「……なんか、ファリンさんも偉いもん持ってきたなぁ。あんなん振り回して……本当にファリンさんは大丈夫なん?」
 俺が考えを纏めている隣ではやてが驚いた表情で呟く。
 はやての反応も普段のファリンのことしか知らなければ当然の反応だ。
 あんなブレードなんてものを振り回したら怪我をするだけにしか見えないだろう。
「……大丈夫だ。それは俺が保証する」
 いや、俺なんかが保証しなくてもファリンの実力を考えれば大丈夫だ。
 一応は納得してくれたのかはやても俺の答えに頷いてくれる。
 とは言っても実際のファリンを見てみないと完全には納得出来ないか。
 とりあえず、俺ははやてを制して、ファリンと向き合う。
 ファリンもブレードを装着したことで、気持ちの切り換えが終わっているのか気配が変わっている。
 戦闘時の独特の気配――――それがファリンから漂っている。
 それも、普通の人の気配ではない。
 すずかがなのはさん達に伝えているかまでは知らないが……ファリンは普通の人とは違う。
 ファリンは――――自動人形なのだから。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「……まぁ、見てれば解る。因みに俺はファリンと立ち合って勝ったことは無い」
「えっ……!?」
 俺の意外な言葉に驚くはやて。
 今の言葉に、なのはさん達も驚いたみたいだ。
 すずかはそのことを知っているから驚くはずもないのだが。
「そこまで驚かなくても良いと思うんだけど……」
「いや、そんなこと言われてもなぁ……悠翔君の実力はこの前見せて貰ったんやし……」
 はやてが言いたいのは先日に俺がシグナムと戦った時のこと。
 あれについてはシグナムがあまり俺の戦い方に対応していなかっただけにすぎない。
 純粋に魔導師と剣士の戦闘方法と、その気質の差が勝敗を分けたと言っても良い。
 だが、ファリンの場合はそうはいかない。
 ファリンは魔導師とは違う。
 どちらかと言えば俺達の側の気質に近い。
 そう言った意味では戦闘方法で優位に立つと言うのは難しい。
 それに、俺とファリンでは身体能力にも差がある。
 御神流を修めている身として、自分でも普通の人間からすれば異常な身体能力を持っているというのは自覚している。
 だが、ファリンの場合は人間の基準で計ることは出来ない。
 それでも、御神流特有の技法などの分でその差はあまり無いと言える。
 シグナムの時は身体能力などの点で此方が優位に立っていたが、ファリンが相手ではそうはいかないということでもある。
「とにかく、俺とファリンの立ち合いに関しては良く見ててくれ」
「あ、うん。解ったわ。そう言うんなら悠翔君がどう言った意味で言うとったかも見せて貰うで?」
「ああ。それで良い」
 はやてとの会話を済ませ、俺はファリンに向き合う。
 ファリンの方もすずかと一言、二言、言葉を交わし、俺と向き合った。
 数年ぶりの立ち合い……。
 勝機があるかは解らないが……俺も以前とは違う。
 後は、遣れるところまで遣るだけだ。
















「さて……と、御互いに準備は出来てるみたいだな」
「はい、そうですね。悠翔さん」
 ファリンと向き合い、確認のために尋ねる。
 ファリンの方も既に大丈夫なのか、落ち着いている様子だった。
「……数年ぶりになるのか」
「はい。悠翔さんが以前に私と立ち合った時はまだ、利き腕も悪くされていなかった頃ですけど」
「……だからって手加減する必要は無いからな」
「解ってますよ。悠翔さんがそんなことを望んだりしていないと言うことは」
「だったら、良い。俺も本気でいかせて貰う」
 ファリンからの返答を確認した俺は、僅かながら殺気を解き放ちながら小太刀を引き抜く。
 右手に一刀の小太刀……。
 嘗ての俺とは全く違う、構え方であり、今の俺の構え方でもある。
「……悠翔さんも随分と構え方が変わりましたね」
「ああ。だが、これが今の俺の戦い方だ」
「……解っています。戦い方が変わったとは言っても悠翔さんの力は衰えていないと言うことは理解していますので」
 俺の殺気に応じて、ファリンも僅かながらの殺気を解き放つ。
 久しく感じていなかった俺よりも鋭い殺気。
 ファリンの殺気はシグナム達のものよりも強い。
 実力においては俺よりも上だというのは間違いない。
 しかも、今回は利き腕もあまり遣える状態では無いため、かなり不利だと言える。
 だが、久しぶりの手合わせである以上は全力を持って相手をしたいと思う。
 勝敗などに関しては別にして……な。
















 暫く、武器を構えて睨みあうこと数分――――。
「小太刀二刀御神不破流、不破悠翔……参る!」
「ファリン=K=エーアリヒカイト……行きます!」
 御互いに名乗りを上げ、戦闘が開始される。
 今回は、シグナムと違って相手はファリンだ。
 完全に格闘戦が前提となるはずだ。
 と言うかファリンは元々から接近戦を得意としている。
 やはり、俺が考えたとおりに、ファリンも俺との距離を詰め始めている。
 ある程度、俺との距離を詰めたファリンは一気に地を蹴り、俺との距離を零にする。
 俺もファリンとの距離を詰めていたが、僅かに出遅れた。
 咄嗟に身を捩ってファリンからの狙いを反らす。
 しかし、ファリンは俺のその動きを読んでいたのか、斬り付けてきた逆のブレードで俺に対して斬撃を放つ。
(――――速いっ!)
 咄嗟に右手の小太刀で受け止めたが、俺の頬から僅かに鮮血が舞う。
 今の一瞬の攻防の間にファリンのブレードは俺の肉を浅く斬っていたらしい。
 軽く拭ってみるが、僅かながら痛みが走る。
 今の攻防だけで俺を捉えられるというのは流石に特筆に値する。
 シグナムでも今の一瞬で俺を捉えると言った芸当は出来なかったからな――――。
 裏を返せばファリンの実力がそれだけ優れたものだということでもある。
(……掠めたか)
 逆に今の攻防の間で軽く斬られたことで、頭が冷静に働く。
 ファリンは手加減なんてしていない。
 寧ろ、初手から動いてきたということを踏まえれば本気だということだろう。
 そして、今の攻防で俺が凌げなければ本気を出すに値しないという考えだったのかもしれない。
 ファリンは俺に斬り付けた後、すぐに間合いを取り直し、ブレードを構えている。
 一瞬の攻防を繰り返していたら、俺の二刀目の小太刀が動くということを察知しているのだろう。
 ファリンは俺に二刀目の小太刀を抜かせる間もなく、距離を取り直した。
 だが、今のまま一刀の小太刀だけで戦うというのには無理がありすぎる。
 実力においてはファリンが上回っている、だったら……俺が有利に立ち回るためには虚をついた攻撃が有効となる。
 俺は、小太刀を構えながら、再び思考の中に入った。
 ファリンに勝つためにはどうすれば良いのか――――。
 それを考えるために――――俺は思考を組み立て始めた。



































 From FIN  2008/10/13



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