(何かがある――――?)
 殺気を感じた俺は咄嗟に意識を向け直す。
 すると、そこには既にファリンのブレードが俺の左肩に向けられていた――――。
(何時の間に……!?)
 ここにきてファリンの動向が全く読めなかった。
 互いに武器を向けているというのは変わらない。
 だが、互いの得物のことを考えると、ファリンの方が優位に立っている。
 いや、唯、得物を向けているだけではない。
 ファリンの得物は既に俺を捉えていた。
 良く見れば、俺の血がブレードに付着している。
 と言うことは既に俺は斬られている。
 斬られた箇所は左肩……俺の利き腕だ。
 後は、首筋の付近も浅く斬られている。
 しかし、俺の小太刀はファリンを捉えてはいなかった。
 追い詰めたつもりだったのだが、逆に追い詰められていたのは俺の方だったらしい。
 だが……何故、今の段階まで気付かなかったのか――――。
 俺は原因を探る。
 そして、一つの結論に思い当たる。
(神速の領域にいた間にか――――)
 恐らく、ファリンは俺が神速の領域に入っている最中にタイミングを練っていたのだろう。
 それも、俺には気付かれないように考慮して。
 多分、神速の領域中に左腕が痛んだのはファリンが俺を捉えていたからなんだろう。
 俺が神速の領域に入っている間に全ての仕込みを計算していたと言うことは――――。
(……ファリンの方が上手だったと言うわけか)
 俺が考えている間にファリンの得物が俺に向けられる。
 今のタイミングでは神速を遣うことも出来ない。
 その上、ファリンは的確に俺の利き腕を捉えている。
 ファリンも何度か俺からの攻撃を受けてはいるが、その戦闘力までは奪われていない。
 それに対し、俺の方は神速の使用回数は既に限界に近く、利き腕に傷を負っている。
 まともに、討ち合える状態ではない。
 それに……此方の手は出し尽くした。
 最早、勝負にすらならないだろう。
 この時点で……最早、決着はついていた。
















 俺の敗北と言うかたちで――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「終わったの……?」
 私達の目の前では信じられないような光景が広がっていた。
 悠翔とファリンさんの対決。
 私となのはとはやては間違いなく、悠翔が勝つと思っていたと思う。
 けど、実際にこの対決を制したのは悠翔ではなく、ファリンさんの方だった。
 しかも、悠翔は神速を何度か遣っていたのに。
 ファリンさんはその神速にも対処していたようにも見える。
(まさか、こんなに凄かったなんて……)
 悠翔のことは元々、凄いと思っていたけど……ファリンさんには特に驚かされる。
 悠翔は剣においてはシグナムにも勝る実力者なのに。
 その悠翔と互角に渡り合うどころか、悠翔に勝っている。
 普段のファリンさんからは全く、想像も出来ない光景だった。
 そんな私の驚きを余所に、悠翔から紅い雫がぽたぽたと垂れ始める。
(え……?)
 悠翔はその部分を軽く押さえていて。
 そして、良く見てみればファリンさんのブレードの方には紅いものがついていて――――。
(紅い……もの……?)
 私は落ち着いて良く考えてみる。
 悠翔の服装はどちらかと言えば黒系統。
 さっきから垂れている紅い雫に関しては良く目を凝らさないと解らない。
 それにファリンさんのブレードに付着している紅いもの。
 ブレードは刃物であり、人を斬るためのもの――――。
 それが導きだす答えは――――。





