まさか、フェイトが学校をさぼってまで俺に会いに来るとは思わなかった。
 それも、俺のことが心配だったからと理由で。
 と言うことは俺が利き腕をまた、痛めたのはフェイトに大きな心配をかけてしまったといえる。
 それはとても、申し訳ないことだった。
 左腕を痛めたのは俺の過失であって、フェイトの責任ではない。
 それでも、フェイトは俺の左腕を案じてくれていた。
 俺も素直に嬉しく思う。
 しかし、俺のために学校をさぼらせてしまったのは申し訳ない。
 まだ、今の時期だと勉強というのはとても大切だからだ。
 かく言う俺も今は学校を休学しているから大きなことは言えないのだが……。
 まぁ……既に済んだことだから気にしないことにする。
 とりあえず、フェイトを伴って翠屋へと歩いていく。
 フェイトも俺について来てくれている。
 なんとことも無いことのはずなのだが……フェイトが素直に俺について来てくれることが嬉しかった。
 なんとなく、俺はフェイトにそっと手を差し伸べてみる。
 すると、フェイトがおずおずと手を重ねてくれたのが解った。
 俺は差し出されたフェイトの手をそっと握る。
 フェイトも俺の手をそっと握り返してくる。
 それが、なんとなく気恥ずかしかった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「……フェイトは嫌じゃ無いのか?」
「ううん。別に嫌じゃない、よ」
 悠翔が私に尋ねてくる。
 悠翔が言いたいのは多分、私と手を繋いでいること。
 もし、嫌だったら私は手を差し出された時に悠翔の手を握っていないと思う。
 けど、私は悠翔が手を差し出してくれたのが嬉しくて。
 そのまま手を繋いで……。
「……そうか。フェイトがそう言ってくれて嬉しい」
「……悠翔」
 私の目を見ながら優しく微笑む悠翔。
 その表情に私は見とれてしまって……頬が熱くなるのを感じる。
 でも、そうやって頬が熱くなるのが何かはよく解らなくて。
 どうして、そう感じるのかも解らなくて……。
 本当に私はどうかしてしまっているのかもしれない。
「フェイト?」
「あ……な、なんでもないっ……」
 考えごとをしていたら悠翔に顔を覗きこまれる。
 でも、その距離がとても近くって……。
 とは言っても私と悠翔は手を繋いでいるから距離が近いのは当然なわけで……。
 って……違うっ。
 悠翔に近くで見つめられて私は慌てて取り繕う。
 でも、上手くは取り繕えなくて……。
 慌てた様子の私を見て悠翔は苦笑している。
(あぅ……恥ずかしい……)
 そう思っても誰も何もしてくれるわけもなくて。
 悠翔は唯、私を見つめているだけ。
 でも、私は頬が熱くなってしまって……。
 本当にどうかしてしまったとしか言えない……。

 どうして……かな?
















 暫くして……翠屋に到着する。
 そして、悠翔は少し考え込む。
「どうしたの? 悠翔」
「……道場の方へ行ってくる」
 私が尋ねると、悠翔は道場へ行くとだけ伝えて、士郎さんに許可を求めに行く。
 士郎さんから許可を貰って戻ってきた悠翔さんは早速、道場へ向かおうとする。
「……フェイトも一緒にいこう」
 道場に向かおうとした悠翔さんが私に尋ねてきます。
「え……良いの?」
「……ああ。とは言っても俺の左腕はあまり遣えないし、面白い物も見せられない。でも、時間稼ぎにくらいはなるだろ?」
 時間稼ぎくらいって……そう言えば私は学校をさぼってきてる。
 だったら、悠翔の言うとおりかもしれない。
 確かに早く戻ってしまうと悪いと思うし……。
 でも……特に面白いものは見せられないと悠翔は言うけど……。
 私にとっては願ってもないことだと思う。
 また、悠翔の剣を見られるなんて。
 昨日、見せて貰ったのは戦闘で遣う悠翔の剣。
 だけど、今回見れるというのが、悠翔が普段遣っている剣というのなら尚更興味がある。
 私と同い年にして……御神不破の免許皆伝を持っている悠翔……。
 そう言った意味では私達とは全く違って。
 でも、剣を振るっている時の悠翔は怖いけど、格好良くて……。
 不謹慎かもしれないけど、そう言った意味でも悠翔の剣は気になってしまう。
「本当は今日は剣を振るうつもりは無かった。だが……なんとなく、今は剣を振るわずにはいられない」
「悠翔……?」
 悠翔さんが振るうつもりが無かったという剣を振るうと言っている理由が解らない私は首を傾げる。
 私は何故、悠翔がそう考えたのかは解らないまま、翠屋を出ていく悠翔についていった。
















