クロノの魔力刃が爆散したことにより、視界が奪われた恭也。
 しかし、恭也にとっては視界が奪われた程度であれば、全く問題が無い。
 寧ろ、視界が塞がれた分だけ冷静に相手の気配を探すことが出来る。
 相手が自分の視界が見えていないと思っているのであれば尚更、それは効果的だといえる。
 恭也は爆散せずに迫ってきた魔力刃を斬り落しつつ、意識を集中し、クロノの動きと気配を探る。
(――――次の手がくる)
 恭也はクロノの気配からそう判断する。
 魔力というものは恭也にはどんなものかは解らないが、明らかにクロノの気配が変わっている。
 何かをしてくるのは明確であり、クロノほどの実力者が何もしないという愚行を犯すとは考えられない。
 クロノのいる方角から紅い閃光が放たれた。
 その閃光は寸分、違い無く恭也に迫って来る。
(――――まだ、だ)
 恭也はクロノから放たれた紅い閃光をギリギリの距離まで引き付ける。
 そして――――自分の立っていた位置に当たるかと思われた瞬間――――。
















 ――――恭也の姿が掻き消えた。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「消えた?」
 恭也さんの動きを見たフェイトが驚きの表情をする。
 確かにあの状態からクロノさんの攻撃に対処した上で避けるなんて驚くだろう。
 だが、恭也さんの実力からすれば当然だといえる。
 恭也さんは、視線、タイミング、間合い、相手が感知出来る此方の気配・剣気・殺気などといった全ての要素で判断をしている。
 魔力だとかも殺気とかに近い感覚で感じるため、相手の力が大きければ大きいほど、恭也さんにとっては読みやすい。
「いや、違う。恭也さんがクロノさんの行動を読んだんだ。次は神速が来るぞ――――」
 俺はフェイトに対して答えつつ、恭也さんのとった行動を判断する。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 名のとおり、神の速度だと言っても良い、御神流特有の高速移動術。
 その神速の前では速度という概念は通じない。
 それが例え、魔法であったとしても。
 恭也さんが神速の領域に入ったということは、恭也さんの目には全ての魔法が止まっているか、スローモーションになって見えているだろう。
 そして、恭也さんはその領域を駆け抜ける――――。
(……多分、これで恭也さんはケリをつけるつもりだろう)
 それは、間違いない。
 これが”戦闘”である以上は恭也さんに躊躇いはないだろう。
 そう――――奥義を遣うことさえも――――。
















 クロノの魔法の中で神速の領域に入った恭也は魔力刃を斬り落しながらクロノに向かって地を蹴る。
 狙いはクロノのデバイス。
 恭也はクロノに向かって小刀を投げつけた。
 寸分違わず、クロノの右腕に小刀が突き刺さる。
「くっ……」
 クロノが短く呻きを上げる。
 だが、その僅かな隙が恭也の狙いだった。
 恭也は鋼糸を投げつけ、クロノのデバイスを絡め取る。
 そして、そのまま恭也は全力でデバイスを引っ張り上げた。
 クロノは引っ張られることに抵抗しようとするが、小刀で受けた傷がもとで力が入らない。
 元々から腕力などに関しては恭也には敵わないのだ。
 その状態で、抵抗しても無意味だと言っても良かった。
 恭也に引っ張られたことで右手に持っていたS2Uが腕から離れる。
 だが、クロノの左腕にはまだ、デュランダルが残っている。
 クロノはデュランダルで再度、魔法を詠唱し、スティンガースナイプを撃つ。
 恭也を狙ってスティンガースナイプを撃ったは良かったが、そこに恭也の姿はない。
(また、消えた――――)
 クロノがそう思う間もなく、神速の領域に入った恭也がクロノに肉薄する。
 そして、クロノが存在に気付く前に恭也の八景が閃いた。
















 ――――小太刀二刀御神流
















 恭也の狙った先はクロノの左腕。
 一瞬の閃きの後にクロノの左腕に八景が叩き込まれる。
 今の一撃でクロノの腕が飛ばなかったことを見ると、恭也は咄嗟に峰撃ちに切り換えていたらしい。
 だが、クロノの腕から鈍い音がする――――。
 今の一瞬の閃きの中でクロノの左腕が圧し折られたのだ。
「ぐぁっ……」
 クロノは呻き声を上げるが、そんな暇も無かった。
 解ったのは今の痛みにより、集中力が途切れ、スティンガースナイプが消失したこと――――。
 ただ、それだけだった。
















 ――――奥義之極
















 クロノが呻き声を上げる間もなく恭也は神速の領域の中で、更に神速の領域に入る。
 謂わば、二重神速とも言うべき、神速の二段がけ。
 恭也のみが”戦闘”で遣う、神速の先にある領域――――。
 その領域の中で恭也は八景の二刀目を抜刀する。
 そして、恭也は神にすら捉えられない速度の斬撃をクロノに叩き込む――――。
















 ――――閃
















 閃は技を極め、奥義を極め、道を極め、身体を極め、精神を極めた先に在る御神の剣士の最大の秘奥義。
 それを極めた剣士の前では全てが零になる。
 間合いも、距離も、武器の差も……。
 それはたとえ、魔法が相手だとしても例外では無い。
 八景が一筋の閃きを描く。
 その閃きは何者にも捉えられることはない。
















 そう――――
















 それが例え、神だとしても――――。
















 御神流の奥義の極がクロノに放たれ、その一瞬の閃きを最後にクロノは意識を手放していた。
 恭也は閃によってクロノが意識を手放したことを確認し、ゆっくりと八景を鞘に納める。
 今の一瞬に何がおきたのかは誰にも理解が出来なかった。
 悠翔と忍の2人を除いて――――。
 今の一瞬の光景に一番、驚いたのは悠翔。
(今のは……?)
 恭也が何をしたのかは理解出来た。
 今の一瞬で御神流の奥義を遣ったのだろう。
 だが、今の恭也の動きは全く見たことがない。
 御神流の奥義なのは解ったが、今のように神速を二段がけするような技を悠翔は見たことがなかった。
 それに、恭也の動きが全く捉えられなかった――――。
 いったい、何がおきたのか全く解らない。
(まさか――――)
 悠翔は一つの考えにいきあたる。
 今のが斬撃術なのは恐らく、間違いない。
 それも、剣速自体あるかどうか分からない超高速の斬撃術――――。
(奥義の極――――)
 悠翔が思いあたったその奥義は神速を用いても回避不可能とされる、御神の剣士にとっての到達点にして最大の奥義。
 今の悠翔には辿りつけない御神流の全ての先にあるもの――――。
 恭也が遣ったのはまさにそれだった。
(まさか――――閃を遣うなんて)
 恭也とクロノが戦闘すると言った時、心の何処かで見たいと思っていた。
 だが、恭也の実力からすればそこまで遣うことは無いだろうと予想していた。
 しかし、悠翔の予想に反してクロノも想像以上の力量の持ち主だった。
 特に戦術などを含めればシグナムよりも上だと言っても良い。
 御神の剣士として戦わない限り勝てはしない――――。
 いや、不完全な御神の剣士である自分で勝てるかどうか――――。
 クロノはそれだけ優れた力の持ち主だった。
 戦術においても恭也に殆どペースを握らせなかった。
 それだけでも、クロノの強さは特筆に値する。
 しかし、恭也はそれをものともせずに斬り抜けた。
 御神流の奥義の極である――――閃によって。
 その奥義の極の領域まで踏み入った、御神の剣士――――。
 悠翔は今の光景を見て漠然と思う。
















 これが――――御神の剣士、高町恭也――――。



































 From FIN  2008/7/11



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