なんにせよ、夏織さんが来ることで何かの動きくらいはあるだろう。
 恭也さんとも士郎さんとも夏織さんに会うことになるだろうからな。
 フェイトにも会いたいって言っていたから……それもどうなるかが気になる。
 後は、時空管理局に関することだが……夏織さんが来たことで条件は整った。
 向こうがどういった形で動いてくるかにもよるが、概ね対処は出来るだろう。
 夏織さんなら提示された条件の落としどころも見極められるだろうし。
 フェイトが俺に以前にあった事件の話をしてきたのも動く兆しだと見ても良い。
 多分、明日か明後日くらいには動いてくるだろうと予想する。
 俺が管理局に関わっていくかどうかはその時に一応の山場を迎えるのではないだろうか。
 個人的にはフェイト達に協力することは吝かではない。
 だが、管理局の在り方には大いに疑問が残る。
 その疑問が明らかにされない限りは俺が管理局につくことは在り得ないだろう。
 それに今日の会話の中で更なる疑問が生まれた。
 しかも、それには俺の父さんが大きく関わっている。
 父さんが関わっていたことであれば俺にとっては見過ごせる問題ではない。
 俺ですら父さんがどうしてそう言った事件に関わっていたのかは知らなかったのだから。
 なんにせよ、俺が動くのも夏織さんに直接、会ってからだ。
 それまでは俺から行動を起こすわけにもいかない。
 気になることは多々あるが、今の段階では解決のしようもないからだ。
 夏織さんが海鳴に来ることで何かが動きだす――――。
 今の俺にはそれを知る術は無かった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 そして、次の日――――。
 夏織さんが海鳴に来る当日となった。
 あれから、俺は念のために恭也さんにも連絡を取っておいた。
 恭也さんも今日の午前中には忍さんを連れて高町家に戻るとのことだ。
 現在、恭也さんからの返答も確認し、後は夏織さんを待つだけの状態だ。
 今日も俺は早朝に起床し、小太刀を取る。
 夏織さんが俺を試すつもりだと言うのなら、先に身体を慣らしておかなければ。
 今までの経験からすると夏織さんのテストは一度も甘いものが無かった。
 寧ろ、自分の限界に挑戦するということも珍しくはない。
 それでいて、夏織さんのテストは一瞬の隙すらも許されない。
 全ては一瞬で片がつくのだが、その一瞬がもの凄く長く感じる。
 特に自分と夏織さんとの力量の差を考えれば尚更だ。
 まぁ……その御蔭で俺は今の年齢でこれだけの力量になれたと言うのもあったりするのだが……。
 意識を集中し、周囲の気配を読み取る。
 今のところ、夏織さんの気配は見られない。
 しいて言えば……他の人の気配が近付いてくるくらいだ。
(この感じは……ユーノだな)
 ユーノの気配を察知した俺は一旦、小太刀を振るうのを止める。
「……悠翔」
 振るうのを止めた直後にユーノが俺に声をかけてくる。
「ユーノ、何か用事でもあるのか」
「いや、僕も目が早く覚めちゃったからね。君がここに来てるって聞いて様子を見に来たんだよ」
「成る程。それで、様子を見に来たと言うのは別に良いが……なのはさんはどうしてる?」
「なのははまだ、来ないよ。もう少し経ったら来るかもしれないけどね」
 確かになのはさんはまだ、来ないらしい。
 此方に来る気配も全く、感じられない。
 だったら、気にせずに小太刀を振るうのを続けるとするか……。
 ユーノも興味はあるみたいだからな。
















「そうだ、悠翔。少し試して欲しいことがあるんだけど」
「なんだ?」
 俺が小太刀の素振りをして数分の後、ユーノが尋ねてくる。
「僕に向かって君の剣技を遣ってみてくれないかな」
「は? ユーノにか?」
 ユーノの意図がいま一つ解らない。
 何故、ユーノに俺が剣技を振るわなければならないのだろうか。
「なんと言うか……一度で良いから君の一撃を受けてみたいんだ」
「成る程……」
 一応、今ので意味は理解出来た。
 何度か俺の戦闘を見て、ユーノ自身も少しくらい体感しておこうとでも考えたか。
 ユーノは話によれば結界を得意とする魔導師だと聞く。
 戦闘になれば話は別だが……俺の剣を体感するだけで良いと言うのであれば全く問題はないだろう。
 それにユーノには何か隠された部分がある気がする。
 俺の勘に間違いが無ければ、だが。
「そういうことだったら、構わない。だが、こっちにも事情があるからな。一度だけだ」
「ありがとう、悠翔」
 ユーノに返答を確認すると、俺は僅かながら間合いを取り直す。
 ユーノの方も俺の動きに合わせて結界を張る。
 見た感じ、なのはさんのものと変わりはないが……。
 恐らく、ユーノのような専門家が遣うとなればその効果はなのはさんをも凌ぐだろう。
 それに、体感させるだけなら奥義は必要ない。
 だが、普通に撃ち込むだけではユーノには通じないだろう。
 ユーノは結界師としての力量に優れているのだから。
 そういうことなら――――。
(基礎乃参法でいく―――――)