 道場についた俺は意識集中し、持っていた小太刀を右手に構える。
 フェイトは俺がどこに小太刀を持っていたのかが解らなかったのか出した時は驚いた表情をしていた。
 ……基本的に小太刀は隠しているからな。
 因みに今回の俺の場合は、二刀差しと呼ばれる差し方をしている。
 二刀差しと言うのは御神流の刀の差し方の一つで、ちょうど、昔の侍がしていたように、腰に2本の小太刀を差す方法だ。
 二刀差しは、はっきりと言ってしまえば2本を同時に抜いたり、飛んだり跳ねたりするのには余り向いていない。
 だが……抜刀を基本に連続攻撃を仕掛けたり、片手一刀で闘ったりすることの多い戦闘法に向いている。
 実はこの二刀差しと言うのは正統の御神流では、ほとんど絶滅していた差し方だが、俺は利き腕の都合もあってこれを遣っている。
 因みに……二刀差しは俺以外だと士郎さんが主に遣っている。
 他には、士郎さんの弟である一臣父さんの場合だと背負いと呼ばれる差し方を遣っていることが多かったと思う。
 背負いと言うのも御神流の刀の差し方の一つで、背中に二本、互い違いに垂直に差し、首の裏から一刀、腰から一刀を抜く。
 抜刀はやりにくいが、投げ物などの他の武器を扱うとき、体術を使うときには刀が邪魔にならない。
 御神流の中でも、特に『裏』に属する人間がよく遣うやり方だ。
 後は十字差しと言う差し方があるが……これは御神流の刀の差し方の中でも、もっとも基本の差し方だと言っても良い。
 背中側の腰で、十字に交差する形で刀を差す。
 特徴としては、脚の運びを邪魔しづらく、比較的抜刀もしやすい。
 確か……美由希さんが好んでこの差し方をしているな。
 後は、恭也さんも十字差しを遣うことが多い。
 だが……恭也さんの場合は状況によって、差し方を変更している。
 恭也さんの場合はなんと言えば良いかは解らないが……恭也さんならではの差し方と言うのがあるのかもしれない。
 あまり重要視はされないように見られているが……因みに小太刀の差し方も重要な扱いの一つだ。
 俺も二刀差しを基本としてはいるが、十字差しだって遣おうと思えば遣えるし、背負いを遣う場合もあるかもしれない。
 それだけ、小太刀の取り回しの方法と言うのも重要だと言える。
 とまぁ……随分と話がそれてしまったが、右手に一刀だけを持って俺は小太刀を振るう。
 今は唯、小太刀を一心に振るいたかった。
 先程の不可解な集団のこともある。
 だが、今はそんなことは関係ない。
 今は唯、フェイトに俺の小太刀を振るう姿を見て貰いたかった。
 俺はそのためだけに小太刀を振るう。
 フェイトは暫く、驚いた表情をしていたが、俺の小太刀を振るう意図を理解したのか、黙って俺の姿を見つめ続けてくれている。
 だが、フェイトに本来の俺の剣を見せることは出来ない。
 今は唯、それだけが申し訳なかった。



































 From FIN  2008/8/21



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