺を見て、なのはさんはぷうっと頬を膨らませる。
 その様子は見ていて可愛らしい。
 ユーノも隣でなのはさんの反応に苦笑しているみたいだが。
 まぁ、普通に自分の父親が見知らぬ人とああやって揉めていたら不満だろう。
 しかも、夏織さんはちゃっかりと士郎さんに抱き付くようなかたちをとっている。
 これでは普通に誤解を生むようにしか見えない。
 桃子さんも桃子さんで明らかに反応しすぎだ。
 普段がアレだけ仲が良いのだからこう言う時くらい目をつぶっても良いとは思うのだが。
「夏織さん、良い加減にして下さい!」
「い・や・よ♪」
「むぅ……士郎さんも何か言って下さい!」
 うん、何か変な方向に話が進んでいる。
 このまま放っておくとエスカレートしていくだけだろう。
 しかし、俺に止める手段はない。
 とりあえず、放っておくしか無いか?
















「お前達、いい加減にしろ!」
 俺達が呆然と状況を見つめていると士郎さんが一喝する。
「だって、士郎さん……」
「だってじゃない。なのは達が困っているだろう。それに、夏織もだ。ワザとやってるだろう」
「ごめんなさい、士郎さん」
「あはは……ごめん、士郎。悪ノリしちゃった♪」
「ったく……相変わらずだな。夏織は」
 夏織さんの返答に苦笑する士郎さん。
 とりあえず、士郎さんの一喝によって良く解らない状況は収まった。
 成る程、複数の女性から迫られたらこうすれば良いのか。
 俺が変なことを考えているとなのはさんが口を開く。
「えっと……お父さん、お母さん。この人は……?」
「ん、夏織のことか? 夏織は……」
「士郎の前妻よ♪」
「えっ……?」
 清々しい程の笑顔でなのはさんに答える夏織さん。
 一瞬、桃子さんに青筋が立ったような気がしたが気のせいだと思いたい。
 それに対してなのはさんはどう答えれば良いのか解らない様子。
 まぁ、夏織さんの言っていることは事実だが……それは返答に困るだろう。
「おいおい、その言い方は無いだろう」
「でも、事実でしょう?」
「まぁ……そうだが」
 夏織さんの変わらない返答に苦笑する士郎さん。
「なのは、コイツの名前は不破夏織。……恭也の母親だ」
「え、お兄ちゃんの……?」
「ああ、そうだ」
 士郎さんがなのはさんに説明をする。
 こう言ったことをはっきりと言い切るのは流石に士郎さんだ。
「因みに今は悠翔の保護者をしているな」
「初めまして、不破夏織です。えっと、なのはちゃんで良いかしらね?」
 夏織さんに話しかけられて慌てるなのはさん。
 流石に恭也さんの母親だと言うだけあって緊張しているんだろう。
「士郎から話は聞いているわ。貴方が恭也の妹なんですってね」
「あ、はい」
「だったら、私にとっても娘だわ。なんて言っても士郎の子供なんだしね。私はそう思いたいけど……駄目かしら?」
「い、いえっ、そんなことないです!」
「ふふっ、じゃあ……宜しくね。なのはちゃん」
「はい、夏織さん!」
 夏織さんがなのはさんを見ながら微笑む。
 初めて会った2人だけど、その光景はとても微笑ましいものだった。
 夏織さんがなのはさんのことをどう思っていたかは気になったが……。
 そんなことは杞憂だったみたいだ。
 夏織さんはなのはさんのことを娘みたいなものだと言っている。
 なのはさんのことも受け入れていると言うこと……それが、なんとなく嬉しかった。



































 From FIN  2009/1/10



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