しかし、その恭也さんがお世話になっているという病院だ。
 これはかなり凄いのかもしれない。
 なんたって恭也さんは病院の待ち時間が嫌だという理由で病院に行かないということがあったくらいだ。
 その恭也さんがここに通ったりしているのはそれだけのものもあるんだろう。
 はやてもここに通っていたということだし……充分に信用に値する。
 多分、時空管理局以外でならということであれば……この病院は相当なものだろう。
 俺の腕も大分、楽になるかもしれない。
 とは言っても……まだ、手術とかは出来ないから、整体して貰うとかくらいしか出来ないだろうが。

 だが、恭也さんも忍さんも覚悟はしておけと言っているが……
 それほどまでに、そのフィリスという医師は凄いのだろうか?
 恭也さんの膝を治したという話は道中で聞いている
 それだけでも、腕は確かなのは間違いない
 しかし、診て貰うのに覚悟がいるというのはどういう意味なんだろうか?

 幾ら考えてみても俺にはさっぱり解らなかった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 とりあえず、病院に到着し、診察の時間まで待つことに。
 はっきりと言えば俺も病院の待ち時間はあまり好きでは無かったりする。
 恭也さんの気持ちも解らなくはない。
 だが、今回の場合はフェイトやはやても付き添ってくれているため、そこまで待ち時間に退屈することはない。
「なぁ、悠翔君は病院とかではあまり見て貰ってないと言うとったけど……普段は何処で診て貰ってたん?」
 はやてが以前まではどうやって腕を見て貰っていたかが気になったらしく質問を投げかける。
「ああ……まぁ、俺が診て貰っていたのも一応は病院なんだ。……多少は特殊でもあるけど」
 別に嘘は言ってない。
 警防隊に関係する部分もあるが、一応、俺が診て貰っていたのも病院と言えば、病院だ。
 まぁ……組織関連のこともあるから本当のことは説明出来ないが。
「ふ〜ん……何やら事情がありそうやな? そうだったら、これ以上は聞かんけど」
「……すまない」
 流石にはやても組織の人間だ。
 俺が何を言いたいのかの真意を読み取ったらしい。
 基本的に組織というものはバラしていいものではない。
 俺のように正式に所属しているわけではないのであれば尚更だ。
 それに、警防隊は”法の守護者”という部分では時空管理局と同じだが、非合法ギリギリのところまでやっている部分がある。
 そういった側面がある以上、迂闊にその内情を伝えることは出来ない。
 俺もその非合法ギリギリという部分で動いているからな。
「ま、私達もこうやって迂闊に話したり出来んことしとるしな。悠翔君が言えないのも当然や。悠翔君が剣を遣ってるのもそうなんやろうし」
 これ以上、詳しい話は聞くつもりはないようだが、はやては鋭い。
 俺が何故、言わないのかも、剣を振るっているということも言わないことをはやては理解している。
「……そうだな」
 考えていたことを振り払い、俺は頷く。
 はやてが鋭いとはいっても彼女を疑う必要はない。
 寧ろ、俺のことに気付いているはやてが凄いと言っても良いかもしれない。
 はやてとは昨日に会ったばかりなのだから。
 いや……捜査官という立場をしているはやてだからこそ解ったのかもしれない。
 とりあえず、俺に考えられるのはこのくらいだ。
 これ以上詮索するわけにもいかなかった。
 俺は溜息をつきながら、左腕を動かしてみる。
 痛みはいつの間にか和らいでいた。
















 暫く待つこと数分後……。
 流石に病院に人は多い。
 例え、今日が休日だとしてもだ。
 未だに俺の番は回ってこない。
 まぁ……予約をいれなかったから待たされるのは仕方がないが……。
 それでも、あまり待っているのもなんとなく虚しい。
 別にフェイトとはやての話を聞いている分には楽しいから構わない。
 だが、恭也さんに色々と世話を焼いている忍さんを見るとなんとなく気恥ずかしくなる。
 恭也さんも苦笑しながら忍さんが世話を焼いているのを止めようとはしない。

 もしかして、恭也さんは好きな人に対しては甘々なんじゃないか?

