「でも、腕を遣う際は気を付けてください。そうですね……悠翔君の場合はサポーター等をするようにした方が良いと思います」
 そう言って俺の左腕にサポーターを付けてくれるフィリス先生。
 何故か、付けて貰ったサポーターはしっくりくるような気がする。
「サポーターの方は悠翔君の腕の状態を踏まえて準備したものですから、あわないってことはないと思いますけど」
 いや、フィリス先生の言うとおりだ。
 俺の腕にあわないってことはないと思う。
 寧ろ、しっかりとした感じがあるくらいだ。
 今までは付けていなかったから多少の違和感があるが、このくらいしっかりしているのなら付けておいた方が良いと思う。
 良いものを出してくれたフィリス先生には本当に感謝しないといけない。
「とりあえず、今日のところは以上ですね。出来れば、今度は保護者の方がいらっしゃる時に来て貰えると良いですけども」
「はい、解りました。……フィリス先生、ありがとうございます」
 どうやら、今回の診察はここまでらしい。
 俺はフィリス先生に頭を下げる。
 ここまでやって貰えるのは有り難いけど、流石に申し訳ない気もした。
「いえ、気にしないで下さい。これも私の務めですから」
 俺が何を考えているのか解っているらしくフィリス先生は気にしないで下さいと言った感じの表情をする。
 この人は――――本当に凄い。
 俺の方が無茶をしているのに色々と診てくれて。
 今回も殆ど、いきなりの形だったのにしっかりと診てくれた。
 そのことが本当に有り難かった。
 俺はもう一度、フィリス先生に頭を下げ、診察室を後にする。
 フィリス先生に診て貰った左腕からはもう、痛みは殆ど感じなかった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「あ、悠翔!」
 俺が診察室を後にし、待合室の方へと戻るとフェイトがぱたぱたと俺の傍によってくる。
 今か今かと俺のことを待ってくれていたのかもしれない。
「腕の方は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。ほら、このとおり」
 俺の腕のことを尋ねてくるフェイトに軽く腕を動かしてみせる。
「良かった……」
 思ったよりも大丈夫そうな俺の様子に安堵するフェイト。
 本当はフィリス先生のアレの御蔭で微妙に危ない感じだったりもするのだが。
 フェイトの安心した表情を壊してしまうような真似をするわけにもいかない。
「でも、心配したんだよ? 悠翔がこうやって腕を痛めたのはシグナムの時から続けてだし」
「……そうだな」
 フェイトの言うとおり、俺が左腕を痛めたのはシグナムとの戦闘から続けてだ。
 シグナムの時も奥義の撃ち過ぎによる左腕の負担が原因だった。
 そして、今回のファリンとの時も奥義の撃ち過ぎによる左腕の負担……。
 原因としては全く、同じだと言える。
「そんなに腕を痛めるってことは悠翔の奥義はそんなに腕に負担がかかるものなの……?」
 俺はフェイトの質問に考え込む。
 一番、左腕に負担をかけている奥義は恐らく、雷徹だろう。
 雷徹は衝撃を徹すということを更に発展させたものだと言っても良い。
 威力と言ったものから換算しても一番、雷徹が受ける反動も含めて大きいだろう。
 俺が左腕で雷徹を遣うのはこれが一番、大きく効果を引き出せるからだ。
 右腕でも雷徹を遣うことは当然出来るが、やはり左腕に比べると劣ってしまう。
 普通に左腕で雷徹を遣うだけならば、ここまで負担はかからないが。
 最近の場合は、間髪入れずに連続で使用している。
 今回の場合はファリンに雷徹が通じにくいと判断し、連続使用はしていない。
 しかし、雷徹を遣うにももっとよく考える必要がある。
 どうしても、腕に来る反動を考えれば連続使用は避けなければならない。
 一度撃った雷徹の反動を残したまま、次の雷徹を撃つと言った形をとった……これが結局の原因だろう。
 ファリンとの場合は射抜にしておいたのだが、やはり、反動と言う意味合いでは雷徹よりは負担は軽い。
「そうだな……。負担と言う意味ではシグナムと戦った時の方が大きかったかな」
「シグナムと戦った時?」
「そう言うことだ。まぁ、話の続きは戻りながらにしよう。病院に長居するわけにいかないしな」
「あ、うん」
 病院でこのまま、フェイトと話し続けるわけにもいかない。
 俺はフェイトを促し、病院を後にする。
















