(……掠めたか)
逆に今の攻防の間で軽く斬られたことで、頭が冷静に働く。
ファリンは手加減なんてしていない。
寧ろ、初手から動いてきたということを踏まえれば本気だということだろう。
そして、今の攻防で俺が凌げなければ本気を出すに値しないという考えだったのかもしれない。
ファリンは俺に斬り付けた後、すぐに間合いを取り直し、ブレードを構えている。
一瞬の攻防を繰り返していたら、俺の二刀目の小太刀が動くということを察知しているのだろう。
ファリンは俺に二刀目の小太刀を抜かせる間もなく、距離を取り直した。
だが、今のまま一刀の小太刀だけで戦うというのには無理がありすぎる。
実力においてはファリンが上回っている、だったら……俺が有利に立ち回るためには虚をついた攻撃が有効となる。
俺は、小太刀を構えながら、再び思考の中に入った。
ファリンに勝つためにはどうすれば良いのか――――。
それを考えるために――――俺は思考を組み立て始めた。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
今の一瞬の動きに私は目を奪われていた。
悠翔とファリンさんが一瞬、交錯したかと思うと悠翔から僅かに血が飛び散っていて。
ファリンさんの腕にあるブレードが悠翔を掠めたんだと思う。
でも、今の動きは本当に驚きだったと思う。
悠翔がああいった動きが出来るのはシグナムとの戦闘や、士郎さんとの立ち合いで見せて貰っていたから良く解ってる。
けど、ファリンさんはその悠翔にいとも簡単についていってしまっている。
それも、特別な力は一切遣わないで。
悠翔もまだ、神速は遣っていないとはいえ、簡単に動きを抑えられるなんて考えもしなかった。
一刀の小太刀でファリンさんの狙いを反らしたのは流石だと思ったけど……。
その悠翔でも完全には凌げていなくて。
ファリンさんのブレードは僅かに悠翔を捉えていた。
凄い……
素直にそう思う。
シグナムでも接近戦においては悠翔に殆ど対処出来ていなかったのに、ファリンさんは対処出来ている。
いや、寧ろ……ファリンさんは悠翔を圧していた。
悠翔がとても優れた実力者だというのにも拘わらずに。
まさか、ファリンさんがここまで強いだなんて思いもしなかった。
私は魔導師だけど、私だって接近戦を得意としている。
でも、今の悠翔とファリンの攻防は私じゃ追えないような動きだった。
速度としては対処できたとは思う。
けど、ああいった一瞬の攻防については私じゃ反応出来ないかもしれない。
ううん、シグナムでも難しいかもしれない。
一瞬だけの攻防だったけど……悠翔とファリンさんの動きから目が離せない。
御互いにまだ、手のうちもバラしていないみたいだし……。
次はいったい、どう動くのかな……?
二刀目の小太刀を抜かせないように距離を詰めたファリンを見つめる。
やはり、間合いでは俺の方が不利だというのは否めない。
更に、俺には抜刀の奥義である虎切を遣うことが出来ない。
いや、遣えるのだが、遣えるだけでしかないと言うのが正しいか。
それに対して、ファリンのブレードは腕に付いているかたちになっているから距離自体は長くはない。
だが、ファリンの力量と相余ってその攻撃範囲に隙は殆どないと言える。
それにファリンはああ見えても体術にも長けている。
体術に関して、此方が不利と言うことはあり得ないが……。
元々の実力のことを考えてみればやはり、有利だとは言い難い。
やはり、ここは神速を遣うしか方法はない。
……後はそのタイミングだけだ。
思考が纏まり、そう考えた俺はファリンに向かって地を蹴る。
ファリンも俺が動いたことに気付いたのか、俺に向かって地を蹴っていた。
今度は先程とは違って俺の方が踏み込みの速度が速い。
瞬時にファリンのブレードの間合いから、俺の小太刀の間合いに入り込む。
「っ……!?」
間合いを制したことでファリンの表情が一瞬だけ変わる。
ファリンが咄嗟に体勢を動かしたが、既に間合いを制されている状態で完全に回避をするというのは敵わない。
俺が斬り付けた箇所からファリンの服の一部と髪が何本か舞う。
「……流石」
「悠翔さんの方こそ」
余裕そうな表情で返答するが、実際はそうでもない。
俺の方が随分と不利な状況だ。
今の間合いで掠めただけだというのは流石に厳しい。
これは……一筋縄ではいかないな。
一筋縄ではいかないことは理解出来ている。
しかし、ここは俺も退くわけにはいかない。
俺は小太刀を納刀し、再度、ファリンとの距離を詰める。
今度は、先程とは違う手で行く。
何度も同じ手が通じるような相手ではないのだから。
牽制がてらファリンとの距離が詰まる前に飛針を投げつける。
飛針に気付いたファリンは咄嗟にブレードを振るい、飛針を全て叩き落とす。
しかし、その動きは俺の予測の範疇だ。
これだけ、隙が出来れば此方も次の一手が打てる――――。
――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速
ファリンの動きの間隙を見極めた俺は神速の領域に入る。
神速の領域に入った俺はファリンの背後に回り、小太刀を抜刀する。
しかし、ファリンも既に俺が神速の領域に入っていることには気付いているはずだ。
だからこそ、今の一瞬の間隙の間に動く。
ファリンにそう簡単に隙が出来るわけがないからな。
だが、その僅かな隙をつくためにも俺は次の一手を打つ。
――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜
高速の突き技である射抜がファリンに迫る。
射抜は射程も長く、技の出も速い奥義だ。
射抜は雷徹ほど得意な技ではないが、美沙斗さんから教わっているため、以前から使用出来る技でもある。
高速で突き出される小太刀がファリンの右肩を捉える。
「っ……」
ファリンの表情が僅かに苦悶の様子を見せる。
今度は流石に捉えることが出来ているらしい。
しかし、この体勢からファリンは俺の小太刀を右肩から引き抜き、間合いを取り直す。
あんな体勢から間合いを取り直したのには驚かされる。
もし、あのままの状態であれば俺は射抜・追でケリをつけようとしていただろう。
だが、ファリンはそれをさせなかった。
やはり、そういった意味でも一筋縄ではいかない。
しかも、ファリンに対しては神速も大きな効果はない。
元々から、人とは違う、感覚の持ち主だ。
今の射抜も神速を遣っていたというのに対処されてしまった。
射抜でも難しいとするならば、後は俺が最も得意とする雷徹か。
しかし、雷徹は当たり範囲がかなり狭い。
例え、神速を遣ったとしてもファリンを捉えることはかなり難しいだろう。
だが……このまま手を拱いていても何もならない。
ここは、試しにやってみるか――――?
From FIN 2008/10/19
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