「シグナムさんと戦った時もそうだったけど、こうやって見ているとやっぱり違うなって思って……」
「そうだな……恭也さんと全然、違うのはやっぱり、悪い箇所が利き腕だからってことだと思う」
「えっと……悠翔君の場合は左腕なんだよね?」
「うん。そのとおりだ。俺は基本的に利き腕とは逆の腕で小太刀を遣う。唯、どうしてもバランスが悪くなってしまうんだ」
「そうなの? 私にはそうは見えなかったんだけど……」
 俺の返答に疑問そうな表情で首を傾げるなのはさん。
「……それなりに苦労はしたからな。ここまで遣えるようにするのに結構、無茶をした気がする」
「そ、そうなんだ……」
 無茶をした気がするという言葉を聞いたなのはさんが苦笑する。
 まぁ……ここは色々と考えたからな。
 どこまで、逆の腕を利き腕に近付けられるか。
 出来る限りのことはやったと思う。
 それでも……結局はここまでしか扱えるようにしかならなかった。
 流石に利き腕とは違う腕では勝手が違う。
 かと言って利き腕を遣うことはあまり出来ない。
 左腕を悪くして以来、遣い過ぎると痛みがはしるようになってしまった。
 だが、そのくらいは百も承知だ。
 逆の腕である右腕で出来ること……。
 今の利き腕で出来ること……。
 それを踏まえた上で、今の俺自身で出来ること……。
 唯、それを怠らずにやっていくだけなのだから。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「俺は後、少しだけ小太刀を振ってから戻るけど……なのはさんはどうする?」
 このまま、見て貰うだけと言うわけにもいかないので俺はなのはさんにどうするかを尋ねる。
「ん〜……私はまだ、見てても大丈夫だけど……。あ、そうだ。悠翔君。私と軽く模擬戦でもしてみない?」
「なのはさんと?」
 なのはさんからは意外な提案が。
 まさか、模擬戦をやってみたいと言うとは思わなかった。
 もしかしたら、先日のシグナムとの戦闘のことも影響しているのかもしれない。
「うん。とは言っても模擬戦と言うよりも悠翔の剣術を体感してみたいって思って……」
「それは別に構わないけど……本当に軽くで良いんだな?」
「うん。悠翔君もファリンさんと何かするかもしれないんだよね? だから、ウォーミングアップくらいのつもりで良いよ」
「……成る程」
 確かになのはさんの言い分には一理ある。
 ファリンとあることをやる可能性があると言う段階ではもっと身体を慣らしておいた方が良い。
 1人で剣を振るうだけでもウォーミングアップとしては悪くは無いのだが……相手がいて貰った方がもっと良いのも確か。
「じゃあ……軽くウォーミングアップ程度でやらせて貰う。一応、確認しておくけど、あくまで模擬戦なんだな?」
「うん、そうだよ」
 なのはさんに一応の確認をとっておく。
 あくまでこれが模擬戦なのかと言うことを。
 模擬戦か、戦闘かで意識は大きく切り換えなくてはならない。
 模擬戦であれば、状況にもよるが、本気で戦う必要はあまり無い。
 逆に戦闘であるなら、意識も含めて、全ての要素で本気になる必要がある。
 そう言った意味でも大きく違うと言える。
 なのはさんが提案しているのは模擬戦の方だ。
 だったら、俺も身体を慣らすと言う感覚でやらせて貰える。
 俺はなのはさんの提案に応じることにした。
