「さて……と今の話の続きなんだけど」
「うん」
 俺はフェイトを連れだって高町家への道を歩いていく。
 距離はあるが、まぁ……フェイトと歩くと考えればそれは悪くない。
 フェイトの質問にもそれなりにはちゃんと答えられるだろうしな。
「シグナムとの戦いの時の方が負担が大きいと言ったのは雷徹を連続で遣ったからだ」
「雷徹……。えっと、悠翔がシグナムのレヴァンテインを斬り落した時に遣った奥義だったかな?」
「ああ、そうだ。後、シグナムとの戦いの時は最後にシグナムに止めを刺した時にも雷徹を遣っている」
「え? ってことは悠翔は殆ど連続でその奥義を遣っていたってこと?」
「そうなる、な」
 フェイトの答えに頷く俺。
 シグナムの時は殆ど、連続で雷徹を遣っている。
「だが、逆にファリンとの時は雷徹は一度に止まっている。正しくはファリンに雷徹が通じなかったからなんだけど」
「通じなかった? でも、ファリンさんは確かに悠翔の奥義を受けていたと思うけど……」
「外から見ればそう見えるかもしれないな。でも、実際に立ち合った身としては良く解る。ファリンは雷徹の打点をずらしたんだから、な」
「え……? ファリンさんも?」
 俺の打点をずらしたという言葉に驚くフェイト。
 フェイトには何か心当たりがあるのかもしれない。
「もしかして、フェイトもそれをやったことがあるのか?」
「うん、多分……あると思う。恭也さんと立ち合った時に。私の場合は衝撃を感じた時に自分から飛ばされた感じだったんだけど」
「……成る程」
 フェイトの答えになんとなく、納得出来る。
 ファリンの場合は俺の雷徹を見切った上で打点をずらした。
 フェイトの場合はもしかしたら、自分から飛んだと言っている。
 衝撃を逃がすには打点をずらすか、自分からその衝撃に飛ばされるかと言った方法がある。
 そのまま、踏みとどまるからこそ衝撃を内部に徹すということが出来るのだから。
 逆にその衝撃をずらすか逃がしてしまえばその効果は大幅に軽減出来る。
 フェイトのとった方法は理に適っている方法だ。
「と言うことはフェイトを相手に雷徹は遣っても効果は薄いってことか」
「え、そんなことは、ないんじゃないかな?」
 フェイトは雷徹をずらすことが出来たと言うことにあまり自覚がないらしい。
 実際は瞬時にそういったことが出来るのは凄いのにも関わらずだ。
「いや、恭也さんの雷徹を凌げてそれはないだろう。俺の雷徹は恭也さんのものよりも精度が低いんだから」
「え、えっと……」
 俺の追及に困った表情をするフェイト。
 実際は褒めているんだが、フェイトにはそうは受け止められなかったらしい。
 何やらどぎまぎしている様子だ。
 ちょっとだけ困っている表情も可愛らしい。
 ……別に困らせてるつもりは無いんだけどな。
















「え、えっと……」
 私は悠翔の言葉に困ってしまう。
 悠翔は私が恭也さんの雷徹を凌げたことを凄いって言っているみたいだけど……。
 私にはあまり、そう言った実感がなくて。
 自分から飛んだのは自分が飛べるからってだけだし……。
 ファリンさんみたいに打点を自分でずらすなんて出来ないから。
「いや、別に困らせるつもりじゃないんだけど」
 私がどぎまぎしているのに気付いた悠翔が苦笑する。
「あぅ……」
 なんか恥ずかしい。
 悠翔はそんなつもりで言ったんじゃないのに。
 私は自分で勝手に困ってしまって。
 やっぱり私は変な娘なのかもしれない。
「……やれやれ」
「悠翔……?」
 しょぼんとしてしまった私に悠翔が軽く頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「別にフェイトが悪いわけじゃないんだから。気にしなくても良い」
「う、うん」
 私を気遣ってくれる悠翔。
 でも、ちょっとだけ……変な考えに走ってしまって良かったと思ってしまった私がいる。
 悠翔に撫でて貰えたからなのかも。
「まぁ、変な方向に話が行ってしまったけど……奥義に負担がかかると言う理由に関しては大体、こんなところだ」
「と言うことはやっぱり、雷徹が原因なの?」
「そういうことだな。でも、雷徹は俺が最も、得意とする奥義……それなのに今の俺にはリスクが伴う。そんな感じだな」
「悠翔……」
 そう言った悠翔の表情は何かを悟ったかのようで。
 自分の一番、得意とするものがリスクを伴うなんて……どれだけ大変なんだろう。
 しかも、悠翔は利き腕も悪くて。
「でも、そこは遣りよう次第だ、な。俺も色々と考えたり試しながら剣術の形を創っている。そう言った意味では良い戒めだよ」
「……うん。そうだね」
 悠翔はあまり、左腕が悪いということは触れない。
 寧ろ、悪いからこそ出来ることがあるって思っているみたい。
 でも、私には悪い箇所を抱えたままで……ということについて考えがとても働かない。
 これはやっぱり、私が何処にも悪い箇所を抱えていないからかも……。
 私がそう言ったことを考えているとは気付いていないのか悠翔の表情は既に割り切った様子。
 今日の診察で何を言われたのかは解らないけど……すぐに意識を切り換えられる悠翔は凄い。
 私だったら、きっと……こうはいかないんだろうな……。



































 From FIN  2008/12/6



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