俺の経験不足もあるかもしれないが……あまりにも、情報が足りなさすぎる。
 いったい、フェイトの言った事件がなんなのかが解らない。
 士郎さんが言っていたのはあくまで俺の父さんが護衛に付いていた際に多くの異能力者と戦ったと言うことだけだ。
 あくまでそれだけでしかない。
 だが、フェイトの側の言っている大量の殺人事件……。
 証拠は無いが、魔導師のことを指している可能性がある。
 だが、表向きに魔導師が動くということも考えられない。
 寧ろ、そのような行為に動いたとすれば父さんが魔導師を斬るというのは当然のことだ。
 父さんの方はあくまで対象者、または対象物を護衛する側の立場なのだから。
 しかし、それもあくまで俺の想像の中であり、結局は俺の頭の中でも答えらしい、答えは出ない。
 今はこれ以上考えてもどうしようもないか――――。
 俺はとりあえず、その考えを頭から振り切ろうとした。
 その瞬間――――俺の電話が鳴り始めた。
 その、電話の相手は――――。
















 ――――不破夏織





















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















『もしもし、悠翔。夏織だけど』
 電話から聞こえる声は俺にとっては母親みたいな人。
 俺の保護者であり、俺を鍛えてくれた人物……『不破夏織』さん。
 士郎さんの嘗ての妻であり、恭也さんの実の母親でもある。
「あ、はい。夏織さん。こんばんはです」
『うん、こんばんは。悠翔。連絡が遅くてごめんね? さっきまで他の人に連絡を取ってたから』
「ああ、士郎さんのことですね?」
『ええ、そうよ……って士郎から聞いたの?』
「はい。先程まで俺も士郎さんの部屋でお話していましたから」
『全く、あの人は……内緒にしてって言っておいたのに』
 士郎さんから聞いたと言う俺の言葉に少しだけ拗ねたような感じの言いまわしをする夏織さん。
 多分、電話の向こうでは頬をぷく〜っと膨らませているのだろう。
 夏織さんは大人の女性としてはなんと言うか……可愛らしいと言った部分がある。
 寧ろ、そう言った部分で士郎さんにからかわれていたりもするのかもしれない。
 普段は冷静で戦闘術にも長けた大人の女性と言った感じなのだが……。
『ま、士郎も解ってて、悠翔に伝えていたんでしょうし、気にするほどでも無いか』
 うん、切り替えの速さも流石だ。
 これも夏織さんの凄いところ……だと思う。
『で、士郎にも伝えたことなんだけど……明日の朝には海鳴に入るから。何時になるかまでは教えないけど』
「え、時間は教えてくれないんですか?」
『だって、時間教えてたら待ち伏せされちゃうでしょ? それに、こうしておけば悠翔も自然と警戒するようになるでしょうし』
 確かに夏織さんの言うことはごもっともだ。
 時間の指定なんてしていたら何の訓練にもならない。
 いや、普通に夏織さんが来るだけで警戒しないといけないと言うのも何処か可笑しいともとれるが。
 まぁ、これは夏織さんと待ち合わせる時からやっていることだから別に不自然なことではない
 時間を教えてくれないと言うことで困ったのは俺以外が応対した場合のことを言いたいのだが。
「ですが、俺以外の人が応対したらどうするんですか?」
『う〜ん、そこは大丈夫でしょ。士郎も恭也も全く問題無いだろうし』
 いや、夏織さんの言い分は解るが、なのはさんか、桃子さんが応対したらどうするつもりだろうか。
 でも、夏織さんも気配察知には長けているからそのくらいの気配は読めるのか。
『とにかく、悠翔が海鳴に来てサボっていなかったか、じっくり見せて貰うわよ?』
「望むところです」
 どうせ、止めても無駄だろうから俺からはこれ以上は言わない。
 寧ろ、ここまで来ると俺の方こそ望むところだ。
 海鳴で経験をつんだことが無駄じゃ無いことを確かめる良い機会だ。
 夏織さん相手に通じるかは解らないが、やるだけやってみる。
 唯、それだけだ。
















