(まさか――――)
 悠翔は一つの考えにいきあたる。
 今のが斬撃術なのは恐らく、間違いない。
 それも、剣速自体あるかどうか分からない超高速の斬撃術――――。
(奥義の極――――)
 悠翔が思いあたったその奥義は神速を用いても回避不可能とされる、御神の剣士にとっての到達点にして最大の奥義。
 今の悠翔には辿りつけない御神流の全ての先にあるもの――――。
 恭也が遣ったのはまさにそれだった。
(まさか――――閃を遣うなんて)
 恭也とクロノが戦闘するといった時、心の何処かで見たいと思っていた。
 だが、恭也の実力からすればそこまで遣うことは無いだろうと予想していた。
 しかし、悠翔の予想に反してクロノも想像以上の力量の持ち主だった。
 特に戦術などを含めればシグナムよりも上だと言っても良い。
 御神の剣士として戦わない限り勝てはしない――――。
 いや、不完全な御神の剣士である自分で勝てるかどうか――――。
 クロノはそれだけ優れた力の持ち主だった。
 戦術において恭也にペースを握らせなかった。
 それだけでも、クロノの強さは特筆に値する。
 しかし、恭也はそれをものともせずに斬り抜けた。
 御神流の奥義の極である――――閃によって。
 その奥義の極の領域まで踏み入った、御神の剣士――――。
 悠翔は今の光景を見て漠然と思う。
















 これが――――御神の剣士、高町恭也――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「とりあえず、クロノを早いところ治してやってくれ。……骨を折っているはずだからな」
 息を整えた恭也さんがクロノさんを連れて戻ってくる。
「あ、はいっ……!」
 恭也さんの言葉にシャマルさんが慌ててクロノさんへと駆け寄る。
 癒しの魔法でも遣うのだろう。
 流石に閃を喰らって無事だとは考えにくい。
 いや、恭也さんが手加減をしたからこそ骨が折れているだけで済んだと言った方が良いか。
 恭也さんが本気で閃を遣っていたとしたら、クロノさんの腕は無くなってしまっているだろう。
 魔法に守られていても閃の前ではその防御も無と化すのだから。
「……恭也さん」
「解っている。俺が遣った奥義のことだろう」
「はい。あれは……奥義の極……ですね」
「……ああ。今のが奥義の極・閃だ。剣速自体あるかどうか解らない超高速の斬撃術……とでも言えば良いか」
「……はい。俺も聞いたことはあります。確か……神速を用いても回避不可能とされる、御神の剣士にとっての到達点にして最大の奥義……でしたよね」
「……そうだ」
「そして、それを極めた剣士の前では全てが零になる――――。間合いも、距離も、武器の差も――――」
「ふむ……その通りだ。しかし、閃をそこまで知っているということは夏織母さんや美沙斗さんからも聞いたのか?」
 俺が奥義の極のことを知っていたのが疑問なのか恭也さんが念を押すように尋ねてくる。
「はい、それもありますが……。俺の父さんのノートにも閃のことは書いてありました」
「……成る程な」
 それで、納得する恭也さん。
 一臣父さんが遺していたものにその名前があったということに思うところがあったのだろう。
 それに、美沙斗さんも夏織さんも閃のことを知っているのは当然だ。
 しかし、現に閃を遣えるのは恭也さんくらいだ。
 美沙斗さんも夏織さんも閃を扱うことは出来ない。
 美由希さんは、既にその領域まで踏み込んでいるとは聞いているが、美由希さんの場合は過去に遣って以来は殆ど遣っていないと聞いている。
 恭也さんは昨年の事件の時に一度、遣っている。
 今回もあの時と同じような条件で遣ったのだろう。
 魔法のような強大な相手には閃が確かに適任だ。
 間合いも、距離も、武器の差も――――零に出来る閃なら魔法はないものと同じといえる。
 恭也さんが閃を遣ったのはそのためだろう。

 しかし、閃は相応のリスクも負うはずだが――――恭也さんはなんとも無いのか?
