 今更ながら、俺は実感する。
 恭也さんは元々、自分にも他人にも厳しい人だ。
 だが……忍さんに対する態度を見ているとそうは思えない。
「どうしたの、悠翔君?」
 俺の視線に気付いたのか忍さんが俺の顔を覗き込んでくる。
「いえ、なんでもありません。とりあえず……仲が宜しいな、と」
「あら、当然よ。私は恭也の内縁の妻なんだから。……そのうち本当に妻になるけど」
「……そ、そうなんですか」
 忍さんの内縁の妻という言葉にも驚く。
 何度か聞いている言葉とはいえ、躊躇いがないのには驚くしかない。
 いや、そればかりか既に妻になるつもりらしい。
 恭也さんがそのことを否定する様子がないことを見ると、本当なのは間違いないらしい。
 多分、もうすぐしたら結婚するんじゃないか?
 俺の勘がそう告げている。
 確か恭也さんは既に大学を卒業している。
 忍さんの性格を考えるとそれは時間の問題だろう。
 しかし……あれだけ、女性に鈍いと言われていた恭也さんが結婚するなんてなんとなく感慨深い。
 恭也さんは凄まじい人生を送っていたからな……。
 いや、今でも普通の人生じゃないのか。
 恭也さんは御神の剣士なのだから――――。
















 それから更に数分後。
 そろそろ、俺の順番も近いらしい。
 診察の時の順番で呼ばれた人が俺の前に名前を書いた人とかが呼ばれている。
 はっきりいってこの病院は大きい。
 俺がもう、名前を呼ばれるのは間違いないだろう。
 ……と思っていたら俺の名前が呼ばれる。
 意外と早かったような遅かったような……。  とまぁ……何はともあれ、はやてと恭也さんが認める医者なんだ。
 腕も相当なものだと思う。
 俺は意を決して医務室に入ったのだが……。
 何やら久しぶりに信じられない気分になった。
 医務室に入ってそこにいた先生は……。 
















 可愛らしくて、小さかった――――。
















「え〜っと……フィリス先生ですか?」
 初めて先生を見た瞬間、俺はついそう尋ねてしまう。
 はっきりと言って予想外だ。
 フィリス先生は忍さんよりも年上だから、もっと落ち着いたようなイメージのある人だったが……。
 ここにいた女性は俺の予想をはるかに上回っていた。
 なんというか、大人の女性と言うか……小さくて可愛らしい印象がある。
「はい、そうですよ」
 しかし、間髪入れずに返事が返ってきたところをみるとこの人は間違いなく、話に聞いていたフィリス先生らしい。
 とりあえず、俺は平静を装うしかないのだろうか。
 それともツッコミを入れるべきなんだろうか。

 うん、とりあえずは何もしないのが良いんだろう

「どうしたんですか? え〜っと……不破悠翔君」
 俺が色々と考えているのを余所にフィリス先生が不思議そうに覗いてくる。
「い、いや……なんでもありません」
 いきなりフィリス先生が覗きこんでくるので俺は吃驚する。

 気配を感じなかったぞ――――
 と言うか――――顔が近い――――

「そうですか……だったら良いんです。それじゃあ……早速、診ましょうか」
 俺がうろたえていることには全く気付かないままフィリス先生は診察を始めようとする。
「あ、はい。お願いします」
 俺もここで漸く、落ち着きを取り戻し、返事をする。
 見た目はとても可愛らしいがフィリス先生は紛れもなく医者だ。
 普通には感じられないが、この人は俺よりも当然、年上で恭也さんよりも年上だ。
 年上の女性に対して失礼な真似をするわけにはいかない。
 俺はそう心に決めて診察に臨む。
 しかし、恭也さんが何故、覚悟はしておけといったのかは全く解らない。
 フィリス先生を見てもそのような雰囲気は感じられないのだが――――。
















 ――――それが、大きな間違いだったということを
















 ――――俺は身を持って知ることになる。



































 From FIN  2008/7/22



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