「ホンマか? でも、悠翔君には魔力感知とかは出来んはずやろ?」
「そうだな。俺にはそういった特別なものは何もないからな。だが、”戦闘者”として感じるものもあるんだ」
「戦闘者として感じるもの……?」
「ああ。俺には魔法が違和感とかいった感じの気配として感じられる。それに……魔法には発動の工程がある。俺が発動前に動いたのはその間隙をついただけだ」
「そうやったんか……。でも、気配とかだけで解るなんて凄いなぁ」
 何やら俺の説明に感心するはやて。
 とはいっても俺にとっては別に特別でもなんでもないため、そう言われるとなんか照れくさい。
「まぁ……俺から言えるのはこれくらいだな。後は他に何かあるか?」
 一通り聞かれたことに関しての説明はしたつもりだが、俺は再度確認をする。
 周りを見渡したところ、特に質問は無いみたいだ。

 だったら、ちょうど良いか……

「はやて……少しだけ話があるんだが……」
 皆からの質問がないことを確認した俺ははやてを呼ぶ。
 はやてには今回のことで個人的に言っておかなくてはならない。
 俺がシグナムと戦闘をしたこと以外にも、な……。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「ん、私はええよ。なんの話なん?」
 俺の呼びだしに快く応じてくれるはやて。
「ああ、まずは……すまなかった。シグナムをあんなに目にあわせてしまって」
「ううん、そのことはシグナムも解っとるし……別に気にせんでもええよ?」
「……そうか」
 俺がシグナムにやったことをなんでもないといった感じで応じるはやて。
 普通だったらこんなに落ち着いてはいられない。
 はやてはそういった意味でも凄く理解力のある娘なんだと思う。
「後は……はやての周囲で隠れている……確か、リインだったか? すまないな、怖いものを見せてしまって」
 俺が話しかけると、小さな大きさの女の子が姿を現す。
 初めに俺が自己紹介していた時は姿を隠していたのだろう。
「あ、はい……。気にしないで下さい。はやてちゃんから話は聞いてましたから……私もそれは解ってるです」
「そうか、ありがとう」
 俺はリインに御礼をいう。
 あんなものを見せたというのにこの娘もそれを受け止めてくれている。
 些細なことなのかもしれないが、俺にはそれが嬉しかった。
 俺が今回見せたのは御神の剣士としての一部の姿で御神不破の姿は見せていない。
 だが……魔導師の皆にとってはそれでも衝撃があっただろう。
 相手を斬り捨てるということ……それに躊躇いがない。
 なのはさんもこの姿の剣士を見たのは初めてだろう。
 多分、恭也さんもなのはさんには見せていないはずだ。
 今回の俺とシグナムの戦闘の時が終わった時のなのはさんの表情がそれを物語っている。
 フェイトは一度、俺と士郎さんの立ち合いを見ているのもあるのかそこまでは驚いてはいなかった。
 もしかしたら、士郎さんから俺のこういった側面の話も聞いていたのかもしれない。
 アリサとすずかに関しては以前から護衛に近い形で俺のこういった姿は見せている。
 それに、恭也さんのああいった姿も見ているからアリサとすずかの場合は驚きといったのは殆どないみたいだった。
 しかし……あそこまで驚かれるとは思った以上に魔導師と俺達の基準は違うようだ。
 非殺傷が存在しているのが大きくそれを示している。

 ――――魔導師はやはり、死ぬ覚悟と殺す覚悟というのが出来ていない

 俺はただ、そう感じる。
















 はやてと少しだけ話をして俺はもう一度、小太刀の状態をチェックする。
 やはり、かなり傷んでいるみたいだ。
 恐らくは、シグナムの剣と甲冑を立て続けに斬り捨てたからだろう。
 雷徹を遣う時以外も御神流の基礎乃参法である、斬と徹も遣っていたのだが……普通の小太刀では多少、無理があったらしい。

