「ふむ……原因は奥義の遣い過ぎと聞いているが」
「概ね、その通りです」
「……と言うことは、遣った奥義は、雷徹が主だったんだろう。後は、射抜・追に薙旋……全部の手を遣ったんじゃないか?」
 様子を確認しただけで、俺が全ての奥義を遣ったことを看破する士郎さん。
 やはり、長い戦歴を持つ御神の剣士というのは伊達じゃ無い。
「はい、全部士郎さんの言う通りです。それでも立ち合いの方には負けてしまいましたが」
「……そうか。流石に忍ちゃんのところのは強いな。悠翔の場合はすずかちゃんの方を相手にしたんだろうが」
 既に前情報があるのか、ファリンとノエルさんの実力のことも士郎さんは知っている様子だ。
 もしかしたら、一度くらいはファリンとノエルさんの相手をしたことがあるのかもしれない。
「最近、悠翔は腕を痛めることが多いみたいだが……流石に相手が悪いか?」
「そうかもしれませんね」
 士郎さんの相手が悪いという言葉に苦笑する。
 最近、俺が戦った相手は手加減出来ない人ばかり。
 シグナムもなのはさんもファリンも……全員が右腕一本で対処出来るような相手じゃない。
 普通の相手であれば確かに右手一本でも相手には出来るだろう。
 しかし、最近の相手は全員、そう言った予断は許されない。
 奥義の撃ち過ぎと言うのは相手の都合も大きいとはいえなくもない。
 これは俺の力量不足故のことだからあまり、強くも言えないが……。
 なんにせよ、今回の士郎さんが言っていることは正にその通りだった。
 今日のことを踏まえて、俺はもっと自らを磨いていかなければならない。
 まだまだ、修行が足りないな――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 一旦、士郎さんとの話を区切り、夕飯を御馳走になる。
 桃子さんの作る料理は本当にどれも美味しい。
 とにかく、食べられるだけ食べてしまった。
 普段からは大人数で食事をするということはあまりない。
 美沙斗さんと夏織さんと食事をする時は2〜3人だからな。
 たまに美沙斗さんの部下である弓華さんや上司である啓吾さんを交えて食事をしたりすることもあるが。
 逆に凄い人達に囲まれ過ぎて恐縮する部分もあったりする。
 高町家では士郎さんや恭也さんがいるとはいえ、桃子さんとなのはさんのお陰で緊張することなく食事させて貰える。
 そう言えば、美由希さんとはあまり食事したことがないな……。
 一緒に食事をしたのは香港に来ている時くらいだろうか。
 頭の中でそんなことを考えつつ、食事を済ませる。
「御馳走さまでした」
 桃子さんに感謝をしつつ手をあわせて御馳走さまの言葉を伝える。
「御粗末さまでした」
 桃子さんも満足そうな表情で応じてくれる。
 俺はそのまま、食後の片付けを手伝い、食器をなのはさん達と一緒に片付ける。
 食器を片づけた後、俺は士郎さんに呼ばれた。
「風呂に入った後で良いから、俺の部屋に来てくれ」
「……解りました」
 簡潔に用件を済ませ、俺は急いで風呂に入らせて貰う。
 あまり、待たせても不味いと考え、急いで汗を流し、身体を温めてから直ぐに風呂から上がる。
 士郎さんが部屋に呼んでまで話があると言うことはここでは言えないような重要な話なんだろう。
 考えられることとすれば、夏織さんのことの可能性が高い。
 夏織さんについてはそろそろ、連絡がくる頃だろう。
 多分、士郎さんに連絡を入れているという可能性が高い。
 夏織さんのことに関しては海鳴に来てからどうするかというのもある。
 俺も今後、どうするべきかは夏織さん次第のところもあるからな。
 なんにせよ、士郎さんの部屋に行ってみてからだな――――。
















「失礼します」
 頃合いを見計らって士郎さんの部屋へ入る。
 そこには道具の手入れをしている士郎さんがいた。
「悠翔か。呼び出して済まないな」
「いえ、そんなことありません」
 そのまま、部屋に入り、士郎さんの道具を見定めさせて貰う。
 流石に俺のものよりも細かい部分で充実している。
 特に鋼糸のバリエーションは俺よりも考えられているものだ。
 人を縛るためのものと殺すためのものがはっきりと分けられている。
 士郎さんほどの剣士になればどのくらいのものが一番、遣い勝手が良いかくらいは直ぐに解るのだろう。
「悠翔、何か参考になりそうなものでもあったか?」
「そうですね……やはり、鋼糸は俺のものよりも考えられていると思います。やはり、俺じゃこうはいかないです」
「まぁ、鋼糸の番号などに関しては自分で合わせていくしか無いからな」
 鋼糸に関しては士郎さんの言うとおりだ。
 こればかりは色々と遣ってみて自分で合わせていくしかない。
「悠翔、小太刀を少し見せて貰えるか?」
「あ、はい」
 俺は士郎さんに念のため持ってきていた小太刀を手渡す。
 暫く、士郎さんは俺の小太刀を様々な角度から検分する。
「大分、痛んでいるな。そろそろ、小太刀の方が限界だ」
「ええ、そうですね……流石に行使し過ぎた感があります」
「だろうな。悠翔は相応の段階の人間と戦っている。それも、人では無い段階でな。その分が大きく影響しているだろう」
 士郎さんの見立てのとおり、俺の小太刀は度重なる戦闘で傷んでいる。
 飛鳳であれば当然、そんなことは無いのだが……。
「小太刀の件はあまり、心配しなくても大丈夫だ。夏織がそろそろ、此方に着くみたいだからな。とりあえず、明日には会えるだろう」
「夏織さんが?」
「……ああ。先程、俺の方に連絡を寄こしてきた。多分、後で悠翔にも連絡を寄こしてくると思う」
「解りました」
 小太刀の件についてはどうするか考えていたが……夏織さんが来るなら問題ない。
 間違いなく、預けておいたはずの飛鳳が俺の手元に返ってくるからな。
「さて、俺が悠翔を部屋に呼んだ本題だが……ここ最近の悠翔の立ち合いの話を聞きたくてな」
「……成る程」
 士郎さんが俺を部屋に呼んだ理由が納得出来た。
 夏織さんのこともあるが、最近の俺が立ち合った相手については細かくは士郎さんと話してはいない。
 士郎さんが俺がどう立ち回ったか気になるのは当然かもしれない。
「では……シグナムの時から」
 俺は士郎さんの意図を理解し、語り始める。
 士郎さんは俺の立ち合い方についてどう思うだろうか――――。
















