神速から抜け出た俺はその勢いのまま、なのはさんに向かって射抜で突撃する。
 なのはさんの速度では、回避するのも難しいはずだ――――。
 俺の予想どおり、回避は出来ないと悟ったなのはさんが、呪文の詠唱をする。
 恐らく、防御の魔法だろう。
 今のタイミングで足止めを狙っても、最早、間に合わない。
 回避をしたとしても、既に今の距離は俺達、剣士の領分であり、魔導師の領分ではない。
 なのはさんもそれは承知だったのか、今回の魔法の詠唱は随分と早い。
 射抜が決まる瞬間――――なのはさんの目の前に魔法陣が展開され、射抜を防ぐ。
 神速を遣っていないとはいえ、このタイミングで射抜を防ぐというのは流石としか言いようがない。
 だが、この段階で防がれるのもまだ、想定の範囲内だ。
 なのはさんも流石に時間が無かったのか、俺の小太刀を受け止めたシールドはピンポイントでしかない。
 この距離で、それだけの防御範囲しか無いのであれば、どうにでも出来る――――。
 それを認めた俺は射抜を放ったまま、二刀目の小太刀を抜き放った――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 俺が二刀目の小太刀を抜いたのに驚くなのはさん。
 だが、もうこの体勢からは防御出来ない。

 射抜を防いだのは流石だが、射抜にはこう言った遣い方もある……!





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜・追





 射抜・追は、射抜から二刀目の小太刀による追撃を加えた技。
 既に一撃目が見切られたり、防がれたりしているといった状況には効果的だと言える。
 今回の場合はまさにそのとおりの状況だと言える。
 俺は、なのはさんの防御の死角から回り込み、なのはさんに小太刀を向ける。
「っ……!?」
「……ここまで、だな」
 なのはさんの防御の間隙を抜いて、小太刀をなのはさんに向けた状態で止める。
 戦闘であれば、躊躇うことなく、小太刀を突き立てるが、今回の場合は模擬戦だ。
 これ以上はやる必要は無い。
 この時点で勝敗ははっきりしているのだから。
「そう……みたいだね」
 なのはさんも決着がついたことを理解したのか俺の問いかけに頷く。
 それを確認し、俺はゆっくりと小太刀を納刀する。
「はぁ……結構、本気だったんだけどなぁ……」
 なのはさんががっくりとした様子で溜息をつく。
 やっぱり、それなりには本気だったらしい。
 あれでウォーミングアップというのはなんとなく違う気がしたからな。
 まぁ……なのはさんがああだったから、俺もそれなりに本気で遣らせて貰ったのだが。
 それにしても、なのはさんは強い。
 欠点らしい欠点と言えば、接近戦にあまり対応していないことくらいか。
 多少は接近戦も出来るようだが、明らかに遠距離戦に比べると苦手なのが解る。
 だが、他の部分に関してはどこから見ても申し分ない。
 状況判断力と言ったものなどに関しても相当なものだと感じる。
 間違いなく、なのはさんは一流のレベルだ。
 今回に関しても、まぁ……相性の問題だろうな。
 飛行なしの上で接近戦に持ち込んだ時点で剣士に軍配が上がる。
 領分が違うのに本領発揮もあったものじゃないと思う。
 とは言ってもそれに関しては俺も初めは同じだったから五分五分くらいか?
 後は、押し切ったかたちだと言っても良い。
 後半は完全に自分のペースに持ち込めたからな……。
 それにしても、完全な本気じゃなかったとはいえ、なのはさんの実力は相当なものだと言える。
 しかし、朝っぱらからこれは流石にやり過ぎたかもしれない。
 幸い、短い時間だから問題は無いのだろうが……
