「あ、そう言えば夏織さん。少し気になったことがあるのですが」
『何かしら?』
「実は、俺の父さんのことで聞きたいことが……」
『あら、珍しいわね。一臣のことで聞きたいことがあるの?』
「はい」
 先程から士郎さんとフェイトから聞いていた話を夏織さんになんとなく振ってみる。
 俺の父さんが関わっている事件……。
 もしかしたら、夏織さんは何かを知っている。
 そう思った俺は話題を振ってみたのだが……。
『それで、何が聞きたいのかしら?』
「夏織さんは、とある事件のことを知りませんか? 俺の父さんが護衛の任務について、大量の死者が出たというような話を」
『う〜ん……そうね。知らないと言えば嘘になるわ。私はその事件のことを多少の範囲でなら知っているわね』
「本当ですか!?」
 もしかしたら、と言うつもりで話を聞いてみたが、夏織さんの返答は俺の予想を大きく超えるものだった。
 まさか、事件のことを知っているとは思わなかった。
『でも、何故その話を聞こうと思ったの? やっぱり、士郎から話の筋でも聞いたの?』
「概ね、そうですね。後は、俺が海鳴で知り合った女の子からも聞きました」
『ふ〜ん……女の子から、ね。その娘がそう言う話をしてくるってことはその娘は何処かの組織の人なのかしら?』
「……はい」
 夏織さんがフェイトのことに探りを入れるように聞いてくる。
 ここは隠しだてをしても無駄だろうから素直に肯定しておく。
『悠翔の反応からすると敵対している組織の人では無いみたいだからまぁ、良いわ。それで、事件のことについてだったわね』
「はい」
『事件の発端は、10年以上前のことだったわ。悠翔もまだ幼かった頃ね』
「そんなに前のことなんですか?」
 事件が昔の話だということは聞いていたが、俺がまだ幼い頃くらいの話だったとは。
 約、10年前くらいと言うことは士郎さんがある護衛任務で一命を取り留めたばかりくらいの時期だろうか。
『その頃の一臣は護衛の任務を受けていたわ。確か……場違いの工芸品と言うものを護衛すると言う、ね』
 場違いの工芸品……所謂、オーパーツの護衛か。
 確かに、対人の護衛だけではなく、こう言った物の護衛任務も割と多い。
 俺も何度か、依頼を受けたことがある。
 父さんがその事件に遭遇したのはオーパーツの護衛の際だったのか。
 と言うことは、相手側の狙いはその、オーパーツだったと言うことになるのか?
 しかし、相手が何故、それを狙うのかがいま一つ読めない。
 フェイト達の言う側が相手だとするなら、相手は魔導師になるのだから……。
















『一臣が護衛していたものは、私達の知らないようなもので作られた装飾品のようなものだったわ』
「装飾品のような物、ですか」
 俺達の知らないような物で作られた装飾品……。
 しかし、それだけでは、狙ってくる理由には弱い。
「知らないようなもの?」
『ええ、だから”場違いの工芸品”なのよ。特別な物だったのは間違いないから。どんなものかまでは解らないけど、特別な力があるとまで言われていたわ』
「特別な力……」
 まさか、その特別な力と言うのは魔力のことなのか――――?
 フェイトの言い分から察するに、管理局が動いている可能性は充分に考えられる。
 そして、俺達の知らないようなもので作られた装飾品のようなもの……。
 もしかしたら、デバイスのことなのかもしれない。
 管理局が直接動いてきたという可能性を考慮すれば……父さんが護衛していたものはデバイスの中でも特別な物だと言う可能性が高い。
 デバイスじゃなかったとしても昔からこの世界にある場違いの工芸品……それも管理局からすれば特別な物だったと考えられる。
『そして、任務の際に狙ってきた人間を一臣は片っぱしから斬り捨てたと言うのがこの事件の真相になるかしらね』
「成る程……」
 これで、ある程度だが納得出来た。
 まず、フェイト達の言っている側の言い分からすると……。
 そのオーパーツを保護するという目的なのだろう。
 話によればそう言った物を保護すると言った任務は多数あると言うことらしいからな。
 多分、この事件もその任務の一貫だったと考えられる。
『一臣はこの事件のことを深くは語らなかったわ。唯、解っていることは普通の人間が相手じゃ無いってことだけ』
 やはり、夏織さんも父さんが戦った相手が普通の人間では無いと言うことを理解している。
 そして、フェイトの話と合わせると……魔導師が相手で間違いないだろう。
 オーパーツが何かまでは確証が持てないが、魔導師が父さんの任務の妨害に入ったと言う感じか。
 それに、父さんと戦った魔導師は全滅している。
 父さんは裏の流派である御神不破流の正統後継者だ。
 介入した魔導師が全滅していると言う結果にも納得出来る。
 恐らくだが、父さんは元々から殺すつもりで魔導師と戦ったに違いない。
 でなければ、ああまで被害を出すことも無いだろう。
 酷いようにも見られるが、これは父さんから見れば当然のことだ。
 更には、一切のを口封じると言う意味も含まれている。
 最も、父さんもここまで遣ったりする人じゃ無い。
 幾らなんでも全滅まではさせないと思う。
 精々、やるとすれば再起不能にするくらいだろうし。
 そう考えれば……やはり、父さんの激鱗に触れたと言うのが答えだと思う。
 フェイトには悪いが……これは魔導師側の自業自得だと言えるな――――。



































 From FIN  2008/12/16



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