小太刀二刀御神流、基礎乃参法――――「貫」。
 俺も極めている術の一つでもある。
 恭也さんの遣った方法は不破家に伝わる方法で陰行と呼ばれるものである。
 この陰行は暗殺などを生業にしている不破家の特徴だとも言える。
 勿論、不破家の正統後継者である不破一臣の息子である俺もこの陰行と呼ばれるものは遣える。
 一臣父さんの兄である士郎さんも当然だが、同じことが出来る。
 はっきりいってこの術が魔導師に見切られる可能性は皆無だろう。
 魔力で気配を探っている魔導師では、陰行の原理は解らないだろうからな。
 貫は、相手の呼吸・視線・動作・剣気・殺気や、相手が感知できるこちらの気配なども考慮して行うものであり、相手の知覚手段や動きを完全に”支配”する術である。
 当然だが、魔力といったものもこの要素の中に含まれている。
 まぁ……魔力とかの場合は違和感として捉えられるから見切りやすいけどな。
「……成る程な。多分、恭也さんが貫を遣っているのはフェイトに対して遣った時にも魔法に対して効果があったからだろう」
「そうなの……?」
「……ああ、間違いない」
 そう……間違いない。
 恭也さんは無駄だということは戦闘では行わないからだ。
 戦闘を行う時の恭也さんは戦闘者として完璧といっても可笑しくない。
 恭也さんは戦闘という行為をする上では躊躇いはない。
 そういった意味でも恭也さんは御神の剣士……いや、御神不破の剣士として完成している。
















 そして、その恭也さんがクロノさんに対して貫を躊躇いなく遣ったということは――――。
















 恭也さんが本気だということ――――。
















 そう――――
















 御神の剣士としての恭也さんはここからだ――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 悠翔がフェイトに今の恭也とクロノの攻防のことを説明し終えたころ……見計らったかのように戦闘が再開されていた。
 クロノは再度、スティンガースナイプで恭也を牽制する。
 スティンガースナイプは一発のみの誘導弾だが、その追尾性は他の誘導攻撃魔法をの追従を許さない。
 それに、誘導弾の魔力が減っても、スティンガースナイプは空中にて螺旋を描きつつ魔力を再チャージした後、術者のキーワードで再度加速してさらに攻撃する。
 寧ろ、この一発の誘導弾のみで対多数を相手に出来るほどだ。
 しかし、恭也は易々とスティンガースナイプに対処出来ている。
 しかも、それどころかスティンガースナイプを加速させても全く、当たる気配がない。
 恭也に弾道が読まれているとしか言いようがない。
 だが、それはクロノも承知の上だ。
 クロノはS2Uでスティンガースナイプを制御しつつ、デュランダルで別の魔法を詠唱する。
 二つのデバイスで同時に魔法を詠唱するというのは、ストレージデバイスの中でも突出した、処理速度を持つデュランダルとの併用ならではの方法である。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト――――」
 クロノの操る魔力刃スティンガーブレイドの一斉射撃による中規模範囲攻撃魔法。
 100を超える数の魔力刃を展開し、相手に狙いを定めて、集中砲火を仕掛ける、クロノの最大手数の攻撃魔法。
 しかも、今はスティンガースナイプで恭也を誘導しながらでの展開である。
 これならば、避けられる可能性は無い。
 だが、これだけの魔法を殺傷設定で受けてしまえば、確実に相手は死亡してしまう。
 クロノは念のために、非殺傷設定にして魔法を展開する。
(これなら、そうそうは避けられない――――)
 クロノはそう確信する。
 しかし――――先程までの悠翔とシグナムの戦闘を見ている限り、悠翔よりも強いという恭也がこれだけで終わるとは思えなかった。
















(……やってくれる)
 クロノの動きをいち早く察した恭也は素早く思考を組み立てる。
 現在は、誘導弾に追尾されており、更にはクロノから別の魔法で狙われている。
 貫を遣えば、誘導弾の対処は可能だが、別の魔法の方を対処することは敵わないだろう。
 後は神速で対処するくらいしか方法は無いが……今はまだ、神速を遣う時では無い。
(避けられないならば、全て斬り捨てるまでだ――――)
 避けられないと判断した恭也は足を止め、八景を構える。
 ――――瞬間、八景の刃が閃き、スティンガースナイプが斬り落される。
 しかし、斬り落した直後にはクロノの放った魔法が恭也に迫っていた。
(ここは、正面から全て斬り落とす――――)
 クロノの放った魔法は100を超える数の魔力の刃。

