「とは言っても……こう言ったことが出来るのは俺達だけじゃないけど、な」
素直に驚くユーノに苦笑しながら言う。
魔法や質量兵器に生身一つで対抗する……。
それは普通に考えれば在り得ないことのはずなんだと思う。
だが、御神流はそれが出来る術だし、他にもそう言ったことが出来る流派も存在する。
それに……啓吾さんとかだと普通に流派とかと関係なく、対抗出来たりする。
こういった術は多分、魔導師のいる世界では存在していないのだろう。
そう考えてみればユーノの反応は扱く、当然のことだと言える。
「まぁ、今回でそれがまた、解ると思う」
今回もまた、俺は御神の剣士として立ち合うことになっている。
相手は……ファリンだ。
もしかしたら、ファリンの秘密は皆には伝わっていないのかもしれない。
俺が午後からファリンと立ち合うと言ったら、すずかは少しだけ驚いた表情をしたが、すぐに承知してくれた。
ファリンの場合はノエルさんと違って普段がああだから……立ち合うということは難しいように見えるのかもしれないが……。
だが、そういったイメージがあるとしても油断するわけにはいかない。
なんと言っても俺は――――。
ファリンと立ち合って勝った例はないのだから――――。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「ユーノ、一つ聞き忘れたことがあるんだけど」
「なんだい?」
装備の確認を済ませた俺はユーノに尋ねる。
「なのはさんにここに来たのはもう伝えてあるのか?」
「うん、既に伝えてあるよ。もしかしたら後でこっちに来るかもしれない」
「……成る程」
既にユーノはなのはさんに到着したことは伝えてあったらしい。
流石にそうでもないと先に俺の側に来たりはしないだろう。
「もしかして、こっちにいることは念話で伝えたのか?」
「うん、そうだよ」
「……便利なものだな」
先程、なのはさんの携帯でユーノが連絡をしていたのは解っていたが、此方に来るまでに連絡を取ったと言うのは見られなかった。
そもそも、携帯などで連絡を取っていたら、普通に気配で解る。
だが、ユーノが何時、なのはさんに連絡を取ったかは解らなかった。
そう考えれば、念話を遣っているくらいしか考えられない。
「そうかもしれないけど……こう言ったことが出来ても君達みたいには凄くないさ」
「生身一つでのことに関してか?」
「……まぁね。もし、念話じゃなかったら悠翔は僕が何時、なのはに連絡を取ったかなんて解ってたんじゃないかな?」
「……否定はしないさ」
ユーノの方も俺が何を考えているかなんて既に把握していたらしい。
念話じゃなかったら解るというのは事実だからだ。
とりあえず、一つの疑問を聞いた俺は再度、自らの得物に意識を向け直す。
興味があるのか、ユーノが俺の得物をじっと見つめていたが、気にしないことにした。
ユーノに見守られながら、俺は小太刀をゆっくりと抜く。
先日のシグナムとの戦闘の時にも遣った小太刀。
とは言っても、この小太刀は俺のものでは無いため、遣い勝手においては飛鳳よりも悪い。
正直に言ってしまえば……よく、シグナムとの戦闘に耐えられたと思う。
それなりに出来の良いものを選んでいるとはいえ、これはあくまで無銘の小太刀だ。
俺の所有物の小太刀である飛鳳や恭也さんの八景、美由希さんの龍鱗などと言った御神流の家に伝わる小太刀には比べるべくもない。
今のところ、飛鳳は夏織さんに預けているため、手元には無い。
ファリンと立ち合うにしても、シグナムとの戦闘でのダメージの残っているこの小太刀では厳しいかもしれない。
この状態で、果たしてファリンとの競り合いに耐えられるかどうか。
かと言って小太刀のことに関しては良い訳にしかならない。
ファリンと戦うにあたっては全く、関係ないのだから。
俺は思案するのを止めて、小太刀を軽く振るう。
風を斬るような音が俺とユーノの間に響く。
刀を振るう上で響く独特の音。
以前は利き腕とは逆の腕である右腕ではこのような音を出すことも出来なかった。
だが、今は右腕でもこれだけ小太刀を振るうことが出来る。
利き腕である左腕でならば尚更、鋭く小太刀を操れるだろう。
かと言ってこの状態でもファリンを相手にして勝つことは無理だ。
利き腕には限界があるのだから。
ファリンに対しては大丈夫だと伝えているが、実際はどんなものかと言われると怪しいものがある。
腕を遣うには問題ないが、完全に治っているわけではない。
それに完全に治したとしても、痛みまでは完全には消えないという。
多分、治ったとしても遣い過ぎれば、多少の痛みがあるということなのだろう。
だが、それは今、関係あるということではない。
俺は考えるのを振り切った。
「悠翔。僕は今回、君が誰と立ち合うのかまだ聞いていないんだけど……」
「……何故、立ち合うと思った?」
黙って俺の様子を見ていたユーノが質問をしてくる。
そういえば、誰と立ち合うかなんて恭也さん達を除けば今回は誰にも伝えていなかった。
ユーノが疑問に思うのは当然だと言える。
「簡単な理由だよ。君が態々、すずかの家で小太刀を振るうような人じゃないからだよ」
「……成る程」
ユーノの言うことには一理ある。
俺がすずかの家で小太刀を振るっているのは普通に考えればありえないだろう。
俺だって普段なら他人の家で小太刀を振るおうとは思わない。
流石に、護衛の時くらいでなければこういった場所で小太刀を遣うということは考えられない。
「確かにユーノの言うとおりだ。そして、推察も間違っていない」
そう、ユーノの発言はまさに確信をついているものだと言える。
「俺が立ち合うというのは本当だ。多分、相手を聞いたら意外に思うかもしれないけど」
「意外な相手……? フェイトやはやてのことかい?」
「いや、違う。確かにフェイトやはやてともやってみたいとは思うが……」
ユーノも意外な相手と言うのが気になっているらしい。
とりあえず、フェイトとはやての名前をあげているが、それは全く見当違いだ。
「今回は、魔法とは一切、関係ない立ち合いだからな」
「魔法とは関係ないって……もしかして、ノエルさんとか?」
ここまで言って漸く、近い答えをだすユーノ。
流石にすずかの家に来てまで恭也さんとは立ち合わない。
それも解っているんだろう。
だが、その答えも少しはずれている。
ノエルさんを予想出来たのまでは流石だが……少し詰めが甘い。
「いや、ノエルさんでもない」
「じゃあ……いったい、誰なんだい? 恭也さんは違うと思うし」
最早、誰が相手なのかは解らないと言った表情でユーノが尋ねる。
ここで勿体ぶってもしょうがない。
別段、隠すことでも無いので伝えることにするか。
しかし、ユーノにとってはあまりにも意外すぎる名前になるだろうな――――。
From FIN 2008/10/5
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