 ――――血





「悠翔っ……!」
 それに気付いた私は私はいてもたってもいられなくなって悠翔へと駆け寄った。
















「悠翔っ!」
 フェイトが慌てた様子で俺に駆け寄ってくる。
「……フェイト」
 余りにも慌ててきたのかフェイトは随分と息を切らしている様子だ。
 フェイトはゆっくりと深呼吸をして息を落ち着かせる。
「えっと……その……怪我とかしてない?」
 息を整えたフェイトは俺の様子を窺うように顔を覗き込む。
 ファリンとの戦闘が終わってすぐに俺に近寄って来たことを考えるとフェイトは既に俺がファリンから一撃を貰っていることには気付いている。
 ここは誤魔化したりしても無駄だろう。
「……ああ。少し……斬られた、かな」
 誤魔化しても無駄だと考えた俺は正直にフェイトに事を伝える。
 斬られたと言うのは嘘じゃない。
 そこまで深くは斬られてはいないが、斬られているのに変わりはない。
 出血が先程から止まらないのはそのためだ。
「斬られたっ……!?」
 斬られたと言う俺の言葉に慌てるフェイト。
 気付いていたとはいえ、斬られると言った段階までは予測していなかったのだろう。
 俺から見ればこう言った刀傷は何時ものことだから気にするほどでもないのだが……。
「いや、斬られたと言ってもこのくらいなら何時ものことだし。問題はない」
「でも……」
 心配はないとフェイトに言っては見るものの心配そうな表情は変わらない。
 俺としてはこのくらいであれば本当に問題ないからそこまで心配されると逆に困ってしまう。
「フェイト。そこまで心配しなくても……大丈夫だ。まぁ、ちゃんと止血をしとかないと不味いとは思うけど」
 俺は苦笑しながらフェイトに伝える。
 フェイトが心配してくれるのは正直、嬉しいがここまで気にされてしまうと此方もどうしたら良いのか解らなくなる。
 俺の困った様子が解ったのかフェイトは少しだけ慌てるのを止めて俺を上目遣いで見つめる。
「じゃあ……これ、使って?」
 慌てていたのが恥ずかしかったのか上目遣いのまま、頬を紅く染めたフェイトがハンカチを差し出してくれる。
「あ、ああ……ありがとう」
 少しフェイトの様子に慌ててしまったが、なんとか御礼を言う。
 しかし……今のフェイトの表情は可愛かった。
 意識的にやっているとは考えられにくいが……。
 とにかく、フェイトの行為に甘えることにする。
 刀傷にそっとフェイトのハンカチを当てる。
 僅かに痛みが奔るが、問題はない。
 寧ろ……フェイトのハンカチからなんとなく優しい感じの匂いがした。
















 私からハンカチを受け取って悠翔は止血をする。
 さっきは随分と慌ててしまったけど……悠翔の言うとおり、血はあまり出ていないみたい。
 私のハンカチでも充分に止血になっているのがその証拠だと思う。
 でも、悠翔があんなにあっさり斬られるなんて……。
 ファリンさんはどれだけ凄い実力者なのかな?
 悠翔は剣士として、優れた実力者で。
 その実力はシグナムを相手にして、圧倒してしまったほど。
 けど、ファリンさんはそれだけの実力を持つ悠翔を抑えてしまっていて。
 悠翔は利き腕が悪いけど……それでも、ファリンさんに負けるとは私も思ってもみなかった。
 悠翔が神速を遣っても、奥義を遣ってもファリンさんは対処していたと思う。
 元々、悠翔と手合せしていたらしいからある程度は動きを知っていたのかもしれない。
 でも……そういった事情があるにしても今回の結果には驚かされるばかり。
 なんとなくだけど……悠翔がファリンさんに勝ったことがないと言った理由が解った気がする。
 きっと……魔法を遣っても私じゃ、ファリンさんにはきっと敵わない。
 理由としてはファリンさんには魔力がない。
 だから、私にはファリンさんの攻撃を見極めることは出来ない。
 そもそも、私達が悠翔や恭也さんの剣術に対抗出来ないのは、全く見極めることが出来ないからというのもある。
 そう考えてみればファリンさんも悠翔や恭也さん達とは同じだと言えると思う。
 と言うことは……私達では手も足も出ないかもしれない。
 悠翔達の場合だと魔法を違和感として捉えるのに、私達の方は何をやっても悠翔達を見極めることが出来ない。
 それなのに、ファリンさんは悠翔に手傷を負わせている……。
 本当にファリンさんは凄いと思う。
 悠翔の傷口の様子を気にしながら私はなんとなくそう思う。

 そう……本当にファリンさんは凄い



































 From FIN  2008/11/8



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