 士郎さん達から道具を借りて手入れでもするか……
 ……流石にこのまま遣い捨てるわけにもいかない
 それに……万が一があるかもしれないから、な

 今のところは俺の小太刀である、飛鳳は香港から出る時に夏織さんに預けたままだ。
 夏織さんも海鳴には来ると言っていたが……日付までは聞いていない。
 今は4月最後の方にあたる休みだが……もしかしたら、5月の連休辺りに此方に来るのかもしれない。
 それまで小太刀は代用品のものを遣うしかない。
 俺は軽く溜息を付く。
「すまない、少し小太刀を見せて貰えないだろうか」
 溜息をついた俺に声をかけてくるのはシャマルさんに傷を治して貰ったシグナム。
「ああ、別に構わないけど」
 俺は二刀の小太刀をシグナムに手渡す。
 シグナムはそれを受け取り、小太刀をゆっくりと抜く。
「……本当にこの小太刀でレヴァンテインを斬ったというのか?」
 シグナムが少しだけ驚きながら小太刀を見つめる。
 まぁ……驚くのは無理もないかもしれない。
 俺の遣った小太刀は無銘の物であり、何も特別な小太刀ではない。
 確かに一般的なものより多少、出来が良いが……それだけでしかない。
 シグナムの剣とは比べるべくもない程度の小太刀だ。
「ああ。俺がシグナムに対して遣った御神流の奥義は得物を選ばないからな。普通の小太刀でも問題はない」
「ふむ……そうなのか」
 雷徹は得物は元々から徹の延長線上にある技だ。
 それ故に得物を選ばないというのもそのまま引き継がれる。
「ただ、今回は俺の持っている本来の小太刀を遣っていない。その小太刀だったらもっと簡単に斬り捨てていただろうな」
 俺は苦笑しながらシグナムから小太刀を受け取る。
 飛鳳であればシグナムの剣も問題なかっただろう。
 飛鳳は今回の小太刀とは斬れ味も含めて、全てが別格だからな。
 他にも恭也さんの八景でも問題なかっただろうな。
 八景は取り回しに欠けるが、その斬れ味は抜群だから、な。
「……悠翔は手加減でもしていたというのか?」
 シグナムが少しだけ驚いた表情で俺に尋ねる。
 手加減していた……とシグナムが考えるのは別に可笑しいことじゃない。
 本来の得物を遣っていなかった……それだけで手加減していると思われても仕方がない。
「いや、本気だった。本気で挑まなかったら、俺は御神の剣士としてシグナムの相手をしていない。まぁ……小太刀に関してはたまたま持っていなかっただけだ」
 今回、俺が無銘の小太刀を遣っているのは本当に偶然だ。
 飛鳳が手元にないのだから変わりに別の小太刀を遣うのは当然だからだ。
 だが……今回ばかりは飛鳳じゃなくて良かったと思う。
 魔法で守られている分、命を落とすことは無いだろうが……飛鳳であそこまで斬り付けていたら、シグナムを再起不能にまで追い込んでしまっていたかもしれない。
 俺はシグナムから小太刀を受け取り、ゆっくりと仕舞う。
 とりあえず、俺からはシグナムに言うことはもう無い。
 後は、恭也さんやクロノさん次第といった感じだな……。
















「とりあえず、一旦、ここまでにしないか。……悠翔も魔法を見れたし、戦闘に関しても見せている。それに、悠翔。左腕が限界だろう?」
 恭也さんが一旦、ここで区切るということを提案する。
 しかも、俺の左腕の状態に気付いた上で。
「ええ、個人的にはここまでにしておきたいですね。恭也さんの言うとおり俺の左腕は限界に近いです」
 俺は恭也さんの意見に頷く。
 流石にこのままの状態で左腕を行使したら、腕の状態が悪化してしまう。
 ただでさえ、雷徹を連続で遣った上に、薙旋まで遣っている。
 最早、左腕を休ませないとどうしようもない。
「なのは達もそれで良いか?」
「う、うん」
 なのはさん達も俺の左腕のことを聞いたのもあって恭也さんの提案に頷く。
「少し待って下さい、恭也さん」
 しかし、クロノさんがそれを止める。
「なんだ?」
「……悠翔がこんな状態で言うのもなんですが、僕も一度、悠翔の剣は体感しておきたい。なんとか……お願い出来ませんか?」
 クロノさんが恭也さんに剣を見せて貰えないかと頼む。
「……だが、悠翔は既に限界だ。とりあえず、今日のところは勘弁してやってくれ」
「そう……ですか」
 恭也さんがクロノさんに対してやんわりと拒否をする。
 俺の左腕のことを気遣ってくれているのだろう。
 だが、クロノさんも真剣な表情で頼んでいる。
「……俺は別に構いません。後、一戦くらいなら出来ますから」
 俺は再度、立ち上がり、恭也さんに戦う意思を伝える。
「……馬鹿をいうな。ここで無理をしたら俺と同じになってしまうだろう。悠翔がクロノの相手をするぐらいだったら、俺が相手として応じる」
「恭也さん?」
 恭也さんの返答に一瞬、理解が出来なかった。
 俺がクロノさんと戦うくらいだったら恭也さんが戦う……確かに恭也さんはそう言っている。
「……俺も一度、クロノとは遣っておきたかったからな」
 一言だけぽつりと呟いて、恭也さんが八景を掲げる。
 そして、恭也さんの発する気配が一変する。
















 悠翔が見た恭也の気配――――。
















 それは普段の恭也とは全く異なる気配。
















 それは――――悠翔の知っているもう1つの恭也の姿――――。
















 ――――御神の剣士、高町恭也。



































 From FIN  2008/7/5



 前へ  次へ  戻る