『一臣はこの事件のことを深くは語らなかったわ。唯、解っていることは普通の人間が相手じゃ無いってことだけ』
 やはり、夏織さんも父さんが戦った相手が普通の人間では無いと言うことを理解している。
 そして、フェイトの話と合わせると……魔導師が相手で間違いないだろう。
 オーパーツが何かまでは確証が持てないが、魔導師が父さんの任務の妨害に入ったと言う感じか。
 それに、父さんと戦った魔導師は全滅している。
 父さんは裏の流派である御神不破流の正統後継者だ。
 介入した魔導師が全滅していると言う結果にも納得出来る。
 恐らくだが、父さんは元々から殺すつもりで魔導師と戦ったに違いない。
 でなければ、ああまで被害を出すことも無いだろう。
 酷いようにも見られるが、これは父さんから見れば当然のことだ。
 更には、一切のを口封じると言う意味も含まれている。
 最も、父さんもここまで遣ったりする人じゃ無い。
 幾らなんでも全滅まではさせないと思う。
 精々、やるとすれば再起不能にするくらいだろうし。
 そう考えれば……やはり、父さんの激鱗に触れたと言うのが答えだと思う。
 フェイトには悪いが……これは魔導師側の自業自得だと言えるな――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















『ま、大体私が話せることはこのくらいよ。それにしても、いきなり一臣の関わった事件を聞くなんて何かあったの?』
「ええ、ちょっと気になることがあったもので」
『ふ〜ん……』
 夏織さんがジト目で見ているかのような感じで話してくる。
 流石にいきなり、父さんの話を聞いたのは不味かったかもしれない。
『ま、別に良いか。直接見てみれば悠翔が何故、そう言うことを聞いたのか解るだろうし』
 そう言ってすぐに頭を切り替える夏織さん。
 こう言った部分は本当に流石だ。
 俺ではこうも上手く切り替えるのはまだ、無理だと思う。
『他に悠翔から聞きたいことは無いかしら?』
 他に聞きたいことか……何があるだろうか。
 聞きたいこととすれば……。
「聞きたいことがあるんですが……今の俺にはどうしたら良いのか解らないのです」
 フェイトのことになる。
 まだ、直接的に聞くことは出来ないから少し遠まわしな感じで。
『どんな話?』
「……海鳴で想う人が出来ました」
『そう……』
 俺が言った想う人が出来たと言うことに少し考え込む夏織さん。
 俺に大切な人を見つけるようにと言ったのは他でも無い、夏織さんだ。
『それは良かったわね。それで、どんな娘なの?』
「ええっと……金髪の髪をした美少女ですか、ね」
『へ〜……と言うことは外国の人ってことかしら?』
「……そんなところです」
 別に嘘は言っていない。
 フェイトはこの世界とは別の人間だが、カテゴリー的には外国人で差し障りないからだ。
『それにしても、思ったよりも早かったわね。悠翔のことだから、かなり長丁場で考えていたんだけど……』
「あはは……そうかもしれませんね」
『まぁ、その娘にも海鳴に来れば会えるだろうし、楽しみにさせて貰うわ』
 楽しみにして貰えるのは別に良いのだが……。
 個人的には御手柔らかにお願いしたい。
 夏織さんは厳しい部分も持ち合わせているからな。
 フェイトもまぁ、そう言った部分に関してはしっかりしていると思うから大丈夫と思うけど。
 とりあえず、夏織さんがどう見るかは会わせてみてからじゃないと解らないか――――。
















