「……フェイト、このままで行こう」
「えっ!?」
フェイトが俺の反応に驚く。
先程、俺の理性が持たないと言ったのが大きいのだろう。
フェイト自身も俺が拒んだら止めようと思っていたに違いない。
「良いの……?」
フェイトが俺の言葉を確認するように尋ねる。
少し不安そうにしているが、フェイトの眼差しは嬉しそうに俺を見つめている。
「……ああ。別に良い。それに……俺もフェイトがこうしてくれるのは嬉しいから」
「悠翔……!」
俺の言葉が嬉しかったのかフェイトが嬉しそうな表情をする。
見惚れてしまうようなフェイトの笑顔……。
俺は唯、その表情に見惚れてしまう。
理由は解らないが、フェイトを見ていると俺の違う部分が訴えてくるような気がする。
この娘の笑顔を奪っては駄目だ――――。
俺の心がそう訴えてくる――――。
確証はない……だが――――。
間違いなく、俺は……フェイトに――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
フェイトと腕を組んだまま、海鳴を歩いていく。
すずかの家から病院までは決して近いわけではない。
速すぎず、遅すぎず、と言った感じで病院へと足を進めていく。
フェイトも俺にぴったりと合わせる感じでついてくる。
と言うかフェイトの方が俺から離れようとしないという感覚もあったりする。
少し、気恥かしい気もするが……それは嫌な気持ちではなかった。
なんとなく、微笑ましいというかなんというか……。
フェイトのような美少女にこうして貰えるというのは冥利に尽きるとも言える。
フェイトの方がどう思っているかまでは解らないが……。
自分からこうしているということは少なくとも、嫌ではないのだろう。
俺がそう言ったことを考えているのを知ってか知らずかフェイトの絡めてきた手が一層強く俺の手を握った気がする。
直にフェイトの手の温かみが感じられる。
俺の方もフェイトに答えるようにフェイトの手を優しく握る。
すると、フェイトが少しだけ嬉しそうな表情をする。
恐らく、自分の行為に応えて貰えたのが嬉しいのだろう。
フェイトは上機嫌と言った様子で俺の歩調に合わせてくる。
俺に手を握られても全く、嫌そうな気配はない。
先程からの行為からしてもフェイトもフェイトで俺のことを意識してくれているのは解る。
なんて言えば良いかは解らないけど、それが嬉しい。
だが、一つ気になることがある。
フェイトも俺もこう言ったことを普通に受け入れているが……別に付き合っているわけじゃない。
もしかしたら、フェイトは俺とそう言った関係になることを望んでいるのかもしれない。
とは言っても今はまだ、それは解らないのだが――――。
なんとなく気持ちが知りたくて、フェイトをじっと見つめてみる。
すると、フェイトも俺の方を既に見つめていたのか目が合う。
暫く、見つめているとフェイトの頬がほんのり紅く染まる。
……やっぱり、フェイトが意識しているのは間違いないみたいだ。
俺もここにきて漸く、フェイトに対する気持ちが定まってきた。
これはじっくりと考えないといけない。
俺とフェイトも付き合うのか――――。
フェイトも俺と付き合うことを望んでいるのか――――。
今は、まだその答えは出ない。
フェイトのことを考えているうちに病院の方へと到着する。
あまり、こういうのは良くないのだが……慣れてきている感じがする。
好きで腕を痛めたりしているわけじゃない。
しかし、今回もまた、左腕を痛めてしまっている。
原因としては刀傷が主だが、ファリンとの戦いの際に左腕で奥義を連続して遣っている分の反動も大きい。
射抜、雷徹、薙旋……俺の持てる奥義を全て出し尽くした。
更には、早朝になのはさんとも一戦交えている。
なのはさんもファリンとは違った意味で気の抜けない相手。
手加減をするといった余裕は無かった。
「悠翔、左腕は大丈夫?」
先程から今日にあった出来事を考えながら、しきりに左腕を動かす俺をフェイトが心配そうに見つめる。
「見た目よりは大丈夫だ。けど……奥義を撃ち過ぎた」
「撃ち過ぎた……?」
「そう……撃ち過ぎた、だ」
俺はフェイトに左腕を見せる。
「俺の左腕は一度、腕の筋を斬ってしまっている」
「え? でも、悠翔は左腕を遣っているけど……?」
「……ああ。それが今の医療技術の賜物だと言えるんだ。繋がらないと思っていた筋をなんとか繋げた。一応、な」
そう、それは一応でしか無い。
剣を振るうことが出来るくらいにまで左腕は回復した。
しかし、それも制限がある中での話。
奥義を多用することなんて出来はしない。
寧ろ、奥義を遣うのにも制限があるくらいだ。
「悠翔……もしかして」
「フェイトの考えているとおりだ。俺の左腕は繋がっているとは言ってもまともな状態じゃない」
左腕がまともな状態ではないということ――――。
それはそれは変えようのない事実だ。
例え、繋がっているとしても、一度、斬ったものが完全に繋がるとは限らないからだ。
いや……寧ろ、繋がるということの方が凄いとも言える。
「……悠翔」
俺の言っている意味が少しだけ解ったのか、フェイトがしょんぼりとした表情になる。
流石に悪く言い過ぎたらしい。
俺自身はこうなってしまった左腕と付き合っていくということは既に決めていることだから深刻な考えはしていない。
フェイトに心配をかけるのは不本意だ。
そう考えた俺は、フェイトをあやすように頭を優しく撫でる。
大丈夫だからと一言、伝えて。
悠翔が私の頭を優しく撫でてくれる。
それも、痛いはずの左腕で。
悠翔は大丈夫だから、と言っているけど……それでも心配で。
私達の周りには悠翔みたいに障害を抱えている人はいない。
前までは、はやても障害を持っていたけど……治ってるし。
少し不安なのは……なのはのことくらいかも。
なのはも怪我の後遺症があるみたいだけど悠翔ほど酷くはないみたいで。
なのはは無理をしないようにしれてれば大丈夫だと言っていたと思う。
悠翔の場合は……無理をしても、無理をしなくても駄目なように感じて。
少しだけ悲しくなってしまう。
悠翔はもう、自分のことだから割り切っているみたいだけど……私だったらきっと、割り切れない。
自分にとっての大事なところに障害を持っているってどれだけ、辛いことなのか。
もし、悠翔のように利き腕を壊していたら私は魔導師としていられない。
悠翔みたいに出来るなんて思えない。
利き腕とは違う腕をここまで遣えるようにするまで悠翔はどこまでの努力をしたんだろう。
それは私にはとても、想像出来るものじゃないと思う。
でも、悠翔はそれでも付き合っていくと決めているみたいで。
左腕のことを悲観的に思っていない。
私だったら、きっと……魔法で治して貰うと思う。
悠翔の怪我の度合いなら此方の技術なら治せるはず……。
けど、悠翔がそれを聞き届けてくれることは無いんだと思う。
既に悠翔は一度、拒否をしているから……。
私の気持ちを知ってか、知らずか悠翔は私の頭を優しく撫でてくれる。
悠翔が私のことを気にしてそうしてくれてるのは解ってるけど……。
ううん……寧ろ、撫でて貰えて嬉しいけど……。
じゃなくて、えっと……なんて言えば良いのかな?
ああ……でも、悠翔に撫でて貰うのって気持ち良い……。
From FIN 2008/11/30
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