他愛もないことを考えながら、病院の周りを歩き回る。
 ここまで広いと、ここが病院だというよりは大きな公園だと錯覚してしまう。
 そのくらい、ここは広いし、天気のほうも良かった。
 更に、暫くの間、俺は歩き回る。
 すると、なんとなくだが、目立たないと感じるような場所に開けた場所を見つけた。

 なんだ、この感じ……?

 俺は赴くままにその開けた場所へと歩いていく。

 人の気配――――?

 俺がその開けた場所に近付くと人の気配がした。
 こんなところに人がいるのも珍しい。
 入院している人がこんな場所に来るというのも考えにくい。
 だが、その気配に俺は何かを感じたような気がする。
 なんとなく、その気配が気になって近付くと――――。
















 そこには、見覚えのない人間の集団がいた。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 何をやっているのかは解らないが、数人単位の集団がいた。
 声はここまで聞こえない。
 だが……その気配からしてまともな雰囲気は微塵も感じられなかった。
 ……しかけるべきかどうかを考える。
 しかし……今の状態でしかけても何も出来そうにはない。
 小太刀や暗器は全て揃えているが、肝心の左腕を遣うことが出来ない。
 相手の力量を察する限りでは片腕でもなんとかなる。
 だが……今はしかけるべきでは無いと思う。
 あの集団は密談をしているだけであって何かをしているという証拠がない。
 俺から何かをしかけるという真似は出来ないと言える。
 残念ながら、見ているしか無い。
 暫く見てみるとその集団は何事も無かったように解散する。
 その手際は鮮やかだった。
 しかし……何故、こんなところでかは解らない。
 状況から察するに偶然に近い形ではある。
 だが、その目的が一体、何なのかは俺には全く解らない。
 解っていることとすれば、何かをしようとしていたこと。
 唯、それだけだ――――。
「きゃっ……!?」
 その集団が解散した後、俺が殺気を放って睨みつけた瞬間、後ろから女の子の悲鳴がした。
(っ……!?)
 その気配を感じた俺は意識をする間もなく、身体を動かす。
 咄嗟の判断だった。
 後ろを振り向いた先にはフェイトがいた。
 何故、彼女がここにいるのかは解らないが、俺の殺気に当てられたか体勢を崩しそうになっていた。
 恐らく、俺を見つけたから走ってこようとしていたのだろう。
 そして、俺が殺気をぶつけたため、急に身体が硬直した。
 理由としてはそう言ったところだろう。
 俺は迷わず、フェイトに向かって走り出す。  だが、この距離では間に合わない。
(だったら――――!)
 最早、普通に駆け抜けるだけでは間に合わないのなら遣うしかない。
 俺の視界から全ての色が失われ、時間の感覚が引き延ばされていく。
 そして、そのまま、俺はその領域の中を駆け抜ける――――。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 神速の領域に入った俺は体勢を崩したフェイトに向かって地を蹴る。
 普通に駆け抜けるだけでは届かないはずの距離も神速であれば届く。
 俺は神速の領域の中を駆け抜け、フェイトとの距離を零にする。
 そして、神速の領域から抜け出た俺はフェイトを抱きとめた。
















「きゃっ……!?」
 たった今、私は何が起きたのか解らなかった。
 解っていることは私が体勢を崩した時に悠翔が助けてくれたということ。
「大丈夫か……?」
 私と目があった悠翔が私の顔を心配そうに覗きこむ。
 その表情は本当に真剣で、心の底から私のことを心配してくれているのが解る。
「あ、うん……悠翔のお陰で大丈夫」
「……そうか、それは良かった」
 私が無事を伝えると悠翔は安心したのか、私をゆっくりと降ろしながら優しい表情を見せてくれる。
 その表情に私はなんとなく、目が離せなかった。
「ごめん、また……悠翔に助けられたね」
 私は申し訳なく思いながら悠翔に謝る。
「……いや、それくらいなら構わない」
 少しだけむっとした感じみたいだったけど悠翔は怒ってはいないみたいで。
「だが……何故、フェイトがここにいるんだ?」
 でも、やっぱり私がここに来ているのは疑問だったみたいで。
 当然のように悠翔は私に尋ねてくる。
「あ、えっと……その……悠翔が心配だったから。こっそり着いてきたの」
 嘘をついても仕方が無いから私は正直に悠翔に理由を伝える。
「それは個人的には嬉しいけど……流石に学校をさぼったら駄目だぞ?」
「あぅ……」
 悠翔の言葉に何も返すことの出来ない私。
 確かに悠翔のことを考えていて学校の授業どころじゃなかったらこっそりとさぼって着ちゃったけど……。
「でも、それも俺を心配してくれての行動だろ? だったら、御礼を言うのは俺の方だ」
「……え?」
 悠翔からは意外な言葉。
 悠翔は真面目だからさぼったりしたら……怒るかと思っていたのに。
「ま、確かにさぼったの悪いけどな。たまにはそんな日もあるだろうし。良いんじゃ無いか?」
「……うん」
 意外だけど悠かけるからは嬉しい言葉。
 確かに今日の私は悠翔の様子が気になって授業どころじゃ無かったから……。
 でも、悠翔の言うことを否定出来ないなのもなんか恥ずかしくて。
 少しだけ私の頬が熱くなる。
 でも……なのは達には黙って悠翔のところに来ちゃったから少しだけ悪い気もする。
「……とは言ってもフェイトのやってることはあまり良くないことだしな……さて、どうするか」
 私が考えごとをしていると悠翔がぽつりと呟く。
 う〜ん……確かに悠翔の言うとおり、学校をさぼってるからあまり、このままでいるのは良くなくて。
 かと言ってそのまま、悠翔と一緒に出かけたりしても後が不味いし……。
「……仕方がない。とりあえずは翠屋に戻るか? 多分、士郎さんも桃子さんもあまりそういうことには煩くないだろう」
 少し思案して悠翔が提案をする。
 その提案は確かにその通りで。
 士郎さんも桃子さんもあまりそう言ったことは気にしなさそう。
 とは言っても学校をさぼるのって少しだけ悪いことをしてる気分。
 そういえば、私って執務官なんだけど……・。
 これって、ちょっと問題のある行動かな?
















 俺は内心、驚いていた。
 まさか、フェイトが学校をさぼってまで俺に会いに来るとは思わなかった。
 それも、俺のことが心配だったからと理由で。
 と言うことは俺が利き腕をまた、痛めたのはフェイトに大きな心配をかけてしまったといえる。
 それはとても、申し訳ないことだった。
 左腕を痛めたのは俺の過失であって、フェイトの責任ではない。
 それでも、フェイトは俺の左腕を案じてくれていた。
 俺も素直に嬉しく思う。
 しかし、俺のために学校をさぼらせてしまったのは申し訳ない。
 まだ、今の時期だと勉強というのはとても大切だからだ。
 かく言う俺も今は学校を休学しているから大きなことは言えないのだが……。
 まぁ……既に済んだことだから気にしないことにする。
 とりあえず、フェイトを伴って翠屋へと歩いていく。
 フェイトも俺について来てくれている。
 なんとことも無いことのはずなのだが……フェイトが素直に俺について来てくれることが嬉しかった。
 なんとなく、俺はフェイトにそっと手を差し伸べてみる。
 すると、フェイトがおずおずと手を重ねてくれたのが解った。
 俺は差し出されたフェイトの手をそっと握る。
 フェイトも俺の手をそっと握り返してくる。
 それが、なんとなく気恥ずかしかった。



































 From FIN  2008/8/1



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