「ふむ……大体は理解出来た。悠翔が左腕を痛めたのも、小太刀が傷んでいるのも納得だな」
 一通り今までの立ち合いを士郎さんに話し終える。
 大体の話だけで大体の内容と状況を理解出来る士郎さんは流石と言ったところか。
「……俺の力不足故のことですけどね」
「いや、相手との差を踏まえれば悠翔はよくやった方だろう。普通の得物で魔法相手に立ち回っているからな」
「そうでしょうか……?」
「ああ。流石に連戦でそれだけ戦えば腕を痛めるのも小太刀を傷めるのも仕方がない。まぁ、雷徹の遣い過ぎと言うのは否定出来ないけどな」
 やはり、雷徹の遣い過ぎと言うのが原因として大きいらしい。
 特にシグナムとの戦闘で多用しているのが大きい。
 シグナムの剣に対して、雷徹で斬り付け、更には鎧に対しても雷徹を撃ち込んだ。
 小太刀が痛んだ要因としては更にシグナム自身を斬り捨てたというのも含まれる。
「逆を言えば、雷徹をそこまで撃ち込まなければならない状況の方が可笑しいんだがな。普通なら斬り捨てた段階で終わっている」
 士郎さんの見解でもやはり、斬り捨てた時点で終わっていないのが常道から外れているらしい。
 シグナムが倒れなかったのは魔法に守られていたからと言うのが理由だが。
「後は、すずかちゃんの方のファリンさんだったか。其方に関しても常識の通じない相手だからな。多少は仕方が無いだろう」
 多少はと言われても何やらかなり奥義等を多用した印象が拭えないのだが。
 シグナムとファリンとの戦いから換算するとどれだけ、奥義を遣ったのか。
 少なくとも普段よりも多用している。
 普段は奥義をそこまで遣ったりする必要はないからな。
 普通に間合いを詰めて斬り捨てるか、基礎乃参法を駆使すれば如何にでもなる。
 左腕を遣うのは状況次第で充分だ。
 しかし、シグナムとファリンとの戦闘に関しては普段と同じ手段は通じない。
 まさに常識外れな相手だと言っても差支えない。
「だが、魔法を相手にそこまで戦えるとは流石に一臣の息子だな。あいつも生前はこういった相手と戦うことが多かったからな。下手をすると普通の相手よりもな」
「父さんが?」
 士郎さんからは意外な言葉が。
 一臣父さんが常識の通じない相手と戦うことが多かったというのは初めて聞いた。
 確かに父さんほどの剣士であればそう言った相手と戦うことが多いのは当然だと思ったが……普通は”多い”と言うことはありえない。
 普通に済ませられる相手の方が多いのが普通だろう。
「一臣はある護衛の際にそう言った人間を多数相手にしている。俺の記憶が正しければその時の生存者はゼロだ」
「生存者ゼロ……」
「……恐らくは一臣の激鱗に触れたんだろう。あいつがそこまで遣ることは殆どないからな」
「父さん……」
「詳しいことは言えないが、一臣が戦った相手は俺達の常識外の相手だったらしい。まぁ、ちらっと聞いただけの話だがな」
 そう言って苦笑する士郎さん。
 父さんの生前は何があったのは解らない。
 だが、父さんが戦っていたのも常識が通じない相手だと言うのは間違いなかったらしい。
 士郎さんはちらっと聞いただけだと言っているが……。
 恐らくは真相を知っているに違いない。
 あえて、伏せたのは今の俺が知ってはいけないことなのか、それとも……夏織さんから聞いた方が良いのか。
 なんにせよ、今は何を聞いても無駄なんだろう。
 とりあえず、士郎さんに話をするべきことは全て話し終えた。
 後は……夏織さんからの連絡を待つだけだ。
 そう言えば、少しだけ気になったが……。
 夏織さんは一臣父さんの真相を知っているのだろうか――――?



































 From FIN  2008/12/12



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