「ディバインバスターーーーー!」
 なのはの得意とする砲撃魔法が悠翔に向けられる。
 ディバインバスターが悠翔に向かって飛んでいく。
 当然、ディバインバスターに気付いていた悠翔が回避の動きをとる。
(……それなら!)
 しかし、なのはもそれは読んでいた。
 レイジングハートを操作し、狙いを悠翔から外さないようにする。
 悠翔に再び、ディバインスターが迫る。
 だが、悠翔は回避運動をとろうとはしなかった。
(どうして……?)
 なのはは悠翔が回避運動をとらないことに驚く。
 威力は大幅に抑えているとはいえ、悠翔には魔法を防ぐ術がない。
 それなのに、悠翔は全く、回避運動をしようとしない。
(いったい、どういうつもりなの……?)
 悠翔の行動は普通の常識では考えられない。
 受け止める手段が無いのであれば避けるしかない。
 だが、悠翔はまだ動こうとはしなかった。
 なのはは、悠翔の信じられないような行動が何を意味するのかを考えてみるが――――。
 悠翔が何を狙っているのかは、全く解らなかった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 なのはさんの魔法が狙っているのを後目に俺はなのはさんとの距離を測る。
 流石はなのはさんだ。
 俺の神速の距離がどのくらいなのかも計算しているらしい。
 なのはさんの読みどおり今の距離では神速は届かない。
 いや、正しくは神速を遣っても小太刀の届く距離までは届かないといったところか。
 しかし、なのはさんは一つ失念していることがある。
 確かにこの距離なら神速を遣っても小太刀は届かない。
 だが、御神流の奥義の中にも距離の長いものはある。
 シグナムとの戦いで遣うことはなかったが俺にはその奥義がある。
 なのはさんはそのことには気付いていない。
 俺は刀を納刀し、構えをとる。
(……まだだ)
 なのはさんの撃った魔法が俺に迫ってくる。
 俺は弾道を読み、そのまま足を溜める。
 距離が届かないのであれば神速の距離を延ばせば良い。
 俺には恭也さんのように神速を重ねて遣うことは出来ない。
 しかし、少しの回数であれば神速を連続で遣うことは可能だ。
 今の距離ではどうしても神速を2回遣わなくてはなのはさんまでは届かない。
 だが、俺の身体では2連続の神速は負担がかかりやすい。
 続けて遣うには多少の間が必要だ。
 そのことも踏まえて、俺は足を溜める。
 なのはさんの魔法がギリギリの距離まで迫る。
 それを認めた俺は、なのはさんに向かって地を蹴る。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 俺の視界から全ての色が失われ、モノクロの領域に入る。
 時間の感覚が引き延ばされ、周りの光景がスローモーションになっていき、俺は神速の領域に入った。
 神速の領域に入ったことで、なのはさんの魔法が静止したようになる。
 俺は魔法の間隙を抜け、なのはさんに向かって駆けだす。
 距離的には僅かに届かないと言ったところか。
 だが……それは計算の内だった。
















 思いもよらなかったタイミングでディバインバスターの射線上から悠翔の姿が掻き消える。
(え……このタイミングで……!?)
 ギリギリでディバインバスターの射線上から逃れたというのはまだ、納得は出来る。
 しかし、この距離で神速に入ってもなのはまでは届かないだろうと思う。
 だが、悠翔は全く、躊躇うことなく神速の領域に入った。
 悠翔の狙いが何かはまだ、解らない。
 それでも、悠翔が攻撃に転じようとしていることだけは理解出来た。
 レイジングハートに悠翔が接近しているのかを確認する。
 帰ってきた返答は間違いなく、悠翔は此方に迫っているとのこと。
 だが、レイジングハートにも悠翔がどれだけの速度で動いているのかは解らなかった。
 神速の場合は普通の速度とは意味合いが違う。
 例えば、魔法の場合はどれだけ速く動いたとしても、時間の感覚に関しては変わらない。
 しかし、神速の場合は速度を上げた上で、時間の感覚まで引き延ばしている。
 魔法での加速とは大きな違いがあると言える。
 そのため、レイジングハートには神速の領域を計ることが出来ないのである。
(くる……?)
 なのはは今までの経験から来る勘で悠翔の動きを見定める。
 だが、悠翔がどのタイミングで出てくるかまでは解らない。
 なのはがレイジングハートを構え、悠翔の出現するタイミングを見計らった瞬間――――。
 離れた距離に悠翔が出現する――――。
















 神速の領域から抜け出た俺はまだ、なのはさんからは離れた距離にいる。
 飛針や鋼糸であれば届くくらいの距離……はっきりと言ってしまえば、小太刀ではとても届かない距離だ。
 なのはさんなら俺が暗器の類を扱えることは知っているはず。
 そう考えれば、飛針や鋼糸、小刀と言ったものはほぼ、確実に防がれてしまう。
 だが、その辺りは承知の上だ。
 それも踏まえて、ここまで距離を詰めたのだから。
 確かに小太刀では届かない距離――――。
 だが、御神流にはこの距離からでも届く奥義がある――――。
 そして、俺は……その奥義の遣い手の一人だ――――。
 俺は小太刀を抜刀し、なのはさんに向かって地を蹴る。
 一瞬、俺の行動に驚き、レイジングハートに命令しようとするなのはさんだが……既に遅い。
 既になのはさんは俺の奥義の射程内にいる――――。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之参・射抜





 美沙斗さんから教わった、御神流の奥義の中でも最長の射程を誇る奥義がなのはさんに向けられる。
 射抜は超高速の突き技であり、かつ、様々に変化をさせることが出来る奥義だ。
 そして、この射抜は雷徹に続いて、俺が遣い込んでいる奥義の一つ――――。
 このタイミングで遣うのは当然だと言える。
 神速から抜け出た俺はその勢いのまま、なのはさんに向かって射抜で突撃する。
 なのはさんの速度では、回避するのも難しいはずだ――――。
 俺の予想どおり、回避は出来ないと悟ったなのはさんが、呪文の詠唱をする。
 恐らく、防御の魔法だろう。
 今のタイミングで足止めを狙っても、最早、間に合わない。
 回避をしたとしても、既に今の距離は俺達、剣士の領分であり、魔導師の領分ではない。
 なのはさんもそれは承知だったのか、今回の魔法の詠唱は随分と早い。
 射抜が決まる瞬間――――なのはさんの目の前に魔法陣が展開され、射抜を防ぐ。
 神速を遣っていないとはいえ、このタイミングで射抜を防ぐというのは流石としか言いようがない。
 だが、この段階で防がれるのもまだ、想定の範囲内だ。
 なのはさんも流石に時間が無かったのか、俺の小太刀を受け止めたシールドはピンポイントでしかない。
 この距離で、それだけの防御範囲しか無いのであれば、どうにでも出来る――――。
 それを認めた俺は射抜を放ったまま、二刀目の小太刀を抜き放った――――。



































 From FIN  2008/9/8



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