「だったら、なんだ? 戦闘に”後がある”とでも思っていたのか?」
「っ……!?」
 俺の問いかけに言葉に詰まるはやて。
「戦闘というのに非殺傷というのは在り得ないことだからな。あるとしたら殺傷だけだ」
 俺ははやての様子に構うことなく言葉を続ける。
「だから……死ぬか、生きるかのどちらかしか残らない。事実上は、後が無いというのと同義なんだ」
「でも……だからって……」
「……じゃあ、俺が魔導師の流儀に合わせて戦えば良かったのか? はっきりと言わせて貰うが……俺は魔導師の流儀には付き合えない。……剣士だから、な」
 俺ははっきりとはやてに伝える。
 俺は魔導師の考え方や基準には合わせられない。
 模擬戦であればある程度は合わせられると思うが、戦闘では合わせることは出来ない。
 非殺傷でやるっていうことも俺にはとても、出来ないだろう。
 俺自身も常に後がない世界に身を置いている。
 当然だが、その覚悟も既に出来ている。
 それが、魔導師との考え方の差に繋がっている――――。
 なんとなくだが、そんな気がした。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「だからといって今の戦い方には問題があるだろう。あそこまで遣る必要があったのか?」
 俺がはやてに言ったことに反論するクロノさん。
 もしかしたら、魔導師の基準ではあそこまで遣る必要は無かったのかもしれない。
 だが……俺は魔導師ではなくて、剣士だ。その理屈は通じない。
「――――寧ろ、俺があそこまで遣ったのはシグナムが倒れなかったからです」
「何……?」
「普通の人間なら、俺が最初に斬り付けた段階で倒れているはずです。けど、シグナムは全く倒れなかった」
「それは……確かにそうかもしれないが……」
「だから、俺はシグナムが完全に戦闘不能になるまで遣った……それだけです」
 俺がシグナムにあれだけ斬り付けたのは彼女が全く倒れなかったというのが大きい。
 普通の人間同士なら最初の一刀目で充分だ。
 だが、魔法に守られているだけでここまで変わるとは思ってもいなかった。
 本来なら、薙旋も最後に遣った雷徹もいらなかっただろう。
 今の戦闘だと神速を遣った時点で決着はついているのだから。
「それは……解った。だが……それを別にしても魔法を一切、遣わせなかったのは卑怯とも言えないか?」
「……それを貴方が言いますか」
「なっ……!?」
「戦いに卑怯も何もない。……戦いというのは後がないんですから」
「だが……」
 まだ、俺の言っていることに納得は出来ていないクロノさん。
 この人にはこの人の流儀があるんだろう。
 俺の流儀に納得出来ないのも理解出来る。
「尤も――――普段は非殺傷で戦っている貴方達には解らないことかもしれませんが」
 俺はあえて、はっきりと魔導師の流儀に対して否定をする。
 魔法はあれだけの大きな力でありながら、平気で非殺傷というものを遣っている。
 それに……殺傷を前提としない限り、魔法で人を殺すという可能性は低い。
 恐らく、魔導師は”殺す覚悟”と”死ぬ覚悟”というのが出来ていない。
 解りやすく言ってしまえば覚悟が足りないということだ。
 その辺りの覚悟が出来ていないから――――平気でなのはさん達くらいの年齢の子供達でも時空管理局に所属している。
 俺にはなんとなくだがそう感じられる。
 尤も――――なのはさん達に覚悟が出来ていないということは考えられないが……。
 それでも、小学3年生の頃から時空管理局に嘱託という形ではあるが、所属しているということに俺は恐ろしさを感じる。
 俺も、そのくらいの年齢には既に剣を振るい始めていたが……。
 組織に所属してまでその力を振るっていない。
 俺の保護者が夏織さんや美沙斗さんである事情から警防隊に御世話になってはいるが、俺自身は警防隊に所属しているわけではない。
 まぁ……嘱託に近いと言えば、近いから……なのはさん達とは似た立場かもしれないが、事情が違う。
 俺の場合は御神の剣士として初めからこういう世界に身を置いている。
 それに……覚悟も終わっているし、人を――――斬ることも既に経験している。
 慣れているとは言わないが……躊躇いはしない。
 だが、なのはさん達の場合は戦いというものは経験していても、人を殺すということは経験していない。
 それに……人が死ぬというのも経験したとは言えない。
 ただ、なのはさんは一度、殺傷による攻撃で一時期は再起不能とまでなっていたと聞いている。
 その経験から覚悟というのは出来ているだろう。
 後は……人を殺す覚悟だけだ。

 出来れば……なのはさん達にはそんな覚悟はさせたくはないが――――

「……悠翔の言い分は解った。此方が普段から非殺傷だというのも認める。だからといって悠翔の言っていることを肯定も出来ない」
「……解っています。これはあくまで此方側の流儀ですし、肯定して貰おうだなんて考えていませんから」
 ここは御互いには譲れない。
 クロノさんも納得はしているんだろうけど、肯定は出来ないというのも解る。
 肯定してしまえば、魔導師のような大きな力を持っている人は虐殺者と成り果ててしまう。
 クロノさんはそれをよく理解しているんだろう。

