「すいません、迂闊でした――――」
「いや、構わん。寧ろ、良い勉強になっただろう」
「……はい」
 既に先程のやり取りは終わったことだ。
 最早、気にしていてもどうしようもない。
 しかし、士郎さんの言うとおり、良い勉強になったと言える。
 殺気で燻り出すにしてももっと考えなければならない――――そう言うことだ。
 士郎さんのアドバイスを受け、俺は再度意識を切り替える。
 夏織さんが来るまでもう、時間はかからないだろう。
 俺が集中力を途切らしたらここまで試されたことが全て無駄になる。
 玄関の外から感じる気配に意識を集中する。
 その気配は少しずつ、高町家に近付いてくる。
 感じる気配は1人――――いや、2人――――?
 少なくとも恭也さんと忍さんではないことを考えると……。
 フェイトとはやてか――――?
 それとも――――夏織さんと誰かなのか?
 考えられる可能性は幾らでもある。
 俺は在り得る可能性を考慮しつつ、警戒心を強める。
 やがて、その気配は高町家のすぐ傍にまで近づき……。
 家のチャイムを鳴らした――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 チャイムが鳴ったのを確認して俺は扉の方へと近づく。
 士郎さんに軽く目配せをして、俺が対処をすると言う旨を伝えておく。
 そして、扉に近付き……ゆっくりと開ける。
 しかし、外にいた人物は夏織さんでは無かった。
「あ、悠翔。おはよう」
 チャイムを鳴らしたのはフェイトだったらしい。
 俺の姿を認めたフェイトは手を振っている。
 しかし、今さっき感じた気配は2人。
 フェイトだけと言うのは可笑しい気がする。
 唯、解っていることとすればはやてと一緒に来たわけでは無いと言うことくらいか。
 はやてであればこう言ったことをすることは出来ない。
 それだけでも彼女では無いと言うことが判断出来る。
 だが、俺が感じた違和感に間違いは無い筈だ。
(だとしたら――――)
 俺はフェイトを出迎えるために近付きつつ、腰に差した小太刀に手をかけられるようにする。
「悠翔?」
 俺の行動に疑問を持ったフェイトが首を傾げる。
 しかし、今の俺に対処をするだけの意識は向けられなかった。
(いるはずだが――――?)
 俺は確かな確信を持ってフェイトに近付いていく。
 だが、フェイトに近付いても何の気配も現れない。
 ここは隠密行動にも長けている夏織さんらしい。
 普通には夏織さんが出てくることは無いのだろう。
 俺は警戒を強めた状態のままフェイトを迎え、家の方へと連れて行く。
 この辺りは拓けているからそう簡単に不覚はとらない。
 そのつもりだったのだが――――不意に殺気が走る。
(しまった――――!?)
 タイミングを少しずらされた。
 しかも、剣の殺気を感じたのは俺の方向からじゃなくてフェイトの射線上から。
(フェイトを狙うかっ……!)
 一瞬の閃光を見極めた俺は咄嗟にフェイトを抱き寄せ――――。
 開いている方の腕の小太刀を引き抜いた。
















