神速は完全に身体が成長しきっているからこそ、その負担に耐えられるというのも事情の一つとしてあるからだ。
 一見、万能にも見える神速だが、決してそうではない。
 それに成長しきっていない身体で神速を連発するということは以前の恭也さんのようになってしまうことを意味している。
 既に俺は利き腕が悪い状態だ。
 これ以上の怪我の箇所を増やすわけにはいかない。
 そう言った意味でも神速の多用については考える必要がある。
 後、遣えるとすれば……精々、1、2回と言ったところか。
(残りの神速に全てを賭ける――――)
 少し思案したが、俺は結局、そう結論付けた。
 今のファリンの動きからするとファリンに追いつくにはこれだけでは足りない。
 だったら此方も身体のリミッターを外すしかない。
 神速は速度を上げるだけではなく、身体のリミッターを解除する行為でもある。
 ファリンに追随するなら神速を遣うのが最も適しているだろう。
 だが……後、神速が遣えるのは1、2回程度……この間に勝負をつけるしかない。
 俺は再度、小太刀を納刀し、構えを取り直した。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 今、現在で俺が取れる戦術は二通りある。
 一つは射抜・追による速攻でケリをつけるための戦術。
 これは神速を最後の一撃に挟むため、二段構えの方法だ。
 元々から俺も遣っている方法でもあるので信頼性もある。
 もう一つは薙旋による手数の多さを利用した戦術。
 薙旋は利き腕を負傷している俺にとっては最大の手数となる奥義。
 抜刀からの高速の四連続の斬りである薙旋。
 幸い、俺の小太刀の差し方は二刀差しだ。
 連続で抜刀、納刀を行う分には支障はない。
 そういった意味でも四連続の斬りの間に出来ることは多数ある。
 一刀目、二刀目、三刀目、四刀目……様々な手段が頭を過ぎっていく。
 今まではこういった考えまでは至らなかったが、今ではこのような考え方が出来る。
 これは恭也さんに感謝しないといけない。
 しかし、これでもファリンには届かないかもしれない。
 確実に決着をつけるためにはもう、一工夫必要になるだろう。
 どのタイミングで遺された回数の神速を遣うか……。
 そこも大きなポイントになってくる。
 遣える回数は僅かに1、2回程度。
 あまり、有長に構えているわけにはいかない。
 考えが纏まった俺は前傾姿勢をとり、ファリンに向かって地を蹴った。
















 ファリンとの距離を一気に詰めた悠翔はすぐさま、小太刀を抜刀。
 そのまま、奥義へと繋げる。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之陸・薙旋





 悠翔の持つ、現時点での最大の手数を誇る技がファリンに向けられる。
 悠翔の動きに対して、咄嗟に距離を取ろうとするファリン。
 しかし、悠翔の目は既にファリンの姿を完全に捉えていた。





 ――――一刀目





 悠翔の小太刀が横薙ぎに閃く。
 ファリンも腕のブレードでそれを受け止める。
 しかし、それは既に薙旋の術中でしかない。





 ――――二刀目





 悠翔の二刀目の小太刀が瞬時に振り上げられる。
 死角からの高速の斬撃――――。
 ファリンも今度は対処しきれず、服を裂かれる。





 ――――三刀目





 悠翔はそのまま動きを止めずに三刀目にかかる。
 狙いは利き腕の小太刀での袈裟斬り。
 抜刀からそのまま、斬撃へと繋げる動きをする。
 二刀目で一気に小太刀を抜き放った体勢となってしまっているのを瞬時に戻すためでもある。
 隙を見せないと言うこと――――これも重要な要素だと言える。
 悠翔はそれを踏まえて三刀目をすぐさま次の動きへと繋げた。





 ――――四刀目





 三刀目の斬撃の瞬間、悠翔はここから神速の領域へと入る。
 視界がモノクロの世界に染まり、全ての動きが止まったかのようになる。
 悠翔はモノクロの世界の中でファリンの側面に回り込み、奥義へと繋げる。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜





 神速の領域の中で悠翔の射抜がファリンへと向けられる。
 一瞬、左腕に激しい痛みが走るが、構わずに悠翔はファリンに射抜を向ける。
 鈍い音と共に小太刀がファリンを捉え、彼女を弾き飛ばす。
 吹き飛ばされたファリンはすぐに体勢を整え直し、悠翔へと肉薄する。
 だが、悠翔の神速は未だに継続している。
 悠翔は瞬時にファリンの隙を潜り抜け、首筋に小太刀を向ける。
 そして、悠翔の視界に色が戻る。
















「……ここまでだな」
「そうみたいですね」
 ファリンの小太刀を向けたまま、対峙する。
 しかし、ファリンは小太刀を向けられているままにも関わらず全く動じていない。
 俺が僅かな疑問を抱えていると、ファリンが不意に口を開く。
「ですが……悠翔さん。貴方の方がこれまでです」
「なっ……!?」
 俺はファリンの言葉に驚きを隠せない。
 確かに、俺はファリンを追い詰めた。
 今回は戦闘ではあるが、完全な殺し合いではない。
(この間合いでファリンを捉えている時点で俺の勝ちなはずだ――――)
 しかし、何故か違和感が拭えない。
 それも、俺の方がファリンを追い詰めていると言うのにも関わらずだ。
(何かがある――――?)
 殺気を感じた俺は咄嗟に意識を向け直す。
 すると、そこには既にファリンのブレードが俺の左肩に向けられていた――――。
(何時の間に……!?)
 ここにきてファリンの動向が全く読めなかった。
 互いに武器を向けているというのは変わらない。
 だが、互いの得物のことを考えると、ファリンの方が優位に立っている。
 いや、唯、得物を向けているだけではない。
 ファリンの得物は既に俺を捉えていた。
 良く見れば、俺の血がブレードに付着している。
 と言うことは既に俺は斬られている。
 斬られた箇所は左肩……俺の利き腕だ。
 後は、首筋の付近も浅く斬られている。
 しかし、俺の小太刀はファリンを捉えてはいなかった。
 追い詰めたつもりだったのだが、逆に追い詰められていたのは俺の方だったらしい。
 だが……何故、今の段階まで気付かなかったのか――――。
 俺は原因を探る。
 そして、一つの結論に思い当たる。
(神速の領域にいた間にか――――)
 恐らく、ファリンは俺が神速の領域に入っている最中にタイミングを練っていたのだろう。
 それも、俺には気付かれないように考慮して。
 多分、神速の領域中に左腕が痛んだのはファリンが俺を捉えていたからなんだろう。
 俺が神速の領域に入っている間に全ての仕込みを計算していたと言うことは――――。
(……ファリンの方が上手だったと言うわけか)
 俺が考えている間にファリンの得物が俺に向けられる。
 今のタイミングでは神速を遣うことも出来ない。
 その上、ファリンは的確に俺の利き腕を捉えている。
 ファリンも何度か俺からの攻撃を受けてはいるが、その戦闘力までは奪われていない。
 それに対し、俺の方は神速の使用回数は既に限界に近く、利き腕に傷を負っている。
 まともに、討ち合える状態ではない。
 それに……此方の手は出し尽くした。
 最早、勝負にすらならないだろう。
 この時点で……最早、決着はついていた。
















 俺の敗北と言うかたちで――――。



































 From FIN  2008/11/2



 前へ  次へ  戻る