 だが……それを理解出来ていない魔導師は多いかもしれない――――

 俺はなんとなくそれを確信した。
















「う……」
 俺がクロノさんと意見をぶつけあっているとシグナムが目を覚ます。
「……大丈夫か?」
「あ、ああ……私はいったい……」
 シグナムは目を覚ましたばかりでさっきの俺との攻防の時に意識を手放したことはあまり覚えていない様子。
「俺が御神の剣士として相手になると言った時のことを覚えているか?」
「ああ、それは覚えている。だが、何が起きたのかは私には解らなかった。不破、あの時にお前は何をしたんだ?」
「あの時、俺は……シグナムが間合いを取ったと同時に神速に入った」
「神速……? あの転移みたいなもののことか?」
 シグナムが俺の神速に疑問を浮かべる。
 確かに魔導師の基準からしたら神速は転移に見えなくも無いだろう。
 神速には速度の概念というものは無いに等しいのだから。
 だが、神速は転移とは全く違うものだ。
 あくまで、神速も速く動く術で、あるからだ。
 普通に爆発とかであれば転移とは違って、神速で回避することは難しいだろう。
 しかし、魔導師……いや、騎士であるシグナムにそれは解らないだろう。
 かなり違いがあると言えるが……些細なことだ。
「まぁ……違いはあるがそうだな。そして、俺はシグナムを斬り捨てた」
「……ああ、そこは覚えている。だが……私がもう一度、距離を取ろうとした時のことが解らない」
「あれは……これを遣ったんだ」
 俺は先ほど使用した3番の鋼糸を取り出す。
「これは鋼糸といって、主に相手を束縛したり、周囲に張り巡らせてトラップなどといった用途に遣うものだ」
「ふむ……。しかし、あの時、不破がそれを遣った時は束縛というよりは斬ると言った感じだったと思うのだが」
「それは、俺が遣った鋼糸の型式のせいだ。鋼糸は型式の番号が小さくなれば小さくなるほど……斬れ味が鋭くなる」
 俺は軽く鋼糸を伸ばしてみせる。
「因みに、俺が今回遣ったものは3番の鋼糸だが……3番から下の番号の鋼糸だとある程度のものは切断出来る。例え、それが人間だとしてもな」
「……なるほど、そういうことか」
 俺の鋼糸の説明に納得するシグナム。
「後は、鋼糸でシグナムに傷を与えた後に、奥義によって止めをさした……というわけだ」
「……そうか」
 シグナムはそれきり口を紡ぐ。
 恐らくは主の前で俺と戦って負けたということに何か思うところでもあるのだろう。
 それに……魔法に守られていなかったら、シグナムは既に死んでいるかもしれない。
 そのことも含めてシグナムは考え込んでいるんじゃないだろうか?
 尤も……俺もシグナムと立ち合ったことには色々と思うところもある。
 魔法がどれだけのものかも理解出来た。
 そして、実際に立ち合ってみて解ったこともある――――。
 俺はシグナムとの戦闘でそう感じた。
















「申し訳ありません、主はやて。貴女の守護者たるヴォルケンリッターとして、力及ばず……」
 悠翔との話が終わったシグナムがはやてに頭を下げる。
「ん、ええんよ。シグナムは頑張ってくれとる。それに……今回はシグナムが無事やったんやからそれでええよ」
「主はやて……」
 心が温まるようなはやての言葉。
 シグナムのことを大事に思っていることが感じられる。
 そんなはやてとシグナムのことを見つめる悠翔。
「どうしたの、悠翔?」
「ん、ああ……少し考えごとをな。俺は戦闘を見せると言ったが……これで伝わったのかどうか……とかな」
 そう言って私を見つめる悠翔。
 多分、悠翔が言っていることはクロノとの会話のことも影響してるんだと思う。
「そうだね……なんとなくだけど、悠翔が言っていることは解る、よ。私の場合は先に悠翔がどれだけの覚悟を持っているか聞いていたのもあるけど」
「……フェイト」
「それに……私だけじゃないよ。なのはとユーノも多分、なんとなく解ってる。そうだよね?」
 私はなのはとユーノに尋ねる。
「うん。私も……前の怪我の時にお兄ちゃんとお父さんにそのことを聞かれたことがあるよ」
「……僕も悠翔とは個人的に話をさせて貰ったからね。なんとなくだけど理解出来るよ」
 なのはとユーノも悠翔が見せていたことに否定の様子はあまりないみたいで。
「でも、悠翔君の言っているみたいにはやりたくない、かな……」
「ああ。悠翔の言い分は解るけど……僕もそう思う」
「……そうか。でも、その方がなのはさん達らしい」
 なのは達の言い分を肯定し、悠翔は苦笑しながら頷く。
「今回のことで、俺が言いたいのは殺す覚悟と死ぬ覚悟だ」
「う、うん……」
「ただ、これだけは覚えておいてくれ。あるとは言いたくないが……万が一があるかもしれない。もし、魔法が無かったらシグナムは死んでいたかもしれないからな」
 真剣な表情で私達を見つめる悠翔。
 悠翔が今日の戦いでシグナムを殺すつもりで遣っていたのは遠目に見ても理解出来た。
 シグナムにも殺傷設定でやるようにと言ったのもその……死ぬ覚悟という部分だと思う。
 それに……殺す覚悟というのは……悠翔が”御神の剣士として相手になる”と言った時……。
 悠翔は自分で言っているとおりその覚悟が出来ているんだと思う。
 でも、その考え方は私達、魔導師とは大きく異なるもの。
 魔法は非殺傷が出来るから、その殺す覚悟というのはあまり、考えなくても良い。
 逆に非殺傷があるから死ぬ覚悟というのもあまり、考えなくても良い。
 殺傷設定で魔法を遣うことがないわけじゃないけど、それでも悠翔みたいに常に……ということはない。
 私達、魔導師との大きな差はそこにあるんだと思う。
 でも、私達の基準ではあまり考えられないこと……でも、悠翔が言いたいことはなんとなくだけど解っているつもり。
 本当に覚悟というのはしないといけないということ……。
 今日の戦いを見せられたからこそ……私はそう思う。



































 From FIN  2008/7/1



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