でも、このくらいの刀傷だったらしょっちゅうだし、別に大丈夫……。
「……悠翔君。これくらいの傷だったらしょっちゅうだから大丈夫とか考えてますね?」
「えっ!? あ、いや……」
 図星をつかれてうろたえてしまう俺。
 明らかに俺が考えていたことがフィリス先生に筒抜けになってしまっている。
 もしや、心を読んだのか……?
 フィリス先生はHGSだ。
 そう言ったことが出来ると言う可能性は充分に……。
「そんなことしなくても、なんとなく解りますよ。悠翔君は恭也君と同じようなタイプみたいですから」
 ああ、成る程。
 別に心を読んだわけでは無いと……その割には思いっきり考えていたことがバレバレなのだが。
 やはり、フィリス先生は凄いのかもしれない。
 と言うより恭也さんも俺と似たような感じだったらしい。
 多分、そのせいもあるんだろう。
 とりあえず、そう言った事情を考えて俺は納得する。
 しかし、俺が恭也さんと同じようなタイプってことは……俺のここから先の運命は最早、定まったと言っても良い。
 要するに……また、アレを受けないといけないのか――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「さて、とそろそろマッサージでもしましょうか?」
 最早、運命は決まったと思った矢先、早速フィリス先生から死刑宣告が下る。
 俺が考えていた直後に言うなんて、なんかタイミングを完全に見計らっていたようにも感じなくもない。
「えっと……」
「どうしました?」
 返事を渋る俺にフィリス先生は可愛らしく尋ねる。
 フィリス先生のそういう態度に戸惑う俺。
 多分、他意はないんだとおもう。
 しかし、そういう風に尋ねられても困るものは困る。
 だが、結局は何をやっても変わりはしない。
 俺は覚悟は既にしていたはずだ。
 だったら、このままいくしかない。
「いえ、なんでもないです。……お願いします」
「はい、解りました」
 ここまできたらどうにでもなれだ。
 多少の問題はあるといってもこれは俺自身のためにもなるのだから。
 俺の意志を確認したフィリス先生は早速、俺の左腕を診始める。
 初めはじっくりと俺の左腕の様子を確認するように診ていく。
 フィリス先生が軽く触っていくだけで一部、痛む箇所がある。
 ここは、肘の付近だろうか。
 俺が悪くしている箇所の一つ――――。
 今日も、思った以上に奥義を遣っている。
 特に雷徹を遣った分の反動がそのまま、きていると言った感じか。
 普通にしている分にはあまり痛まなかったが、こうして直接触られると痛みのある箇所が実感出来る。
 悪くしている箇所が痛むというのは当然のことなのだろう。
「う〜ん……やっぱり肘の辺りの反動が大きいですね」
 フィリス先生も俺の肘の方に反動が溜まっていると判断しているらしい。
 念入りに肘の部分の状態を確認していく。
 フィリス先生が確認していくその度に俺の左腕の肘からは痛みが走る。
 やはり、無理が祟っていたのかもしれなかった――――。
















