――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜





 高速の突き技である射抜がファリンに迫る。
 射抜は射程も長く、技の出も速い奥義だ。
 射抜は雷徹ほど得意な技ではないが、美沙斗さんから教わっているため、以前から使用出来る技でもある。
 高速で突き出される小太刀がファリンの右肩を捉える。
「っ……」
 ファリンの表情が僅かに苦悶の様子を見せる。
 今度は流石に捉えることが出来ているらしい。
 しかし、この体勢からファリンは俺の小太刀を右肩から引き抜き、間合いを取り直す。
 あんな体勢から間合いを取り直したのには驚かされる。
 もし、あのままの状態であれば俺は射抜・追でケリをつけようとしていただろう。
 だが、ファリンはそれをさせなかった。
 やはり、そういった意味でも一筋縄ではいかない。
 しかも、ファリンに対しては神速も大きな効果はない。
 元々から、人とは違う、感覚の持ち主だ。
 今の射抜も神速を遣っていたというのに対処されてしまった。
 射抜でも難しいとするならば、後は俺が最も得意とする雷徹か。
 しかし、雷徹は当たり範囲がかなり狭い。
 例え、神速を遣ったとしてもファリンを捉えることはかなり難しいだろう。
 だが……このまま手を拱いていても何もならない。
 ここは、試しにやってみるか――――?






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 雷徹を遣うことを決めた俺は頭の中で思考を組み立て始める。
 ファリンに雷徹を当てるためにはギリギリまで距離を詰める必要がある。
 小太刀を遣っての雷徹は威力がありすぎるので遣えない。
 必然的に素手での雷徹となるだろう。
 しかし、元々の身体能力からしてファリンは非常に優れている。
 雷徹を当てるには些か、難しい相手だ。
 今の射抜きですら、辛うじて捉えただけに過ぎない。
 確実に当てるなら神速との組み合わせや、薙旋の途中に挟むのが効果的だが……。
 逆を言えばここまでやらなければファリンを捉えることは難しいと言える。
 それに、ファリンにもまだ、切り札が存在する。
 その存在がある限り俺も迂闊には踏み込めなかった。
(……どうする)
 少し頭の中で迷いが生じる。
 ファリンの切り札は普段は遣うことが出来ないもの。
 しかし、すずかが見ている以上、何時でも遣える状態になっている可能性は非常に高い。
 だが、なのはさん達が見ている手前、遣わないと言う可能性も考えられる。
 それでも、遣わないと言う保証はないと言えた。
 ファリンの切り札は所謂、武器の解除のようなものだったはず。
 普段でも高い戦闘力を誇るが、それはあくまで限定されている状態。
 それを外すとなればその戦闘力はかなりあがる。
 俺が対抗するためには、小太刀を常に二刀遣える状態にした上で、神速を多用することも考えないといけない。
(迂闊な戦術はとれないな……)
 しかし、射抜を凌がれた以上、残っているのは雷徹か薙旋だけだ。
 俺は雷徹と薙旋を遣った戦術を組み立てながら再度、ファリンに向かって地を蹴った。
















 再度、悠翔がファリンに対して間合いを詰めていく。
 それも先程に比べても速い速度で。
 最早、その動きは普通の人では眼で追うのも難しい。
 事実、この場にいたすずか以外には悠翔の姿を追うことは出来なかった。
 なのはにもフェイトにもはやてにも悠翔の姿は見えない。
 悠翔は速度を落とすことなく、ファリンに対して斬撃を見舞う。
 しかし、ファリンは既に悠翔の動きを察知しており、片方の腕のブレードですんなり受け止めた。
(……ここは、読み通りだ)
 悠翔は頭の中で呟く。
 ファリンならばこのくらいの速度も問題なく対処してしまう。
 寧ろ、対処してこない方が予想外だと言えた。
 悠翔はファリンの動きを認めると、神速の領域に入る。
 全てがモノクロに変わり、ファリンの動きが止まったかのようになる。
 悠翔は神速の領域の中を駆け抜け、ファリンとの距離を零にする。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之肆・雷徹





 ファリンとの距離が零になったと同時に悠翔は御神流の奥義の中でも最大級の威力を持つ、雷徹を放つ。
 神速の領域からの雷徹……これならば、ファリンも避けることは敵わない。
 ファリンの方も一瞬、虚を衝かれたか、悠翔に対する行動が遅れた。
(――――遅いっ!)
 悠翔はファリンの一瞬の動作の遅れに乗じて雷徹を叩き込む。
 ファリンの身体に雷徹が命中し、ファリンががくりと膝をつく。
「っ……!? 流石ですね。悠翔さん」
 雷徹を受けたはずだが、まだ返答が出来るだけの余裕を持っているファリン。
 悠翔は僅かに驚いた表情をする。
 今の一瞬で、ファリンは僅かに雷徹の打点をずらしていたのである。
 雷徹は基礎乃参法である徹に重ねがけして放つ大技である。
 その反面、重ねがけが出来なければ、普通の徹と変わらない。
 今の攻防でファリンは最後の最後で悠翔の雷徹の動きに反応し、打点をずらすことに成功した。
 事実、ファリンの受けた雷徹は本来の半分の威力もないものだったと言えるのである。
 そのことを看破した悠翔はファリンの身体能力に悪態をつく。
 しかし、今ので決着をつけられなかった……これは悠翔にとっては大きな損失だった。
















(不味いっ……!)
 今の雷徹を凌がれた。
 これに関してはファリンが流石だとしか言いようがない。
 だが、雷徹をあの距離で凌がれたということは俺に残された手は射抜・追か薙旋しかないということでもある。
 しかし、どちらを遣うにしても神速を遣う必要がある。
 それはなるべく避けたかった。
 俺は以前の恭也さんと違って足に怪我を負っているわけではない。
 かと言って俺の場合はまだ、身体が成長途上でしかない。
 完全に成長しきった身体ではないということは、かなり大きいことだった。
 神速は完全に身体が成長しきっているからこそ、その負担に耐えられるというのも事情の一つとしてあるからだ。
 一見、万能にも見える神速だが、決してそうではない。
 それに成長しきっていない身体で神速を連発するということは以前の恭也さんのようになってしまうことを意味している。
 既に俺は利き腕が悪い状態だ。
 これ以上の怪我の箇所を増やすわけにはいかない。
 そう言った意味でも神速の多用については考える必要がある。
 後、遣えるとすれば……精々、1、2回と言ったところか。
(残りの神速に全てを賭ける――――)
 少し思案したが、俺は結局、そう結論付けた。
 今のファリンの動きからするとファリンに追いつくにはこれだけでは足りない。
 だったら此方も身体のリミッターを外すしかない。
 神速は速度を上げるだけではなく、身体のリミッターを解除する行為でもある。
 ファリンに追随するなら神速を遣うのが最も適しているだろう。
 だが……後、神速が遣えるのは1、2回程度……この間に勝負をつけるしかない。
 俺は再度、小太刀を納刀し、構えを取り直した。



































 From FIN  2008/10/27



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