悠翔は利き腕が悪いけど……それでも、ファリンさんに負けるとは私も思ってもみなかった。
 悠翔が神速を遣っても、奥義を遣ってもファリンさんは対処していたと思う。
 元々、悠翔と手合せしていたらしいからある程度は動きを知っていたのかもしれない。
 でも……そういった事情があるにしても今回の結果には驚かされるばかり。
 なんとなくだけど……悠翔がファリンさんに勝ったことがないと言った理由が解った気がする。
 きっと……魔法を遣っても私じゃ、ファリンさんにはきっと敵わない。
 理由としてはファリンさんには魔力がない。
 だから、私にはファリンさんの攻撃を見極めることは出来ない。
 そもそも、私達が悠翔や恭也さんの剣術に対抗出来ないのは、全く見極めることが出来ないからというのもある。
 そう考えてみればファリンさんも悠翔や恭也さん達とは同じだと言えると思う。
 と言うことは……私達では手も足も出ないかもしれない。
 悠翔達の場合だと魔法を違和感として捉えるのに、私達の方は何をやっても悠翔達を見極めることが出来ない。
 それなのに、ファリンさんは悠翔に手傷を負わせている……。
 本当にファリンさんは凄いと思う。
 悠翔の傷口の様子を気にしながら私はなんとなくそう思う。

 そう……本当にファリンさんは凄い






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「大丈夫ですか、悠翔さん?」
 フェイトに止血をして貰ってる最中、ファリンが心配そうな表情で尋ねてくる。
「……大丈夫だ。こういうのはもう、慣れっこだし、な」
「……そうですね」
 俺の返答に何やら苦笑するファリン。
 普通に刀傷を受けるのに慣れていると言うのは不味いと思う。
 こういったことに身を置くのは俺の年齢では早いくらいだ。
 とは言っても剣の修業や、実戦を続けていたら嫌でもこういったことには慣れてしまうのだけども。
「とりあえず、出血もたいしたことは無いから大丈夫。ファリンは気にしなくても良い」
「あ、はい。すいません……悠翔さん」
「……別に謝らなくても良い。俺が未熟だっただけだから」
 申し訳なさそうにするファリンに俺は軽く苦笑する。
 今回の傷についてはファリンに非はない。
 寧ろ、俺の未熟さが招いたものだと言える。
「しかし……また、ファリンから勝ちを拾えなかったな」
 俺はファリンの顔を見ながら、軽く肩を落とす。
 少しは力量の差も詰められたかと思っていたが……それはまだ、甘かった。
 以前よりも俺自身、強くなったとはいえ、未だにファリンとの差は大きかったと言える。
 俺の奥義の殆どはファリンに決定打を与えられなかった。
 如いて言えば、薙旋から射抜へと繋げる方法がファリンに通じたというくらいか。
 それでも、ファリンに手をうたれてしまったのだが。
「でも、悠翔さんも随分と強くなっていますよ? 今回は私が勝ちましたが……今度はどうか解りませんし」
「……そうだと良いけどな」
 俺がファリンの言葉に対してそうだと良い……と言ったのは別に嫌味なわけじゃない。
 確かに、ファリンとの差は徐々に詰まってきてはいる。
 しかし、それでも決定的に俺には不利な点が残されている。
 俺が刀傷を受けたのは左肩……。
 完全に、左腕の隙を突かれたと言っても良いと思う。
 そう言った意味でも利き腕に制限があるというのは大きな欠点だと考えざるを得ない。
 まぁ、これは所詮、言いわけにしかならないのだが……。
















「悠翔さん、私は後始末をしてから先に戻りますね?」
 ファリンさんは一瞬だけ、私の方に目配せをして、悠翔から離れていく。
「……解った」
 悠翔は私とファリンさんのアイコンタクトに気付いた様子も無いまま頷く。
 多分、悠翔は後始末という言葉に反応していたんだと思う。
 ファリンさんが態々、そう言った事情で悠翔から離れていくなんて……。
 ……気を遣われちゃったのかな?
「フェイト?」
「ううん、なんでもない、よ」
 私の様子に気付いた悠翔が顔を覗き込んでくるけど、軽く誤魔化しておく。
 ファリンさんとのことは私の事情だから……少しだけ悠翔には知られたくない。
 理由を聞かれてしまうとなんとなく恥ずかしいから。
「悠翔……もう、血は止まった?」
 恥ずかしい気持ちを誤魔化すように私は悠翔に尋ねる。
「ああ。フェイトのお陰で助かった」
 悠翔が微笑しながら私に御礼を言う。
 それを見た私はなんとなく、頬が熱くなるのを感じる。
 なんというか……ぼっと音がしそうな感じというか……。
 悠翔に御礼を言われただけで、こうなるのはそれだけ私が意識してるってことなんだけど……。
 それが悠翔に気付かれていないかどうかでも私はどきどきしてしまう。
 気付かれていたら気付かれていたで嬉しいけど……気付かれていたとしたらとても恥ずかしい。
 気付かれていないのだったら、それは私の秘めごとだから……それはそれで良いと思う。
 でも……気付いてほしいとは思うかな?
 私だけやきもきしてるのも不公平な気もするし……。
















「折角、フェイトちゃんに介抱してもらってるとこで悪いんやけど……」
「きゃっ……!?」
 私がぽ〜っと悠翔を見つめていると何時の間にか私の傍まで来ていたはやてが話しかけてくる。
「そんなに驚いて離れなくてもええのに……フェイトちゃんはそのままでいてもいいんやで?」
「で、でも……はやては悠翔に聞きたいことがあるんだよね? 私がこのままだと悠翔も話しにくいんじゃ……」
「ん〜……そこはどうなん? 悠翔君」
 はやてが尋ねると悠翔は少しだけ困った表情をする。
 私としては折角、悠翔の傍に堂々といれるから離れたくはないんだけど……。
 悠翔自身がどう思っているかまでは解らない。
 とりあえず、離れたくないと言う気持ちをこめて悠翔をじっと見つめてみる。
 悠翔も視線に気付いたのか私の方をじっと見つめてくれる。
 じっと見つめられて、私も少しだけ恥ずかしい。
 目の前で悠翔に見つめらているということを意識してしまうとなんとなく、頬が熱くなってしまう。
「……いや、別にこのままでも良い」
 少し、私のことを見つめた後、悠翔が口を開く。
 悠翔は別にこのままでも良いと言ってくれた。
 だったら、私は悠翔の傍にいても良いってこと?
 私はそのことが嬉しくて、ぴったりと悠翔に寄り添う。
「フェイト……?」
 私の行動に少しだけ吃驚した悠翔が顔を覗き込んでくる。
「……このままでも良いんだよね?」
 悠翔と目が合ったことをもう一度確認した私は確認の意味も込めて尋ねる。
「……ああ」
 私の問いかけに少しだけ困った表情をしたけど、悠翔は頷いてくれた。
 悠翔の返答が凄く嬉しい。
 もし、駄目だって言われたら私は少しだけ悲しい気持ちになっていたかもしれない。
 だけど、悠翔は応えてくれたから……つい、顔が緩んでしまう。
 となりでその様子を見ているはやてが少しだけ、呆れたように溜息をつく。
 けど、私ははやての様子も全く、気にならなかった。
 それどころか……今の私は嬉しいという気持ちのまま、悠翔の傍に寄り添っていた。
 それも……ぴったりと寄り添うというかたちで……。



































 From FIN  2008/11/12



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