「う〜ん……こうやって診てると解りますけど……悠翔君が左腕に負担をかけてしまうのは、利き腕だからですよね」
「……はい、そうです」
 フィリス先生の質問に頷く。
 どうして、左腕に負担をかけるのかと尋ねられれば、やはり左腕が利き腕だからとしか言いようがない。
「今はまだ、良いですけど……このままですとやっぱり宜しく無いですね」
 フィリス先生が俺に忠告してくれる。
 確かにフィリス先生の言うとおり、宜しく無いというのは本当かもしれない。
「このまま、安静にしていれば、徐々に治ってはいくとは思います。時間をかければきちんと完治もするかと思います」
 フィリス先生が更に捕捉で説明をしてくれる。
「でも、悠翔君はそう言うわけにはいかない立場なんですよね?」
「ええ……まぁ、そうですね……」
「でしたら……もう少し左腕を大事に遣うことです。今は良くても時期に手術も必要になってくるかもしれませんし」
「……そうですね」
 フィリス先生の言葉は重要だった。
 やはり、ここ数日で自分の左腕の悪さを実感してしまう。
 シグナムと立ち合い、なのはさんと立ち合い、ファリンと立ち合って……。
 俺の左腕はほぼ、毎回のように悲鳴をあげている。
 今のところ、大丈夫なのがある意味で問題なのかもしれない。
 壊れた俺の利き腕……最早、何時限界がきても可笑しくはない。
 ここまでの段階にまでなってしまっている。
 だが、俺は剣を取ることを止めるわけにはいかない。
 それが俺の信念であり、剣士としての在り方なのだから。
「まぁ……これ以上言っても今はどうしようもないですし、そろそろマッサージにでも入りましょうか?」
 俺が考えごとをしているのを肯定の沈黙と受け取ったフィリス先生がマッサージの準備を始める。
 ここは個人的に断りたいが……そうもいかない。
 フィリス先生のマッサージは地獄とはいえ、その後は随分と楽になるからだ。
 ここさえ凌げば、全く問題はない――――。
 そう、ないのだが――――。
「それじゃあ、早速……」
 フィリス先生がマッサージに入る。
 初めはゆっくり優しく……。
 その後は……徐々にペースが上がってきて……?
 最早、その後のことは俺の頭の中に記憶は殆ど残っていなかった。
















 暫くして漸く、意識がはっきりとしてくる。
 またしても、俺の意識は別のところへといってしまっていたらしい。
 それだけ、何も考えたく無かったんだろうな、フィリス先生のマッサージは。
 そして、こういった言い方は失礼だが、その副作用で俺の左腕は随分と軽くなっている。
 こうやって診て貰うのは3度目だが、フィリス先生の力量は本当に凄い。
 診察して貰ってここまで状態が良いのはフィリス先生が初めてだ。
 今までは、一度腕を痛めると暫くは痛みが残ったままだったからな。
 フィリス先生の場合はそれが殆どない。
 少しくらいは残るとはいえ、左腕の調子は随分と良好だ。
「どうですか? 悠翔君。左腕の方は」
「ええ。随分と楽になりました」
 俺は軽く腕を動かしながら答える。
 痛み自体は殆ど感じられない。
 先程までの痛みが嘘のようだ。
 一体、何をどうすればこうなるのかとも思わなくもない。
「でも、腕を遣う際は気を付けてください。そうですね……悠翔君の場合はサポーター等をするようにした方が良いと思います」
 そう言って俺の左腕にサポーターを付けてくれるフィリス先生。
 何故か、付けて貰ったサポーターはしっくりくるような気がする。
「サポーターの方は悠翔君の腕の状態を踏まえて準備したものですから、あわないってことはないと思いますけど」
 いや、フィリス先生の言うとおりだ。
 俺の腕にあわないってことはないと思う。
 寧ろ、しっかりとした感じがあるくらいだ。
 今までは付けていなかったから多少の違和感があるが、このくらいしっかりしているのなら付けておいた方が良いと思う。
 良いものを出してくれたフィリス先生には本当に感謝しないといけない。
「とりあえず、今日のところは以上ですね。出来れば、今度は保護者の方がいらっしゃる時に来て貰えると良いですけども」
「はい、解りました。……フィリス先生、ありがとうございます」
 どうやら、今回の診察はここまでらしい。
 俺はフィリス先生に頭を下げる。
 ここまでやって貰えるのは有り難いけど、流石に申し訳ない気もした。
「いえ、気にしないで下さい。これも私の務めですから」
 俺が何を考えているのか解っているらしくフィリス先生は気にしないで下さいと言った感じの表情をする。
 この人は――――本当に凄い。
 俺の方が無茶をしているのに色々と診てくれて。
 今回も殆ど、いきなりの形だったのにしっかりと診てくれた。
 そのことが本当に有り難かった。
 俺はもう一度、フィリス先生に頭を下げ、診察室を後にする。
 フィリス先生に診て貰った左腕からはもう、痛みは殆ど感じなかった。



































 From FIN  2008/12/4



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