 ――――小太刀二刀御神流、基礎乃参法・徹





 俺は”右腕”による一撃をユーノに放つ。
 御神流の基礎の中の一つである徹。
 これは、武器を問わず、場合によっては素手でも高い破壊力を得る為の技法である。
 俺が最も、得意とする奥義である雷徹はこれを更に極めた先にあるものだと言って良い。
 当然、自分が最も得意としている奥義だけあって徹は俺の扱う基礎乃参法の中では最も完成度が高い。
 そして、徹であればユーノが如何なる障壁を張っていたとしても――――。
「ぐっ……」
 撃ち抜ける――――。
 が、ユーノは踏みとどまった。
(今ので踏みとどまるのか)
 幾ら、右腕で徹を放ったとはいえ、今の一撃はそう簡単に凌げるはずはなかった。
 シグナムですら徹の一撃にはダメージを受けていたのだから。
 しかし、ユーノには殆ど通っていない。
 精々、衝撃を徹しただけに留まったということか。
 今のを凌いだユーノは流石だと言える。
 俺も全くの手加減はしていない。
 寧ろ、最も効果を発揮出来るであろう距離とタイミングで放ったのだから。
 これはユーノの実力であり、障壁の強さもそれに伴っているということだ。
 俺の勘に狂いは無かったってことか――――。
















「っ……!? 凄いな、悠翔」
 ユーノが驚きながら自分の腕を見る。
 よく見ると腕が震えている。
 多分、徹の反動によって腕が痺れているのだろう。
 だが、俺から見れば普通に凌いだのは見事だと思う。
「今のがシグナムさんやファリンさんに遣った技法だね?」
「……ああ」
「でも、今のは……」
「その通りだ。今のは奥義なんかじゃない……。基礎の一つだ」
「アレで基礎だなんて……一体、君の剣技はどうなってるんだ」
 俺の説明に呆れたように苦笑するユーノ。
「俺からすればユーノの魔法も大したものだと思うけどな。徹を遣っても踏み止まれるとは思わなかった」
「いや、今のは悠翔が基礎の段階で止めたからだよ。多分、君が奥義の方を遣っていたらどうなっていたかは解らないし」
「そこまで、評価されると俺の方もどう反応したら良いのか困ってしまう、な」
 いや、普通に評価し過ぎだろう。
 俺の徹は一応の完成を見ているとはいえ、恭也さんのものに比べればその段階は程遠い。
 恭也さんは利き腕に型よりなく、威力を引き出すことが出来るからだ。
 それは当然、士郎さんにも同じことが言える。
 だが、俺の場合はそうはいかなかった。  特に俺の場合は徹に関してだと完全に左腕の方に型よっている。
 寧ろ、左腕からの雷徹が俺の最大の奥義になっているのがそう言った事情からだと言える。
 一度、遣えなくなった利き腕を鍛えに鍛えた結果がこうだ。
 反動はあるとは言え、利き腕による一撃が決め手になる段階まで持っていった。
 しかし、その性で型よりが出てしまっているのも事実。
 漸く、右腕もバランスが取れるようになったが……やはり、徹においては左腕でなければ本来の威力を徹すことは出来ない。
 だからこそ、俺はまだまだ未完成でしかないと言える。
「いや、悠翔はもっと自分を評価したって良いと思う。海鳴に来ての結果は全て君の強さだからこそだと思うし」
 とは言ってもユーノが言うとおり自分をもっと評価するには実力が足りない。
 シグナムに勝ったのはあくまで戦い方の差でしか無いと思うからだ。
 同じ舞台で戦ってファリンに勝てなかったことがそれを明確に表している。
 しかし、ユーノ言っているとおりでもある。
 全く、成果が出ていないわけじゃない。
 俺自身、今までは出来なかったことが出来るようになっているからだ。
 後はそれを磨いていく、唯それだけなのだから。
 別に俺自身、評価して欲しいわけじゃない。
 でも、成果を出せているかが自分でも解らないと言うのも事実だから。
 そう言った意味でもユーノが俺のことを評価してくれるのが素直に嬉しかった。



































 From FIN  2008/12/21



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