 俺の心配を他所に忍さんのところへ行く恭也さん。
 見た感じではなんとも無いようだが……それはないだろう。
 既に恭也さんは朝の訓練時に神速の二段がけを遣っている。
 そして、今回は閃を遣った際に再度、神速の二段がけを遣っている。
 恭也さんの膝は完治しているとはいえ、そこまでの無理は禁物なはずだ。
 恭也さんの膝は既に古傷となっているのだから。
「……恭也さん」
「……何も言うな」
 忍さんに寄り添って貰う体勢で恭也さんは俺の言いたいことを遮る。
 神速の撃ち過ぎで膝に負担がかかってしまったのだろう。
 恭也さんはゆっくりと座る。
「さて、そろそろ……クロノも目覚める頃だが……」
 座ってある程度は落ち着いたのか恭也さんがクロノさんを見つめる。
 恭也さんの言うとおりクロノさんがゆっくりと目を覚ます。
「っ……!? 僕は……負けたのか」
「……ええ。そうです」
 目を覚ましてすぐにクロノさんが尋ねてくる。
 俺はクロノさんの問いかけに頷く。
「そう……か……」
 クロノさんは少し落ち込みながら俺の肯定に頷く。
「やはり、貴方達は凄い。普通なら……魔法に生身一つで勝てるなんて考えられない」
「……そうだな。だが、俺達にしてみれば魔法も力においては信じられないものがある。だが……」
「だが……?」
「普通の拳銃や爆弾……そちらで言う質量兵器になるのか? それに比べると恐ろしいとは感じられない」
「どういうことです?」
 クロノさんが恭也さんの言ったことに疑問を浮かべる。
「魔法の場合は撃つときや発動する時に光や魔法陣といったものが見える。しかも、魔法には永唱の言葉と何か鍵になる言葉があるだろう?」
「はい。そうですが……」
「まずは、その時間の間隙が大きいというのがある。もう一つは……非殺傷設定という存在だ」
 恭也さんが魔法を脅威に思わない理由を列挙していく。
 この辺りの事情は俺も同感だ。
 俺がシグナムを一瞬で斬り伏せたのもこの魔法を撃つ時の間隙の大きさによるものが大きい。
「逆に拳銃などと言った質量兵器は、撃つタイミングといったものは目で見るだけでは解らない。しかも、全てが殺傷を前提としている」
「……ええ。だからこそ、僕達の世界では質量兵器は禁忌ともいうべきものだと言えます」
「だが、俺達の場合はそういった質量兵器……謂わば近代兵器といったものを相手にしている。だからこそ、魔法が脅威だとは思わない」
「……どうしてです?」
「……魔法には非殺傷というのがある。裏を返せば、人を殺す覚悟をしなくて良いということにも繋がる。それが大きな理由だ」
「っ……!?」
 恭也さんの言葉に何も言い返せないクロノさん。
 クロノさんが絶句した気持ちは解るが……俺も恭也さんの言うとおりだと思う。
 人を殺す覚悟――――が出来ていないというのは戦闘者としては致命的だ。
 優しさとかそんなものじゃない。
 確かに人を殺さないという理念は素晴らしいと言える。
 だが、人を殺す覚悟が無いのに力を振るうというのは危険過ぎる行為だ。

 時空管理局の人間はそれを理解しているのだろうか――――

 俺はそこに時空管理局に対する疑問を感じる。
 他にも疑問を感じる理由はあるが……今は関係ないので割愛する。
 なんにせよ、恭也さんの言うとおりだ。
 魔法が脅威に感じない……それは覚悟というものを持つ必要性が薄いということにある。
 正直に言って、戦闘者として俺もそれを感じ得ない。
 まぁ……クロノさん達には悪いけど、な。
















「とまぁ、俺がクロノと戦ってみて感じたのはそのくらいだ。他に何かあるか?」
「では、あと一つ。恭也さんは……最後に僕が仕掛けた時に何をしたんですか?」
「あの時は、奥義で魔力刃を斬り捨てつつ、タイミングを見計らって神速を発動し、奥義によって止めをさした……。まぁ、こんなところだ」
「……しかし、あの時は視界などは全て封じていたはずです。それはどうやったんですか?」
 クロノさんが更に恭也さんへの質問を続ける。
「……あの時はただ、クロノの気配を読み取っただけだ」
「気配……?」
「ああ。あの時のクロノは視界を封じた上で更に別の魔法を遣おうとした。俺はその気配を察知し、神速で斬り込んだ」
「気配の察知って……そんなことが出来るんですか!?」
 恭也さんの言った気配の察知という言葉に驚くクロノさん。
「ああ。俺は剣士である前に戦闘者だからな。気配の察知くらい出来なければ戦闘で生き残るなんて出来ない」
「戦闘者……」
「だが、戦闘者として見れば魔導師は全くと言っても良いほど覚悟が足りない」
 恭也さんが魔導師のことを追及する。
 戦闘者として見れば覚悟が足りないというのは俺も思っていたことだ。
 このことに関しては俺が自分で言おうと思っていたが……恭也さんが代わりに言ってくれるような形になった。
 ただ、決して俺達の考えとして押し付けようと思って言っているわけじゃない。
 戦闘で生き残るにはそれ相応の覚悟が必要だということを言いたいだけだ。
 厳しいことを言っているようだが……これが今回の目的だった。
 今回の戦闘の結果でそれを実感させることは出来たかは解らない。
 だが、俺や恭也さんからはっきりと見せられるものは見せたと思う。
 覚悟というものが必要かどうか――――。
 後は、ここにいる魔導師達の考え方次第だ。



































 From FIN  2008/7/13



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