「えへへ……ありがと、悠翔君。それじゃあ、準備をするね」
 似合うと言われたのが良かったのか嬉しそうな表情で御礼を言うなのはさん。
 レイジングハートに声をかけ、意識を集中するなのはさん。
 多分、結界か何かの準備をしているのだろう。
 流石に早朝で人がこないとはいえ、剣と魔法とでの模擬戦なんて見られたら不味い。
 俺の方はまだ、見られても大丈夫だが……なのはさんの場合はそうはいかない。
 万が一、悪意のある人間に知られたら魔法どころか、管理局の存在といったところまでばれてしまう可能性も否定は出来ない。
 実際にそう言った人間は多いから、な。
 俺が思案していると、結界の準備を終えたなのはさんから声がかけられる。
 これで、準備は完了と言うことらしい。
 話によればなのはさんは遠距離を得意とする魔導師なんだとか。
 先日に戦ったシグナムとは全く、違うタイプ……。
 それもシグナムとは全く、逆のタイプだとも言える。
 今回は、ウォーミングアップと言うこともあって簡単な模擬戦と言った感じだがそれでも、なのはさんの実力には大きく期待がかかる。
 なんたって”エースオブエース”とまで呼ばれているくらいらしいからな。
 なのはさんの纏っている空気が変わったことを確かめた俺は気を引き締め直す。
 模擬戦とはいえ、油断は禁物だ。
 相手は……なのはさんなのだから。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 まずは御互いに距離をとって、模擬戦開始の準備をする。
 初めから距離を詰めていたら、俺の方が有利すぎるからな。
 と言うか、初めから距離が近かったら、なのはさんのようなタイプは戦術を限定されてしまう。
 近距離というのは俺達、剣士の領分だ。
 なのはさんのような魔導師では本領を発揮することは敵わない。
 先日、相対したシグナムは魔導師では無く、騎士だということだから普通に俺とも戦えたが……。
 魔導師ではそうはいかない。
 一応、話によればフェイトのような変わり種もいるらしいが、基本的には魔導師は接近戦にはあまり、対応していないと言う。
 例えば、クロノさんは遠距離戦も接近戦もこなせるらしいが、それは稀な例だということらしい。
 それだけ、魔導師という枠の中では接近戦は少ないものだと言えるらしい。
 逆を言えば、剣士のような戦闘スタイルとは殆ど戦うことはない。
 だからこそ、御神流のような古流剣術は魔導師の基準では測れないだろう。
 魔導師のいる世界にはこういったものは全く発展していないらしいからな。
 だからこそ、此方では魔法が全く発展していないのかもしれない。
 距離を取った俺となのはさんは御互いの得物を構える。
「高町なのはとレイジングハート……行きます!」
「小太刀二刀御神不破流……不破悠翔、参る……!」
 そして、違いの名乗りが模擬戦の開始の合図となった。
















 まず、動くのは俺の方。
 前提条件の都合で距離をとっていたが、俺の場合は接近戦に持ち込まなくては話にもならない。
 だが、神速の使用はしない。
 神速であれば距離は零に出来る。
 しかし、神速を遣ってしまえば距離をとった意味が無くなってしまう。
 俺が動き始めたことを認めたなのはさんがレイジングハートを構え、魔法の詠唱をする。
 魔法陣と魔力の光が発現し、なのはさんの周囲に光の弾が現れる。
 数は、目視だけではとてもじゃないが数えられない。
「アクセルシューター!」
 なのはさんの声と共に光の弾が俺に迫ってくる。
 周囲に多数の数が浮いているが、動きが一定では無い。
 直線的に動くもの、曲線的に動くもの、または待機しているもの……。
(所謂、誘導……と言うやつか)
 俺はそう結論付ける。
 光の弾の動きに一貫性というものが感じられない。
 恐らくは、なのはさんの意志で操っているのだろう。
 なのはさんの命令で俺に向かってくる弾は全方位から襲ってくる。
 だが、対処に関しては大きな問題は無い。
 俺は、右手の小太刀で魔力弾を斬り落していく。
 しかし、一つ一つ、斬り落していくだけでは間に合わない。
 俺は一度に数個の弾を斬り落していく。
 体感の速度に関しては普通の拳銃と対して変わらない。
 寧ろ、光を放っている分だけ拳銃に比べれば読みやすい。
 弾道を見極めながら、俺は対処を続けていく。
 なのはさんも俺の死角の範囲などから狙えるように操っているが、そう言ったものは此方にはつうじない。
 魔力は気配に似た感じで、違和感として捉えている。
 死角から狙って来ても察知するには全く、問題は無い。
 魔力弾を斬り落しつつ、俺はなのはさんとの距離を詰め始めた。
















