「……いや、別にこのままでも良い」
 少し、私のことを見つめた後、悠翔が口を開く。
 悠翔は別にこのままでも良いと言ってくれた。
 だったら、私は悠翔の傍にいても良いってこと?
 私はそのことが嬉しくて、ぴったりと悠翔に寄り添う。
「フェイト……?」
 私の行動に少しだけ吃驚した悠翔が顔を覗き込んでくる。
「……このままでも良いんだよね?」
 悠翔と目が合ったことをもう一度確認した私は確認の意味も込めて尋ねる。
「……ああ」
 私の問いかけに少しだけ困った表情をしたけど、悠翔は頷いてくれた。
 悠翔の返答が凄く嬉しい。
 もし、駄目だって言われたら私は少しだけ悲しい気持ちになっていたかもしれない。
 だけど、悠翔は応えてくれたから……つい、顔が緩んでしまう。
 となりでその様子を見ているはやてが少しだけ、呆れたように溜息をつく。
 けど、私ははやての様子も全く、気にならなかった。
 それどころか……今の私は嬉しいという気持ちのまま、悠翔の傍に寄り添っていた。
 それも……ぴったりと寄り添うというかたちで……。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 フェイトがぴったりと俺に寄り添ってくる。
 確かに離れなくても良いとは言ったが、そこまでしなくても良いような気がする。
 とは言っても無理矢理離すという真似をしたいとも思わない。
 何故ならフェイトからは離さないでと言った感じのオーラが出ているからだ。
 これで、フェイトを離そうものならフェイトからは悲しそうなオーラが出てくることになるだろう。
 一喜一憂するフェイトも可愛らしいとは思うけど……それでも、そういったことだけのためにフェイトを弄ったりするのは憚られる。
 とりあえずはこのままでいるしかないらしい。
「で、悠翔君に聞きたいことなんやけど……悠翔君は手加減とかしてなかったんよね?」
「ああ。手加減はしていない。寧ろ、あの状態で考えられる手の殆どは遣ったと思う」
「ふ〜ん……と言うことはそこまでやっても、ファリンさんには敵わんかったってことなんか……?」
「……そうなる」
「は〜……そら凄いな〜〜」
 俺のコメントに素直に感心するはやて。
 普通にファリンの実力には感心するしかないだろう。
 先程の段階でもまだ、ファリンは切り札と呼べる手を遣っていない。
 それに対して、俺の方は殆ど手が残っていない。
 これだけでもファリンと俺の実力差は明らかだと言える。
「ファリンは、ああ見えても護衛者として優れているからな、俺のレベルくらいじゃそこそこまでしか相手にならない」
「悠翔君の強さでそこそこまでの相手でしかないんか……」
「……ああ。要するに……腕のハンデを無しにしたとしても俺とファリンじゃそれだけの実力差があるってことだよ」
 俺とファリンの実力差に感嘆するはやて。
 少し誇大化して言っているようにも聞こえるだろうが、これは全て事実であり、嘘ではない。
 はやてが驚いているのはシグナムと戦って勝利している俺を見ているからだろう。
 シグナムも騎士として相当な力量の持ち主だ。
 俺はまがりなりにも彼女と戦って、勝利している。
 そのことを踏まえれば俺がファリンにあっさりと負けたことを信じるのが難しいのだろう。
 まぁ……僅差で負けたと言うのならまだ、信じられると言ったところか。
「は〜……こりゃシグナムが聞いたら大変なことになりそうやな……」
「……そうかもしれないな」
 はやての言葉に俺も苦笑する。
 シグナムは明らかにバトルマニアだと言っても可笑しくはない。
 俺に勝ったと言うファリンのことを聞けば、間違いなく勝負を挑むかもしれない。
 だが……シグナムが魔法を遣ってファリンの相手をするのであれば充分に勝機はあると俺は踏んでいる。
 ファリンには御神流のように魔法を遣う前に斬り捨てるといったような芸当は出来ないからだ。
 とは言ってもファリンの場合は尋常じゃない身体能力でカバーしてしまうのだろうが……。
 なんにせよ、これ以上は考えても仕方がない。
 この考えはこれくらいにしておこう。
















