(――――誘導の魔法か)
 恭也はクロノの放った魔法を見ながら特性を判断する。
 なのはの遣っていたものとは違い、クロノのものは数が一発しかない。
 だが、その追尾性と速度に関してはなのはのものより優れていると恭也は判断する。
 斬り払おうとしても、その魔力弾は進路を変え、恭也を狙ってくるのだから。
(これは完全にクロノの意志で操っているということか。ならば、遣りようはある――――)
 恭也は誘導する魔力弾から距離を取り、意識を集中する。
 その瞬間、クロノの目の前から恭也の姿が霞む。
 クロノは恭也が神速を遣ったのではと思ったが、そうではない。





 ――――小太刀二刀御神流、基礎乃参法「貫」





 恭也は御神流の基礎の一つである貫を発動させたのである。
 しかも、”表”の御神流の遣い方ではなく、”裏”の不破流の遣い方である。
 恭也は貫を対象者であるクロノのみならず、全方位に向けて実行している。
 クロノの目に恭也の姿が霞んで見えるのは、”見えている”はずなのに”認識出来なくなる”といった状態なってしまっているからである。
















 恭也は貫を発動させたまま、クロノの魔力弾の弾道を見極め――――。
















 八景を一閃させた――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 恭也が八景を一閃させたことにより、誘導弾が断ち斬られる。
 断ち斬られた誘導弾はそのまま、消失する。
 誘導弾を斬り捨てた恭也はクロノに向かって地を蹴り、間合いを零にする――――。
(……流石に貫は通じる、か)
 クロノの放っていた誘導弾が動きを止めたのを認めた恭也は貫の効果を実感する。
 判断した限り、相手の反応を追いかけるだけではなく、クロノ自らの意思で操っていることを看破した恭也は貫を発動。
 そして、クロノの放った誘導弾を斬り捨てたということである。
 全方位に貫を放つ、不破家特有の貫の遣い方――――。
 これはフェイトの時もそうだったが魔法が相手でもその効果はある。
 寧ろ、気配などではなく、魔力などで判断している魔導師には充分、その効果があるのかもしれない。
 更に、元々から恭也には魔力といった特別な力は持ち合わせていない。
 魔力で攻撃を判断している以上は恭也の攻撃を見切るのは至難の業である。
 しかし、恭也にそういった事情は全く関係ない。
 恭也は貫を維持したまま、距離を詰め、八景を抜刀する。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之壱・虎切





 一刀による高速の抜刀術。
 士郎が最も得意とし、恭也自身も得意としている奥義の一つ。
 それが、クロノに向けられる。
 そのまま、八景の刃はクロノを容赦なく――――斬り捨てた。
















「ぐぅっ……!?」
 クロノは短く呻き声を上げる。
 今、何がおこったのか全く解らなかった。
 確かに目の前にいたはずだというのに恭也が全く、”認識”出来なかった。
 恭也には特別な力はない。
 以前からそれは解っている。
 だが、クロノは恭也を認識することが出来ない。
 悠翔はシグナムとの戦いの時はこういったことは遣っていなかったはず――――。
 相手を認識出来なければ、誘導魔法の効果は全く、無い。
 それは自身の得意とする誘導攻撃魔法であるスティンガースナイプも同じだった。
 いや……相手が認識出来ないのであれば魔法を迂闊に遣うことも出来ない。
 遣うとすれば集束砲撃魔法くらいだが、そんなものを無闇に遣ってしまえば、周囲への被害を出してしまうだけだ。
 魔法という力を行使している以上、それがどれだけ理に反しているかは解っている――――。
 だが、存在を認識出来なければ対処法はそのくらいしか思いつかない。
 しかも、その上でティンガースナイプが斬り捨てられた。
 恭也は自分を認識させないままで魔力弾まで斬り捨てて見せたのだ。
 悠翔がレヴァンテインを斬り捨てたのもそうだが……最早、これは――――人間技ではない。
 クロノにとってはそう思わざるを得なかった。
「ぐっ……恭也さん、今……何を?」
「……別にどうかしたわけじゃない。御神流の基礎の一つと奥義の一つを遣っただけだ」
「なっ……!?」
 恭也の言葉に絶句するクロノ。
(今のが基礎の一つだと――――)
 クロノは今の恭也の動きに戦慄を覚える。
 今の動きで基礎の一つでしかない……だったら、奥義はどうなのか――――。
 いや、既に恭也は奥義も遣ったと言っている。
 自分を一瞬で斬り捨てたのが奥義なのか――――。
 全く、確証が持てない。
 こんなことはクロノにとって初めてだった。
















「……貫を遣ったな」
 恭也さんの姿が霞んだ瞬間、俺はそう判断する。
 クロノさんが恭也さんの姿を見失ったことがそれを示している。
 俺は貫の対処法を知っているため認識すること自体に問題はない。
 それでも……意識を集中しないと解らない。
 恭也さんの貫はそれだけ……深い領域にある。
「え……?」
 フェイトが首を傾げながら俺を見つめる。
「ああ、恭也さんが御神流の基礎の一つを遣ったんだ」
「基礎……!?」
「……ああ」
 俺はフェイトの質問に頷く。
 フェイトの質問の尤もだ。
 貫が基礎だとは信じられないだろう。
 それも、恭也さんが遣ったのは”裏”である不破の遣い方だ。
 クロノさんが全く認識出来なかったことを考えれば恐らくは間違いない。
「フェイトが恭也さんと戦った時にも今のを遣っているはずだ。心当たりがないか?」
「あ……あるかも……。確かに恭也さんは私との模擬戦で遣っていたと思うよ」
 フェイトからは肯定の返事。
 やはり、恭也さんは以前にも遣っていたことがあったらしい。
 小太刀二刀御神流、基礎乃参法――――「貫」。
 俺も極めている術の一つでもある。
 恭也さんの遣った方法は不破家に伝わる方法で陰行と呼ばれるものである。
 この陰行は暗殺などを生業にしている不破家の特徴だとも言える。
 勿論、不破家の正統後継者である不破一臣の息子である俺もこの陰行と呼ばれるものは遣える。
 一臣父さんの兄である士郎さんも当然だが、同じことが出来る。
 はっきりいってこの術が魔導師に見切られる可能性は皆無だろう。
 魔力で気配を探っている魔導師では、陰行の原理は解らないだろうからな。
 貫は、相手の呼吸・視線・動作・剣気・殺気や、相手が感知できるこちらの気配なども考慮して行うものであり、相手の知覚手段や動きを完全に”支配”する術である。
 当然だが、魔力といったものもこの要素の中に含まれている。
 まぁ……魔力とかの場合は違和感として捉えられるから見切りやすいけどな。
「……成る程な。多分、恭也さんが貫を遣っているのはフェイトに対して遣った時にも魔法に対して効果があったからだろう」
「そうなの……?」
「……ああ、間違いない」
 そう……間違いない。
 恭也さんは無駄だということは戦闘では行わないからだ。
 戦闘を行う時の恭也さんは戦闘者として完璧といっても可笑しくない。
 恭也さんは戦闘という行為をする上では躊躇いはない。
 そういった意味でも恭也さんは御神の剣士……いや、御神不破の剣士として完成している。
















 そして、その恭也さんがクロノさんに対して貫を躊躇いなく遣ったということは――――。
















 恭也さんが本気だということ――――。
















 そう――――
















 御神の剣士としての恭也さんはここからだ――――。



































 From FIN  2008/7/7



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