「……フェイト」
「あ、悠翔……」
 戻ってきた私の姿を認めた悠翔がぼそりと私の名前を呼ぶ。
 いきなり、呼ばれたから私の方も少しだけ間の抜けた感じの返事になってしまう。
「……いや、なんでもない」
 そう言って何か考えごとを始める悠翔。
 もしかしたら、私とアリサの話が気になったのかもしれない。
 と言うことは……悠翔は私とアリサの会話は聞いてない……?
 それは今の段階では良いことだと思う。
 もし、悠翔に尋ねられたりしたら、今の私には答える術はないのだから。
 悠翔のことが好きだと言ってもそれはまだ、形になったばかりで……。
 きっと、悠翔にもこのことは全く理解出来ないんじゃないかと思う。
 悠翔もこの気持ちは知らないと思うから……。
 それに、私もまだ、この気持ちがしっかりと出来上がったわけじゃない。
 答えを出せるようになるまでは時間がかかってしまう。
 だから、今はまだ、悠翔がこのことを聞かないでくれているのが少しだけありがたかった。
 今は無理でも何時か、必ず、悠翔に伝えたいと思うから……。
















 ――――私の気持ちを






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 フェイトとアリサも会話が終わったのか、此方に戻ってくる。
 話の内容は解らないが……俺が聞いても解らないような内容だろう。
 俺の名前がちらほらと出てきていたような気がするが……。
 気にしなくても大丈夫だろう。
 多分、俺が聞いてもフェイト達が困ってしまうだけだろうからな。
 しかし、フェイトの頬が少しだけ紅く染まっているのは気のせいか?
「悠翔……話の方はもう良いの?」
「ああ。もう、大丈夫だ。ファリンの方も特に問題は無いと思う。後で呼ばれると思うけど」
「そうなんだ……」
 何やら少しだけほっとした表情をするフェイト。
 アリサと何を話していたのかは知らないが、フェイトは少しだけそわそわしているような感じがする。
 俺の顔を見るたびに何かぼ〜っとしたような雰囲気も。
「いったい、どうしたんだフェイト? 何か様子が変だぞ?」
「え、そ、そうかな?」
 ……うん、何か変だ。
 そこまで慌てることでも無いはずなのにフェイトはあたふたしている。
 元から、ぽや〜っとしているイメージはあったが……これは随分と可笑しい。
 なんか、俺のことを見つめているような……?
 ……アリサに俺のことで何か吹き込まれたのか?
 いや、その割にはフェイトの様子は俺のことを軽蔑したりはしていない。
 寧ろ、俺に向けてくる視線が以前よりも少しだけ熱を帯びているような気がする。
 とりあえずは気のせい……なんだろうか?
















 悠翔に様子が変だと言われてしまった。
 今の私ってそんなに様子が変なのかな……?
 ううん、悠翔にとっては変に見えているかもしれない。
 さっきから悠翔を見るたびに私は頬が熱くなってしまう。
 多分、悠翔から見ても可笑しいと言った感じで見えているのかもしれない。
 とは言っても悠翔は元々から、私のことを変な女の子だと見ているような気もするけれど。
 けど……こうやって、はっきりと意識しているとつい、悠翔をぽや〜っとした感じで見つめてしまう。
 悠翔が私の様子が変だと言っているのはこういったことのことを言っているのかもしれない。
 でも、悠翔の言うとおり私は変なのかもしれない。
 元々は、なんとなく視線で悠翔を追いかけていただけなんだけど……。
 はっきりと意識するようになってからは、はっきりと悠翔のことを追いかけている。
 正直な話、私自身も戸惑っていたりも。
 まるで、私が私じゃなくなっていくみたいで。
 でも……これはこれで嫌な気持ちじゃない。
 なんとなく、悠翔のことを考えていると温かい気持ちになる。
 それはとても、くすぐったくて。
 私もどうしたら良いのか解らなくなってしまう。
 でも、アリサの言うとおり、私自身の気持ちがはっきりした今はもっと正直になろうと思う。
 悠翔がどう思うかは解らないけど……。
 私自身は悠翔のことをもっと見つめていたいと思うから……。
















 フェイトの可笑しな様子に疑問を持ちながらも、なのはさん達とお話をする。
 まぁ、話の内容は俺には解らないものも多かったのだが。
「すずかお嬢様。少し良いでしょうか?」
「あ、うん」
 暫く、話をしているとすずかがファリンに呼ばれる。
 俺達からは少し離れて、すずかとファリンが何かの話をしている。
 もしかしたら……俺とのことに関係しているかもしれない。
 ……そろそろ、時間も昼に近い。
 今日は昼食は御馳走してくれると言うことだが……。
 昼食後から暫くして、俺との訓練でも考えている可能性は高い。
 実は、以前からファリンとはたまに訓練をさせて貰っている。
 だが……俺が利き腕を負傷して以来はそれを全くやっていない。
 と言うよりもファリンに会うのも今回が久しぶりなのだから。
「悠翔……?」
 俺がすずかとファリンの様子を見ながら考えごとをしているといつの間にかフェイトが俺の傍まで来て、顔を覗き込んでいた。
 気配に気付かなかったということは無いが……。
 態々、俺の傍まで来て顔を覗き込んでくるとは考えもしなかった。
「……フェイト?」
 俺はフェイトの様子に少し疑問を浮かべる。
 わざとやっているのか、やっていないのか解らないが……顔がやけに近い。
 フェイトからなんとなく、良い香りがする。
 これが女の子特有の何かと言うやつなのかもしれない。
(……俺は一体、何を考えている)
 一瞬、過ぎった考えを振り切って俺はすずかとファリンの様子を見つめる。
 このまま、フェイトをこの距離で見つめると不味い気がする。
「悠翔は……さっきからどうして、ファリンさんのことばかり見つめているの?」
 すると、フェイトが俺を見つめながら疑問を尋ねる。
「あ、いや……ちょっと、な」
 とりあえず、俺は尋ねられたことをはぐらかそうとするが……。
「私には言えないこと……?」
 フェイトは更に俺に尋ねてくる。
 まさか、フェイトがここまで積極的に俺のことを聞いてくるとは思わなかった。
 つい、少し前までは言いにくいことだったら尋ねてくることは無かった。
 しかし、今のフェイトはその疑問までも聞きたそうにしている。
(俺がファリンと話している間に何かあったのか?)
 そう言った考えが頭の中を過ぎる。
 先程、アリサと会話していた内容は聞いたら不味いと思ったから聞かなかったが……。
 それが大きく影響している可能性は高い。
 なんとなく、フェイトの視線がはっきりと熱を持ったのもつい、先程からだ。
 しかし……それが一体、何故なのかは俺には全く解らない。
 もしかして、アリサとの会話の中でフェイトの心境に何かしらの変化でもあったのだろうか……?



































 From FIN  2008/9/22



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