 だが、一つずつ避けるくらいなら、全て斬り落とす――――





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之弐・虎乱





 虎乱は二刀による連続技。
 手数においては御神流の技の中でも最大級を誇る。
 こういった手数の多いものを相手にする時には適任といえる。
 だが、こういった状況に対応できる御神流の奥義はこれだけではない。
 美沙斗が得意とする奥義の一つである花菱もこういった状況には有効だ。
 現に、恭也は以前のフェイトとの模擬戦の時は花菱を遣っている。
 だが、今回はあえて、手数が多く、早急に対処が出来る虎乱を選択した。
 恭也の八景が縦横無尽に振るわれ、魔力刃が斬り落されていく。
 しかし、クロノの場合はフェイトよりも戦術において圧倒的に上回っている。
 現にクロノは魔力刃を恭也の視界範囲内で爆散させ始めた。
(視界を奪い、次の行動に出るつもりか――――)
 恭也は魔力刃を斬り落しながら冷静に判断する。
(だが、受けて立つ――――)
 クロノが何をしようとしているかはなんとなく理解している。
 だが、クロノが何を仕掛けてきても、御神の剣士に退く道理は無い。
 恭也は虎乱で魔力刃を斬り落しつつ、次の行動に入った。
















 恭也の動きを見たクロノはもう一手の手段を考える。
 スティンガーブレイド・エクスキューションシフトは魔力刃を爆散させることが出来る。
 その小規模の爆散を利用すれば、視界を撹乱することも出来る。
 恭也が斬り落とす前にある程度の距離で魔力刃を爆散させる。
 それを見た恭也がどう動くは解らなかったが、クロノはその特性を利用し、恭也の死角からブレイズキャノンを放つ。
(貰った――――)
 この角度とこの距離なら確実に恭也に命中する――――。
 クロノはこの時、そう思った。
 魔導師や騎士でも凌げることはあり得ないタイミングでブレイズキャノンを撃った。
 これならば、避けることは不可能だといっても良い。
 だが――――魔導師の基準で計れないのが御神の剣士だ。
 クロノのブレイズキャノンが恭也の立っていた位置に命中する。
 しかし、その場に恭也の姿は無かった。
 ――――確かに命中したはずだというのに。
(なっ――――)
 一瞬、クロノは恭也が何をしたのか理解出来なかった。
 先程の認識出来ない――――というものとは違う。
 今度は恭也を完全に見失った。
(これは――――先程、悠翔が遣っていたものと同じか?)
 周囲を見渡し、恭也の姿が全く確認できないことを冷静に判断するクロノ。
 だが、その僅かな時間差が命取りとなることになる。





 クロノの魔力刃が爆散したことにより、視界が奪われた恭也。
 しかし、恭也にとっては視界が奪われた程度であれば、全く問題が無い。
 寧ろ、視界が塞がれた分だけ冷静に相手の気配を探すことが出来る。
 相手が自分の視界が見えていないと思っているのであれば尚更、それは効果的だといえる。
 恭也は爆散せずに迫ってきた魔力刃を斬り落しつつ、意識を集中し、クロノの動きと気配を探る。
(――――次の手がくる)
 恭也はクロノの気配からそう判断する。
 魔力というものは恭也にはどんなものかは解らないが、明らかにクロノの気配が変わっている。
 何かをしてくるのは明確であり、クロノほどの実力者が何もしないという愚行を犯すとは考えられない。
 クロノのいる方角から紅い閃光が放たれた。
 その閃光は寸分、違い無く恭也に迫って来る。
(――――まだ、だ)
 恭也はクロノから放たれた紅い閃光をギリギリの距離まで引き付ける。
 そして――――自分の立っていた位置に当たるかと思われた瞬間――――。
















 ――――恭也の姿が掻き消えた。



































 From FIN  2008/7/9



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