「一臣はある護衛の際にそう言った人間を多数相手にしている。俺の記憶が正しければその時の生存者はゼロだ」
「生存者ゼロ……」
「……恐らくは一臣の激鱗に触れたんだろう。あいつがそこまで遣ることは殆どないからな」
「父さん……」
「詳しいことは言えないが、一臣が戦った相手は俺達の常識外の相手だったらしい。まぁ、ちらっと聞いただけの話だがな」
そう言って苦笑する士郎さん。
父さんの生前は何があったのは解らない。
だが、父さんが戦っていたのも常識が通じない相手だと言うのは間違いなかったらしい。
士郎さんはちらっと聞いただけだと言っているが……。
恐らくは真相を知っているに違いない。
あえて、伏せたのは今の俺が知ってはいけないことなのか、それとも……夏織さんから聞いた方が良いのか。
なんにせよ、今は何を聞いても無駄なんだろう。
とりあえず、士郎さんに話をするべきことは全て話し終えた。
後は……夏織さんからの連絡を待つだけだ。
そう言えば、少しだけ気になったが……。
夏織さんは一臣父さんの真相を知っているのだろうか――――?
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
士郎さんから意味深な話を聞かされた後、俺は部屋に戻る。
あまりにも意外なことをしていた俺の父、不破一臣のこと……。
一体、何の護衛の時にそんなことをしたのだろうか。
少なくとも、普通の人間よりも多く戦っているということ自体が可笑しい。
HGSの人間と戦っているのか、それとも俺の知らないような人間と戦っているのか……。
それは俺には解らない。
だが、父さんが俺には想像も出来ないような相手と戦っていたのは間違いないだろうと思う。
しかし、どんな相手だったのかまでに心当たりはない。
士郎さんも何かを知っているようだが……。
先程の話だけでは確証は取れなかった。
(さっきの士郎さんの口振りからすると……そう簡単には話せない相手だと言う可能性が高いな……)
それか、士郎さんも確証を得ていないかだ。
まぁ、考えても仕方がないのかもしれないが……。
どちらにしろ、今の段階ではそれを知る術はない。
夏織さんからの連絡を待たなくては。
先程、士郎さんに連絡を入れたということは俺の方もそろそろだろう。
夏織さんから連絡が来たら、俺もこの海鳴でどうするべきかがはっきりするだろう。
時空管理局に対する返答も、俺が海鳴に何時までいるのかも……。
既に俺の目的の一つは、完遂している。
後は、大事な人を見付けると言うことだけだ。
だが、俺の心の中ではフェイトが大きくウェイトを占めている。
なのはさんにもはやてにもアリサにもすずかにも感じない感情……。
それがフェイトに対して、渦巻いている気がする。
だが、気持ちがはっきりしてきたとは言っても心を決めるだけの時間が残っているかどうか。
こう言ったことは誠意を持って相対しなくてはならない。
フェイトの気持ちから考えても無碍にするわけにもいかない。
彼女の気持ちを踏み躙る真似だけはしたくない。
解っていることはフェイトはもう、俺の心に踏み込んで来ている。
唯、それだけが俺の中で出来ている真実だった。
暫くの間、物想いに耽っていると自分の電話が鳴る。
(もしかすると、夏織さんか……?)
と思って電話を確認する。
電話の相手を確認すると、相手はフェイトからだった。
少し、意外に思ったが、気を取り直して電話に出る。
「もしもし」
『あ、悠翔……。今、大丈夫かな?』
「ああ、大丈夫だ。いったい、どうしたんだ?」
『うん、ちょっとね……』
何やら歯切れの悪いフェイト。
いったい、何があったのだろうか?
『悠翔のことで義母さんと話してたんだけど……』
「……ああ。確かリンディさんだったか」
『うん。それで、少し気になったことがあって……』
「成る程。それで、俺に電話をしてきたってことか。それで、いったい、どう言った内容なんだ?」
『えっと……詳しいことは話せないんだけど……悠翔は以前に大きな事件があったって知ってる?』
「大きな事件?」
『……うん。私達の方にとっては凄く大きな事件。でも、悠翔の方では大きな事件じゃなかったかも』
フェイト達にとって大きな事件で、俺達の方では大きくない事件?
「いったい、どういうことだ?」
『えっと……その、以前に大量に人が殺された事件……って言えば良いのかな? 悠翔はそう言ったことを聞いてない?』
人が大量に殺された事件……?
少なくとも俺の周りではそう言った人間はいないはずだが……?
「いや、俺に心当たりはないが……」
『そう、なの?』
「……ああ、無いとは思う」
そう、俺が聞いた話では無かったはずだ。
だが……士郎さんが言っていたことがフェイトの言っていることと一致するのであれば話は大きく変わってくる。
俺もその話は知っていると言えるが、確証は持てない。
唯、気になることとすれば……俺の父、不破一臣が関わっている可能性があると言うことだろうか。
だが、それも聞いた話でしか無い。
確証が持てるとは言い難いものだった。
しかし、俺もフェイトの気になっている話は解らない。
いったい、どういうことだ……?
あれからもフェイトからは幾らかの話を聞いてみたが、結局は確証は得られないままだった。
それどころか、疑問は増えるばかりだった。
フェイトの言っていた話の中には伏せられているものが多い。
その話の中だけで推理するには俺の経験ではとても無理なものだった。
これだけの情報では、話がいま一つ見えてこない。
何故、そう言った殺人事件が起きたのかが解らない。
だが、士郎さんの言っていたことと照らし合わせると何処かが違う気がする。
士郎さんの言い分だと殺人事件とは何処か違うものに感じる。
寧ろ、父さんの方が護衛の側だと言える。
護衛をする上では、対象者を守るために多くの人間を斬ることが多い。
あくまでそれは正当防衛であり、合法ギリギリのラインでもある。
そう言った視点からすれば可笑しいのはフェイトの言っている方の言い分だ。
しかし、フェイトの言っていることが嘘だとも言えない。
互いが互いの視点で正しいことを言っている……そう言った感じだろうか。
寧ろ、正しいことを言っているからこそ、混乱する。
何処かで食い違っていて、何処かで食い違っていない……。
尚更、難しい問題だと言える。
結局は大した助言も出すことが出来なかった。
俺の経験不足もあるかもしれないが……あまりにも、情報が足りなさすぎる。
いったい、フェイトの言った事件がなんなのかが解らない。
士郎さんが言っていたのはあくまで俺の父さんが護衛に付いていた際に多くの異能力者と戦ったと言うことだけだ。
あくまでそれだけでしかない。
だが、フェイトの側の言っている大量の殺人事件……。
証拠は無いが、魔導師のことを指している可能性がある。
だが、表向きに魔導師が動くということも考えられない。
寧ろ、そのような行為に動いたとすれば父さんが魔導師を斬るというのは当然のことだ。
父さんの方はあくまで対象者、または対象物を護衛する側の立場なのだから。
しかし、それもあくまで俺の想像の中であり、結局は俺の頭の中でも答えらしい、答えは出ない。
今はこれ以上考えてもどうしようもないか――――。
俺はとりあえず、その考えを頭から振り切ろうとした。
その瞬間――――俺の電話が鳴り始めた。
その、電話の相手は――――。
――――不破夏織
From FIN 2008/12/14
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