悠翔はもう、自分のことだから割り切っているみたいだけど……私だったらきっと、割り切れない。
 自分にとっての大事なところに障害を持っているってどれだけ、辛いことなのか。
 もし、悠翔のように利き腕を壊していたら私は魔導師としていられない。
 悠翔みたいに出来るなんて思えない。
 利き腕とは違う腕をここまで遣えるようにするまで悠翔はどこまでの努力をしたんだろう。
 それは私にはとても、想像出来るものじゃないと思う。
 でも、悠翔はそれでも付き合っていくと決めているみたいで。
 左腕のことを悲観的に思っていない。
 私だったら、きっと……魔法で治して貰うと思う。
 悠翔の怪我の度合いなら此方の技術なら治せるはず……。
 けど、悠翔がそれを聞き届けてくれることは無いんだと思う。
 既に悠翔は一度、拒否をしているから……。
 私の気持ちを知ってか、知らずか悠翔は私の頭を優しく撫でてくれる。
 悠翔が私のことを気にしてそうしてくれてるのは解ってるけど……。
 ううん……寧ろ、撫でて貰えて嬉しいけど……。
 じゃなくて、えっと……なんて言えば良いのかな?
 ああ……でも、悠翔に撫でて貰うのって気持ち良い……。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 少しだけ私が頭を撫でて貰っている余韻に浸っていると悠翔の名前が呼ばれる。
 そろそろ、悠翔の順番が回ってきたみたい。
「ん……そろそろ行かないと」
「ああ、解ってる」
 悠翔が私の頭を撫でるのを止めて、席を立つ。
 ちょっとだけ名残惜しいんだけど……悠翔の左腕は見て貰わないと駄目だからそんなことは言っていられない。
 悠翔の左腕はそれだけ、無理をしているんだから。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、悠翔。頑張ってね?」
「……そうだな。覚悟しておかないと、な」
 悠翔の何かを覚悟しているかの表情。
 そういえば……悠翔が腕を見て貰った後は何故か、疲れ果てていたような……。
 何があったかは聞いてなかったけど……診察であれだけ疲れるなんて何をしているのかな?
 悠翔が言うには腕の痛み自体は随分と和らいだって言っていたけど……。
 でも、あれだけ疲れるなんて何をしているのか解らない。
 私から見れば無茶をしてるんじゃないかって思えるし……。
 普通、腕とかを見て貰うんだったらマッサージとかだよね?
 マッサージであんな風になるんなんて考えられないし……。
 そもそも、お医者さんであるフィリス先生が悠翔に無茶を言うとは思えないし。
 けど、悠翔は覚悟しておかないと……って言ってた。
 怪我を見て貰うのに覚悟がいる……とは流石に言い過ぎなのかもしれないけど……。
 でも、悠翔の表情は本当に何かを覚悟していたかのような表情で。
 う〜ん……全然、イメージが浮かび上がってこない。
 悠翔は一体、何に対して覚悟をしているのかな?
















 名前を呼ばれ、俺は診察室へと向かう。
 最早、覚悟のほどは出来ている。
 刀傷、そして……行使した左腕……。
 フィリス先生に怒られるのは百も承知だ。
 それに、ここまで左腕を遣ったあげくにまた、腕を痛めてしまっている。
 奥義の撃ち過ぎが要因とはいえ、ちゃんとそれを踏まえずに遣った俺の自業自得だ。
 とりあえず、溜息が洩れてしまう。
 ここまで、やらかしてしまうとはっきり言って何をされるか解らない。
 左肩に受けた刀傷と、首筋付近にある僅かな刀傷……。
 そして、奥義の撃ち過ぎによる反動での左腕の痛み……。
 これだけでも結構なものかもしれない。
 色々と追及されても可笑しくは無い。
 とりあえず、解っていることとして、既にマッサージは確定だが――――。
 色々と考えている間に診察室の前へと到着する。
 覚悟は既に出来ているが、別の意味でも本格的に覚悟を決めなければならない。
「失礼します」
「どうぞ」
 意を決して俺は診察室へと入っていく。
 フィリス先生からも返答が返ってくる。
 診察室へと入ってきた俺の姿を認めたフィリス先生は少しだけ驚き――――。
 何故か、大きく溜息をついた。
「悠翔君……やっぱり、貴方も恭也君と同じなんですね」
 診察室に入ってきた俺を見るなりいきなり呆れるフィリス先生。
 いや、はっきりとそこまで呆れられてしまうと俺も対応に困ってしまう。
 まぁ……確かに左腕に刀傷を受け、更には気をつけるようにと言われていたのに負担をかけてしまっている。
 これではフィリス先生がなんのために注意をしてくれていたのか全く解らない。
 呆れられるのも当然だと言えた。
 いや、これも全て俺が悪いんだけど……。
















「では、早速診ますけど……今度は何をしたんですか? 刀傷もありますし、腕も相当に負担をかけていますけど」
 呆れながらも俺の左腕を見ながらフィリス先生が尋ねてくる。
「いえ、ちょっと立ち合いを……」
「……立ち合いですか? そういえば悠翔君も剣を振るっているんでしたね」
「ええ、そうです」
「成る程……解りました」
 そう言って慣れた手つきで俺の刀傷の部分の手当てをしていくフィリス先生。
 斬り口に塗られた薬が滲みて、ズキッと左肩に痛みが走る。
 刀傷は比較的浅いとはいえ、刃物で斬られた傷だというのには変わりない。
 ぱっくりと傷が開いているとも言える。
 フィリス先生も全く、刀傷から目を逸らすことはない。
 寧ろ、全くもって動じてはいない。
 恐らく、こういった形の傷にも慣れているんだろう。
 まぁ、恭也さんの方も診ているって言っていたからな……。
 良く診てきているんじゃないかと思う。
 俺が色々と考えている間にフィリス先生は左肩の処置を終える。
 最後に包帯できっちりと左肩を巻いてくれた。
「はい。左肩の傷の方はこれで大丈夫ですよ。でも、何日かは気を付けた方が良いですね。また、傷口が開いてしまいますから」
 言っても無駄かもしれないですけどね、と付け加えながらフィリス先生が左肩のことを伝えてくれる。
 傷口についてはフィリス先生の言うとおりだ。
 比較的浅いとはいえ、ブレードで斬られているのだから見事にスパッと斬られていると言っても良い。
 普通に斬っただけとは違うと言える。
 でも、このくらいの刀傷だったらしょっちゅうだし、別に大丈夫……。
「……悠翔君。これくらいの傷だったらしょっちゅうだから大丈夫とか考えてますね?」
「えっ!? あ、いや……」
 図星をつかれてうろたえてしまう俺。
 明らかに俺が考えていたことがフィリス先生に筒抜けになってしまっている。
 もしや、心を読んだのか……?
 フィリス先生はHGSだ。
 そう言ったことが出来ると言う可能性は充分に……。
「そんなことしなくても、なんとなく解りますよ。悠翔君は恭也君と同じようなタイプみたいですから」
 ああ、成る程。
 別に心を読んだわけでは無いと……その割には思いっきり考えていたことがバレバレなのだが。
 やはり、フィリス先生は凄いのかもしれない。
 と言うより恭也さんも俺と似たような感じだったらしい。
 多分、そのせいもあるんだろう。
 とりあえず、そう言った事情を考えて俺は納得する。
 しかし、俺が恭也さんと同じようなタイプってことは……俺のここから先の運命は最早、定まったと言っても良い。
 要するに……また、アレを受けないといけないのか――――。



































 From FIN  2008/12/2



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