「ごめんね、悠翔君。ウォーミングアップだっていうのになんか熱くなっちゃって」
 申し訳なさそうに謝ってくるなのはさん。
 熱くなってしまったと言っているけど、それは此方も同じだ。
「いや、このくらいだったら構わない。俺にとっても良い訓練になったしな」
 なのはさんが申し訳なさそうにする理由なんてない。
 寧ろ、良い運動の仕上げになったと言える。
 特に今回は十字差しのままで戦ったから、このくらいで調度良いくらいだ。
 御蔭で、久しぶりに遣った十字差しの立ち回りを思いだせた。
 これからは十字差しと二刀差しの両方を上手く遣わないといけないからな。
 まぁ……俺の戦闘スタイルでは背負いを遣うことはあまりないだろうが……。
「でも、悠翔君もやっぱり、魔法を斬り落したり出来るんだね?」
「……あ、ああ。やっぱりと言うことは……恭也さんのことも言っているのか?」
「うん。お兄ちゃんの場合は、霊力とか剣気を流し込んでる……みたいなことを言っていたけど」
「成る程……」
 恭也さんが魔法を斬り捨てるのに霊力を遣ったというのは驚きだった。
 確か、恭也さんには霊力とかの特別な力は一切無かったと思う。
 だが、霊力以外で考えられるものもある。
 恐らくだが……恭也さんの場合は剣気から発現するものを遣っていると考えられる。
 俺も魔法を斬り捨てた時は意識せずに剣気を放っている。
 本来なら、形のないものは斬ることは出来ないが……剣士には形無きものを斬るという言葉があるくらいだ。
 俺も恭也さんもそれを実践したに過ぎない。
 俺から何か言うことがあるとすれば、恭也さんと同じようなことしか言えない。
 俺からもこのことに関しては詳しくは言えないからな……。
















「まぁ、俺の話は良いとして。なのはさんは話に聞いていたとおりに遠距離が専門なんだな」
 とりあえず、剣気とかの話をほどほどにして俺は話題を切り換える。
「あ、うん。そうなんだよ」
「とは言っても、露骨に距離をとろうとしているのは良くないな。あれだと接近戦や高速戦は苦手ですって言っているようなものだし」
「あぅ……」
「多分、なのはさんが距離をとろうとしてのは、魔導師では接近戦というのはあまりないと言うのが原因なんだろうと思うけど」
「う〜ん……そうだね。私の場合だと接近されると有効な魔法が殆どないし……」
 なのはさんの様子を見た限りでは予想どおりだったが……やはり接近されると有効な魔法が殆どないらしい。
 それは別段、欠点というわけでもない。
 魔法同士での戦闘であればそこまで接近戦をする必要もないと思えるからだ。
 相手が騎士だとしても、あくまで魔法同士、どうにでもやりようはあると思われる。
「まぁ……今回の場合だと接近戦に持ち込んだのが決め手だな」
「そうだね。私は悠翔君に接近戦をさせないように距離とかも調整していたんだけど……神速で一気に詰められちゃったし」
「いや……あの距離はギリギリだった。俺の場合は恭也さんみたいな芸当は出来ないからな。届かなかった距離に関しては奥義でカバーさせて貰った」
「えっと……あの突き技みたいなもののこと? 確か……お姉ちゃんや美沙斗さんが遣っていたものと同じに見えたんだけど」
「うん、そうだな。俺が遣ったのは美沙斗さん達が遣ったものと同じだ。まぁ……最後にちょっとした違いは入れたけど」
「ああ……最後に私に二つ目の小太刀を向けた時の動作だよね? あれも奥義なの?」
 俺が距離を詰めた技である射抜はなのはさんも見たことがあったらしい。
 美沙斗さんが海鳴に来た時にでも見る機会があったんだと思う。
 だが、俺が今回遣った、射抜・追に関しては見たことがないらしい。
「あれは、射抜の後に追撃を加える……まぁ、所謂、奥義の派生型だな」
「ふぇ〜そうなんだ〜。悠翔君ってそんなことまで出来るんだね?」
 俺の説明に何やら尊敬の眼差しを向けるなのはさん。
 いや、確かに射抜から追撃を加えて勝敗を決したというのはあるのだが……。
 俺自身はそこまで凄い真似をしたわけじゃない。
 寧ろ、俺の場合は恭也さん達に比べても大した真似は出来ない。
 なのはさんからそういった眼差しを向けられるのは少しだけ恥ずかしい気がした。



































 From FIN  2008/9/10



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