 悠翔をぽ〜っと見つめながらはやてとの会話を聞く私。
 はやてとの会話の内容は殆どが驚くものばかり。
 悠翔が全く手加減をしていないということ。
 悠翔が殆どの手を出しつくしたのにファリンさんには敵わなかったということ。
 そして、悠翔とファリンさんの実力差にそれだけの開きがあるということ……。
 やっぱり、はやてが反応しているとおり信じるのは難しいと思う。
 悠翔はシグナムにも勝っているのに……それでも、敵わないなんて。
 じゃあ……私じゃ全く相手にもならないってこと……?
 私とシグナムの実力は大きく差があるわけじゃないとは思う。
 でも、経験と言う点で私はシグナムに大きく差をつけられている。
 この差があるから、私はシグナムには中々、勝つことが出来ない。
 悠翔も私に比べれば、相当な経験を積んでいると思う。
 だからこそ、シグナムにも勝つことが出来ているんだと思う。
 それなのに……ファリンさんには敵わない。
 じゃあ……ファリンさんには何が?
 すずかから夜の一族という秘密は教えて貰ったけど……。
 ノエルさんとファリンさんの秘密についてはいまいち解らなかった。
 確か、自動人形とか言ってたと思うけど……。
 自動人形とは言っても見た目は人と変わらないし、魔力などと言った特別なものは感じられなかったから実感出来なかった。
 でも……今回の悠翔との立ち回りを見ていると、なんとなく実感出来るような気もする。
 ファリンさんは明らかに、普通の人とは違う。
 ううん、あれだけの動きは魔法で身体能力を引き上げても届かない。
 速度に関してはソニックフォームで上回ることは出来るけど……他の部分は上回ることは出来ない。
 こう見ればファリンさんが普通とは違うことが明らかだと思う。
 悠翔が一度も勝ったことがないと言ったのはやっぱり本当のことだったんだ……。
















「さて……と目的は果たしたし……どうするか」
 はやてと話を終え、俺はぽつりと呟く。
「う〜ん……悠翔君の場合はとりあえず、病院に行った方が良いんとちゃう?」
「……ああ、確かにそうだな。病院に言った方が良いか……」
「まぁ……ユーノ君に魔法で治して貰うのもええけど……悠翔君はそれを望まんやろ?」
「……そうだな」
 はやてが俺の傷を見ながら提案する。
 確かにはやての言うとおりだ。
 傷は浅いとはいえ、これは刀傷だ。
 見た目以上に傷としては大きいとは言えなくもない。
 それに、魔法でこういった傷を治して貰うというわけにもいかない。
 今回、傷を負ったのも俺の未熟さ故のことだ。
 戒めのためにも傷口は残しておきたかった。
 しかし、病院に行くのも躊躇われる。
 既に病院に関してはフィリス先生に御世話になってしまっている。
 しかも、今回の件で病院に行くとしても、左腕の傷であり、刀傷だ。
 無理はしないようにと念を押されたのに左腕を行使してしまっている。
 恐らく、”仕置き”が待っているだろう。
 それを考えただけでもぞっとする。
 しかし、選択肢としては魔法に頼るという選択を選ばない以上、病院に行くしかない。
 最早、俺にはその選択しか残されていなかった。
「じゃあ……念のため、病院に行くことにする」
「そうやな。それが良いと思うで? フェイトちゃんも随分と心配してるみたいやしな」
 俺の結論に頷きながらフェイトの方を見つめるはやて。
「は、はやてっ!?」
 それに対して、はやての言葉に顔を真っ赤にして声を上げるフェイト。
 まぁ……随分と心配してくれてたというのは正直に嬉しい。
 しかし……逆に迷惑をかけてしまったというのは申し訳ない気もした。
 だが……フェイトのこういった態度がとても可愛らしく見える。
 今のフェイトの様子を見てこう思うのは……不謹慎なんだろうか?



































 From FIN  2008/11/15



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