 一瞬、何が起きたのかは解らなかった。
 私の見ている世界が回ったかと思うと、何時の間にか悠翔に抱き寄せられていた。
(え……私、何時の間に!?)
 私は悠翔の胸に顔を埋めるかたちになっていた。
 見かけじゃあまり解らないけど、悠翔の身体は私が考えていたよりもずっと鍛えられていて……。
(悠翔って思ったよりもずっと、たくましい……?)
 うん、やっぱりそうだと思う。
 抱き寄せられた瞬間からそうだと思ってた。
 でも、この体勢って……?
(わ、私ったらまた……悠翔に?)
 そう、私はまたもや悠翔に抱き付くと言うようなかたちになってしまっていて。
 それに、悠翔がどうして、私を抱き寄せたのかは全く解らない。
(悠翔……?)
 悠翔に抱き付いたまま私はこっそりと悠翔の顔を覗き見てみる。
 私が見た瞬間の悠翔の表情は真剣で……私を抱き寄せている腕とは逆の手で小太刀を引き抜いたところだった。
 その光景を見て瞬きをした瞬間――――私の背後で鈍い音がした。
 悠翔が小太刀で何かを受け止めた音だった。
(え、ええっ……!?)
 本当に何が起きたのかが解らない。
 どうして、悠翔が小太刀を引き抜いたのか。
 いったい、悠翔が何を小太刀で受け止めたのか。
 私の眼には何も映らなかった。
「全く、こう言った手で来るとは思いませんでしたよ。夏織さん」
(えっ……!? 夏織さん……?)
「ふふっ……短期間で腕を上げたわね、悠翔」
 1人の女性が悠翔を見ながら不敵に笑う。
(綺麗な人……それに、恭也さんに似てる?)
 女性が何かを仕舞いながら私を見つめる。
「……夏織さん。予測はしていたことですが……いったい、どう言うつもりですか。彼女を狙うなんて」
「え……?」
 私を狙ってた……?
「……彼女は今回の件には関係ないはずです」
「いいえ、大いに関係があるわ」
「……!?」
 理由を察したのか悠翔がまさか、と言った表情をする。
「そのとおりよ。悠翔がそこまでして護ろうとしたことがそれを示しているわ」
「悠翔……?」
 私も理由が解らず、悠翔の顔を見上げる。
「成る程、そう言うことですか……。だからと言って……!」
 悠翔はその意味を理解しているからか、声を荒げる。
「それについては謝るわ。悠翔を試すような真似をして。貴女もごめんなさいね?」
「い、いえ……」
 夏織さんも自分の行為を解っているのか素直に謝罪する。
 初めて出会った大人の女性に頭を下げられて戸惑ってしまう私。
「でも、悠翔がそこまで護ろうとしたってことは彼女がそうなのね?」
「……はい」
 夏織さんに謝罪をされて幾らか納まった悠翔が頷く。
 でも、私にはなんのことかは解らない。
 悠翔は夏織さんに何を言ったのかな……?
















 夏織さんが撃ってきた手段は予測していたことではあったが、直接フェイトを狙うとは思わなかった。
 もしかしたら、初めからフェイトが来るタイミングを見計らっていたのかもしれない。
 夏織さんはフェイトが俺の護りたい人だと言うことが本当かを確かめようとしたのだろう。
 そして、俺が取った行動は夏織さんの予想どおりだったのだろう。
 フェイトを護ることを最優先とし、夏織さんを迎撃する。
 俺がフェイトを護りたい人だと決めたのであれば、護ることを優先に動く――――。
 俺の性格を見越して夏織さんは最後のテストを行ったのだろう。
 御神の剣は護るために振るうもの。
 俺がそれに見合う行動をとるかどうか……それを見極めるつもりだったらしい。
「良くやったわね、悠翔。貴方も漸く、見つけたと言うことかしら」
「……はい」
 そう、俺が見つけたもの。
 自分が護りたい一人の女の子。
 ――――フェイト=T=ハラオウン。
 今のテストで夏織さんが確かめたかったものは見せられたんだろう。
 そして、迷わずにフェイトを護ることを優先して動いた俺の行動も実証された。
 大切な人のために剣を取ると言うこと。
 夏織さんの言っていたものを漸く、見つけられた。
 これが夏織さんの出した課題であり、最も大切なものだった。
「俺の大切な人……護りたい人は彼女、フェイト=T=ハラオウンです」
 最早、俺に迷いは無い。
 俺の護りたい人はフェイトだとはっきりと伝える。
 夏織さんにも、フェイトにも伝わるように。
「……解ったわ、悠翔。貴方が自分で見つけた人だもの。私が反対する理由なんてないわ」
 暫し、俺を見つめて夏織さんが納得したように頷く。
 俺が自分自身でこの答えを導き出したのがそ嬉しかったらしい。
 夏織さんは俺の頭を優しく撫でる。
 とりあえず、夏織さんから言い渡されていた課題は完遂したと言える。
 俺の方はこれで良かったのだが……。
 顔を真っ赤に染めたままフェイトは呆然としている。
 もしかして……フェイトに直球で俺の意志を伝えたのは不味かったのか?



































 From FIN  2009/1/4



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