『後、もう一つ大事なことを忘れてたわ。飛鳳のことだけど……』
 俺の愛用の小太刀である飛鳳だが……今は夏織さんに預けたままだった。
 そう言えば飛鳳のことをまだ確認していなかった。
『漸く、飛鳳の打ち直しが終わったわ。私がそのまま持ってくるから、今持っている小太刀が壊れてたりしても士郎から借りなくても良いわよ』
「あ、本当ですか。助かります」
 正直、飛鳳をそのまま持ってきてくれると言うのは助かる。
 既に俺の小太刀はシグナムとファリンとの連戦で傷んでいる。
 夏織さんが来る時に飛鳳を持って来れなかったら士郎さんに借りようとも考えていたくらいだ。
『その反応を見る限り……悠翔、渡した小太刀を壊したわね?』
「い、いや……壊したりはしてないです」
 流石に夏織さんも鋭い。
 特に俺が最近どういったことをしたかは言っていないはずなのに際どいところをついてくる。
 いや、確かに俺の小太刀は既に傷んでいる状態だから夏織さんの言っていることは近いんだけどな。
『ふ〜ん……まぁ、信じましょう。多分、痛んでいるくらいで止まっているでしょうし』
「……そこまで読まれてますか」
 夏織さんの言葉に苦笑する俺。
 ここまで言われると俺からもなんて言い返したら良いのか解らない。
 もう、返す言葉も無いと言うのはこのことか。
『読まれているも何も、悠翔が何度か戦ったって言うのは既に聞いてるわよ? 内容までは聞いていないけど』
 成る程、士郎さんに聞いていたと言うことか。
 詳しい内容に関しては俺が士郎さんにこのことを話す前だったから説明はされていないと言ったところか。
 逆に言えば、詳しい内容を知らない夏織さんから見ればここまで小太刀が痛むと言う状況が疑問なんだろう。
 普通はここまでなることは無いからな……。
 人を多数、斬り過ぎれば当然、斬れ味というものは落ちる。
 だが、海鳴でそう言った真似をしたりはしていない。
 普通に一騎討ちで立ち合っただけだ。
 だからこそ、夏織さんから見れば信じられないものがあるのだろうが。
『唯、尋常じゃない相手だったと言うのは察するわ。悠翔の腕前は私も良く知っているから』
「いえ、俺なんか……」
 夏織さんが俺のことを評価してくれているのは嬉しい。
 だが、自分ではあまりこう言ったことは実感出来ないものだ。
 はっきり言って周りが周りだからな……。
 自分の周りの人間関係を見たところ全員が異常なほどのレベルしかいない。
 寧ろ、自分が一番、底辺にいるくらいだ。
 それでも、普通の人よりは異常だと実感しているが。
 夏織さんもそう言ったことから判断しているのだろう。
 確かにシグナムもファリンも尋常じゃない相手だったからな――――。
















『さて……と、今日はここまでかしらね。詳しい話は直接会ってからにしましょう』
「解りました、夏織さん」
『後、明日は気をつけなさい。私がどのタイミングで悠翔を試すかは解らないから』
「……肝に命じておきます」
 夏織さんの半ば脅しに近い形で話は締め括られた。
 明日になれば、夏織さんに会えると言うこと……。
 これは俺にとっては大きな動きが起きる前触れなのかもしれない。
 夏織さんが理由もなしに海鳴に来ると言うことはあまり考えられない。
 もしくは俺が海鳴に来たことを理由に何かをしに来ると言う可能性だって考えられる。
 なんにせよ、夏織さんが来ることで何かの動きくらいはあるだろう。
 恭也さんとも士郎さんとも夏織さんに会うことになるだろうからな。
 フェイトにも会いたいって言っていたから……それもどうなるかが気になる。
 後は、時空管理局に関することだが……夏織さんが来たことで条件は整った。
 向こうがどういった形で動いてくるかにもよるが、概ね対処は出来るだろう。
 夏織さんなら提示された条件の落としどころも見極められるだろうし。
 フェイトが俺に以前にあった事件の話をしてきたのも動く兆しだと見ても良い。
 多分、明日か明後日くらいには動いてくるだろうと予想する。
 俺が管理局に関わっていくかどうかはその時に一応の山場を迎えるのではないだろうか。
 個人的にはフェイト達に協力することは吝かではない。
 だが、管理局の在り方には大いに疑問が残る。
 その疑問が明らかにされない限りは俺が管理局につくことは在り得ないだろう。
 それに今日の会話の中で更なる疑問が生まれた。
 しかも、それには俺の父さんが大きく関わっている。
 父さんが関わっていたことであれば俺にとっては見過ごせる問題ではない。
 俺ですら父さんがどうしてそう言った事件に関わっていたのかは知らなかったのだから。
 なんにせよ、俺が動くのも夏織さんに直接、会ってからだ。
 それまでは俺から行動を起こすわけにもいかない。
 気になることは多々あるが、今の段階では解決のしようもないからだ。
 夏織さんが海鳴に来ることで何かが動きだす――――。
 今の俺にはそれを知る術は無かった。



































 From FIN  2008/12/18



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