(やっぱり、お兄ちゃんと同じでつうじない……)
 アクセルシューターを斬り落しながら距離を詰め始める悠翔の姿を見ながらなのははそう考える。
 恭也との模擬戦の時にもアクセルシューターは遣っているのだが、悠翔にも対処されてしまっている。
 それも、神速を遣わずに。
 アクセルシューターがつうじない可能性は考えていたが、それでも利き腕とは逆の小太刀だけで対処をされてしまったことは驚きだった。
 考えていた以上に悠翔は強い。
 なのははそう感じた。
 このまま、アクセルシューターを撃ち続けても悠翔にはつうじない。
 だったら、別の方法で対処をするしかない。
 なのははバインドの設置をし、ディバインバスターの準備をする。
 普通にディバインバスターを撃っても悠翔に当たる可能性は殆どない。
 だったら、前もって足止めをしてしまえば良い。
 なのははチェーンバインドで悠翔の足止めを狙う。
 しかし、悠翔はなのはの考えを読んでいたのか、踏み込んでくる先を変えてきた。
 多分、考えていることは読まれている。
(流石……だね)
 明らかになのはの考えていることは既に悠翔に読まれていた。
 悠翔は全く、バインドにかかる様子がない。
 設置している地点に近付いても悠翔は方向を変えるか、飛針を投げて強制的に発動させてしまう。
 明らかに設置場所が読まれているとしか言えない。
 そして、なのはが次に何をしようとしているのかも読まれている可能性がある。
(けど、このまま何もしないわけにはいかないから!)
 悠翔が動きを読んでいるのを承知で、なのははディバインバスターの詠唱を始める。
 レイジングハートが起動し、魔法陣が展開される。
 そして、狙いを悠翔に定める。
 悠翔の動きは確かに速いが、神速を遣っていないのであれば狙えないことは無い。
 それに、今の距離であれば悠翔の神速が届くとは思えなかった。
「ディバインバスターーーーー!」
 なのはの得意とする砲撃魔法が悠翔に向けられる。
 ディバインバスターが悠翔に向かって飛んでいく。
 当然、ディバインバスターに気付いていた悠翔が回避の動きをとる。
(……それなら!)
 しかし、なのはもそれは読んでいた。
 レイジングハートを操作し、狙いを悠翔から外さないようにする。
 悠翔に再び、ディバインスターが迫る。
 だが、悠翔は回避運動をとろうとはしなかった。
(どうして……?)
 なのはは悠翔が回避運動をとらないことに驚く。
 威力は大幅に抑えているとはいえ、悠翔には魔法を防ぐ術がない。
 それなのに、悠翔は全く、回避運動をしようとしない。
(いったい、どういうつもりなの……?)
 悠翔の行動は普通の常識では考えられない。
 受け止める手段が無いのであれば避けるしかない。
 だが、悠翔はまだ動こうとはしなかった。
 なのはは、悠翔の信じられないような行動が何を意味するのかを考えてみるが――――。
 悠翔が何を狙っているのかは、全く解らなかった。



































 From FIN  2008/9/7



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