「ああ。俺は剣士である前に戦闘者だからな。気配の察知くらい出来なければ戦闘で生き残るなんて出来ない」
「戦闘者……」
「だが、戦闘者として見れば魔導師は全くと言っても良いほど覚悟が足りない」
恭也さんが魔導師のことを追及する。
戦闘者として見れば覚悟が足りないというのは俺も思っていたことだ。
このことに関しては俺が自分で言おうと思っていたが……恭也さんが代わりに言ってくれるような形になった。
ただ、決して俺達の考えとして押し付けようと思って言っているわけじゃない。
戦闘で生き残るにはそれ相応の覚悟が必要だということを言いたいだけだ。
厳しいことを言っているようだが……これが今回の目的だった。
今回の戦闘の結果でそれを実感させることは出来たかは解らない。
だが、俺や恭也さんからはっきりと見せられるものは見せたと思う。
覚悟というものが必要かどうか――――。
後は、ここにいる魔導師達の考え方次第だ。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
恭也さんの講釈が終わって、一息付く。
俺も流石に雷徹の撃ち過ぎで腕の方が不味い。
雷徹は俺が尤も得意としている奥義だが……今回は魔法を相手にして遣っている。
流石に、小太刀を遣っての雷徹をシグナムの剣に遣ったのは大きかったみたいだ。
更には甲冑に対してまで雷徹を遣っているのもあって流石に左腕が痛む。
「……悠翔。左腕は大丈夫か?」
「ええ……なんとか。恭也さんの方こそ膝の方は大丈夫ですか? 流石に閃を撃ったのでは負担も大きいでしょう?」
「まぁ……そうだな。俺の方は大丈夫だ。暫くすれば落ち着く。だが、悠翔の方は完治しているわけでは無いだろう?」
「そうですね……。また、やってしまいました……」
俺は苦笑しながら恭也さんに左腕を向ける。
恭也さんとクロノさんが戦闘をしている間にある程度は休めたから痛み事態は大分、治まっているが……。
それでも、完全に完治しているわけでは無い俺の左腕からは僅かな痛みが走る。
最早、この痛みも慣れたものではあるのだが……正直に言うとこれは剣士としては致命的だ。
特に二刀を扱う御神の剣士としては利き腕が悪いというのは御神の剣士としては完成出来ないともいえる。
俺も思考錯誤を繰り返すことによって今のような”二刀流”を扱うという方法を覚えたが、それでもやはり、御神の剣士として完成することは出来ないといえる。
だが、俺には護るための力がある。
たとえ、利き腕が駄目だとしても俺はこうして剣を振るうことが出来る。
今は……それで良いんだと思う。
――――俺の力に限界というものがあるとしても
「……悠翔」
私は恭也さんとの会話が一区切りしたところを見計らって悠翔に話しかける。
「フェイト、どうしたんだ?」
「えっと……悠翔。左腕が痛むって言ってたけど……治して貰わなくて良いの?」
私は今まで疑問に思っていたことを尋ねる。
悠翔は左腕が痛むって言ってるけど、多分……魔法で治すことは出来る。
でも、悠翔は全くそのことを言わなくて。
「……ああ。これは俺の問題だからな。それに……魔法で治して貰うのは、けじめがつかない」
「そう……」
悠翔がそう言って拒否をするのなら私にはこれ以上は言えない。
さっき悠翔が管理局に疑念があるっていっていたように何か悠翔には考えがあるのかもしれない。
もしかしたら、怪我を治して貰うことを条件に管理局に入る可能性があるのかな……とも思ったけど、悠翔にはそういったつもりは無いのかも。
今回の戦闘の話は必ず義母さんにも伝わるし、レティ提督にだって伝わる。
きっと、悠翔ほどの実力を持った人は目を付けられると思う。
シグナムを圧倒した実力、生身一つで魔法と渡り合えるだけの身体能力……。
そして、魔法では決して届くことの無い速度で動く神速……。
唯でさえ、これだけの力を持っているのに、悠翔は身体に悪い箇所を抱えている。
それも、悠翔達のいう戦闘者にとって重要な利き腕を。
悠翔が直接、皆に言ったことだからクロノ達もそのことに関しては理解していると思うけど……。
それでも、悠翔はあれだけの実力を持っている。
悠翔は時空管理局から見ればどうしても欲しい人材だと思う。
更に、今回で悠翔は魔法のことを知ってしまっている。
だから、そういった話が回ってくる可能性は充分にあると思う。
それに……その悠翔が剣士として一番、弱いという事実……それを聞いたらどうなるのか。
きっと、義母さんもレティ提督もなんとしても、悠翔達を引き込もうとするかもしれない。
私も、個人的には悠翔と仕事が出来ると嬉しいけど……。
悠翔はそのつもりが無いかもしれない。
私のことを嫌ってるわけじゃないのは悠翔の様子でなんとなく解るけど……。
悠翔は管理局のことがいま一つ信じられないみたいで。
どうして、悠翔はそう思っているのかな……?
フェイトが俺の腕のことを気にかけてくれるが、俺はやんわりと拒否をする。
魔法で腕を治して貰ったら確かにどれだけ楽だろう。
だが、今のように悪い箇所を抱えているからこそ見えるものというものもある。
俺が刹那の一瞬に二刀を遣うというのも利き腕が悪いからこそだといえる。
そう考えればこそ俺が片腕なのにも意味がある。
しかし、魔法に頼ってしまえばその意味も無くなってしまう。
それに俺自身は管理局に借りをつくりたくない。
もし、ここで腕を治して貰ったらそれを切っ掛けに管理局に入局するように求められるかもしれない。
はっきりと言ってしまえば、今の段階では俺にそのつもりは無い。
管理局にそこまで興味があるわけでもない。
別に個人的になのはさん達に協力するのは吝かではないが、管理局に協力するというのは出来る限り避けたい。
もし、協力するとしても格闘戦の教導や、護衛といったことくらいしか出来ないだろう。
それに、俺では管理局の流儀に合わせることは出来ない。
教導をするとしても、何人か殺してしまうのは確実だろう。
それでも、良いということであれば教導に関しては別に構わないのだが……。
人を殺すという真似をしたいとは思わない。
それに俺自身、覚悟も出来ていないような人間に教導をしたいとは思わない。
そもそも、師範や師範代でも無い俺では教導といったものは大して出来ないと思うが。
だが……今回の件のことが何かしらの影響を与えるのは間違いない。
もしかしたら、俺が海鳴にいる間に接触を図ってくるかもしれない。
接触を図るくらいであれば、俺に拒否をする理由は別に無いが……所属なりの話だったら考えなければならない。
確かに管理局に入ったとしても俺の本来の目的である、”護る”ということは達成出来る。
寧ろ、俺の目指す道の方向性としては同じかもしれない。
別にこの世界だけに限らなくても良いのだから。
しかし……時空管理局のやり方は信頼するには足りない。
在り方に関しては香港国際警防隊と同じなのだが、細かい点で大きく違う。
俺が渋っているのはその辺りの事情もある。
まぁ……今は考えても仕方がない、か
俺は痛む左腕を見ながら溜息をついた。
もし、接触されたらどうするか――――
今の俺にはその答えを出せそうに無かった。
From FIN 2008/7/16
前へ 次へ 戻る