 まずは、違いに距離をとり、得物を構える。
 なのはさんの方は紅い宝石のついた杖……確かレイジングハートとか言っていたか。
 俺の方は無銘の小太刀。
 なんかこうやって見てみると……俺の方があまりにも得物が悪くないか?
 なのはさんの方は自分の愛用のもので、しかも特別性だ。
 それに対して俺の方は……多少、出来が良いものを選んであるが、無銘のもの。
 ようするに……探せば売っていなくもないものだったりする。
 今更ながら、シグナムとよく、普通に戦えたな、と思う。
 シグナムの得物はレヴァンテインとか言う騎士剣。
 あれもまた、特別性なのは間違いない。
 シグナムの魔力によって形を変え、騎士剣としても優れた武器。
 はっきり言って凄い武器だったと思う。
 実際は、武器によっても戦闘には影響が出たりするからな……。
 無銘の小太刀でここまでやれるのは単に御神流を修めているのが大きい。
 なのはさん達に対して、得物の差を詰めるとすれば……どうしても、自分の小太刀である飛鳳がいる。
 飛鳳であれば、無銘の小太刀に比べればずっと分が良い。
 少なくとも、得物と言う点に関しては恭也さんの八景にも引けはとらないと思う。
 いや、寧ろ……美由希さんの得物である龍鱗にも引けはとらない。
 飛鳳はそれだけ小太刀としては優れたものだ。
 それでも、魔法に比べてみると随分と差があると言えるのだが。
 得物の差を埋めるというのも剣士にとっては必要なことだ。
 それは魔法が相手だとしても例外じゃない。
 相手の得物がなんだとしても、俺は剣士として相手をするだけだ。
















「なのはさん、準備の方は良いか?」
「あ、うん。ちょっと待っててね」
 俺の方は準備が終わっているのでなのはさんに確認を取る。
 すぐに返事が返ってきたところを見るともう少しだけ準備がいるらしい。
 なのはさんがレイジングハートに声をかける。
 その瞬間、目の前に光が広がる。
 多分、バリアジャケットと呼ばれる衣装を纏っているのだろう。
 因みに原理から考えると……いや、これ以上は何も言えないな。
 多分、口にすると不味い気がするからな。
 少しの間だけ待つとバリアジャケットを装着したなのはさんの姿が現れる。
 白を基調とした服装。
 ミニスカートとニーソックスが眩しい。
 ……って俺はいったい、何を考えている。
「どうしたの、悠翔君?」
「い、いや……なんでもない」
 流石にこういったことを考えていたというのは不味い。
 少しだけ動揺しつつも、俺はなんとか取り繕う。
「ふ〜ん……そうなんだ〜。もしかして、私の衣装が可笑しいとか?」
「い、いやっ……そんなことは無い。寧ろ似合っていると思う」
 これは本当のことだ。
 白を基調としたその衣装はなのはさんに良く似合っている。
 まぁ……あっちにも目が向くのは多分、気のせいだ。
「えへへ……ありがと、悠翔君。それじゃあ、準備をするね」
 似合うと言われたのが良かったのか嬉しそうな表情で御礼を言うなのはさん。
 レイジングハートに声をかけ、意識を集中するなのはさん。
 多分、結界か何かの準備をしているのだろう。
 流石に早朝で人がこないとはいえ、剣と魔法とでの模擬戦なんて見られたら不味い。
 俺の方はまだ、見られても大丈夫だが……なのはさんの場合はそうはいかない。
 万が一、悪意のある人間に知られたら魔法どころか、管理局の存在といったところまでばれてしまう可能性も否定は出来ない。
 実際にそう言った人間は多いから、な。
 俺が思案していると、結界の準備を終えたなのはさんから声がかけられる。
 これで、準備は完了と言うことらしい。
 話によればなのはさんは遠距離を得意とする魔導師なんだとか。
 先日に戦ったシグナムとは全く、違うタイプ……。
 それもシグナムとは全く、逆のタイプだとも言える。
 今回は、ウォーミングアップと言うこともあって簡単な模擬戦と言った感じだがそれでも、なのはさんの実力には大きく期待がかかる。
 なんたって”エースオブエース”とまで呼ばれているくらいらしいからな。
 なのはさんの纏っている空気が変わったことを確かめた俺は気を引き締め直す。
 模擬戦とはいえ、油断は禁物だ。
 相手は……なのはさんなのだから。



































 From FIN  2008/9/6



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