シグナムが呻きを堪えながらも悠翔を追おうとした瞬間、悠翔の姿が目の前から掻き消える。
 悠翔は三刀目から神速の領域に入ったのだ。
 そのまま、神速の領域に入った悠翔はシグナムの側面に回り込み、斬り伏せる。
 斬り伏せた個所から再び、鮮血が舞う。
 悠翔は神速の領域の中で基礎乃参法である「斬」を併用し、殺傷力を高めていたのである。
 斬は、刀剣類を用い、最小の動作で最大の効果を出せる斬撃法である。
 当然なのだが、悠翔が小太刀を遣って斬を使用するというのは普通のことなのである。
 鮮血が舞った瞬間、悠翔は薙旋の最後の斬りに入る。



 ――――四刀目



 悠翔は利き腕の小太刀から奥義を放つ。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之肆・雷徹





 雷徹を込めた斬撃が、シグナムの胴に叩き込まれる。
 その一撃で甲冑が消失し、シグナム自身も吹き飛ばされる。
 そして……シグナムは地面に叩きつけられ、その意識を手放した。
















 今の一連の攻防の中で、シグナムが意識を手放すまでの間は――――
















 全て、一瞬の出来事だった――――。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 シグナムが意識を手放したことを確認した俺はゆっくりと小太刀に付着した血を払い落す。
 血が付着したまま、小太刀をそのままにしておくと駄目になってしまうからだ。
 俺は血を払い落し、持っていた専用の拭い紙で拭い、汚れを拭う。
 そして、小太刀の刀身をじっくり見て、亀裂や刃こぼれが無いかを確認する。
(……少し、痛んでいるな)
 シグナムを斬り捨てた小太刀には僅かな痛みがあることを確認する。
 甲冑などを斬ったということもあり、小太刀にはかなりの傷を負わせてしまった。
(……やはり、普通の小太刀では難しかったか)
 俺が今回遣っていたのは普通の無銘の小太刀だ。
 それに対してシグナムの剣は特別なものだ。
 斬や徹、それに雷徹を遣ったとはいえ、普通の小太刀で斬り捨てたのは流石に無理があったか。
 飛鳳だったらここまで傷つくことは無かっただろう。
(まだ、修行が足りないな)
 基礎乃参法を遣ってもここまで小太刀が痛むというのは俺の修行が足りないからか。
 俺は溜息を付きながら、小太刀を鞘に納める。
(ぐっ……)
 小太刀の状態を確認していたため、気付かなかったが……利き腕である左腕から痛みが走る。
(――――雷徹を撃ち過ぎたか)
 今回はシグナムに対して奥義である雷徹を多用した。
 俺の場合は利き腕である左腕で雷徹を遣っている。
 その分で結構、無理をさせてしまったのかもしれない。
 だが、これはシグナムが強いからだといえる。
 御神流の奥義でも最大級の威力を誇る雷徹は普段は多用するものではない。
 まぁ……俺の場合は普段から小太刀からの雷徹は遣っているのだが……それでも、素手からにしろ、小太刀からにしろ雷徹を多用することはない。
(魔法か……確かに脅威だ)
 あれだけ、雷徹を撃っても、小太刀で斬り付けてもシグナムはまだ、倒れただけだった。
(……魔導師というのは全員ああなのか?)
 あの甲冑に守られていたのは理解出来る。
 しかし、それでも常識外れだとしか言いようがない。
 俺は確実に人を殺せる方法でシグナムに立ち合った。
 普通の人間だったら、俺が神速を遣って斬り付けた最初の時で終わっているだろう。
 だが、シグナムは倒れることも無かった。
 恐らくは魔法に守れらていたからなんだろう。
 裏を返せば、俺があれだけシグナムを斬っても死んでいないのは魔法があるからだといえるのだが。
 俺は溜息を軽く溜息をつき、シグナムの様子を見つめる。
 シグナムは血だらけで倒れている。
 だが、魔法に守られていたため、命に別状は無さそうだ。
 しかし、そのまま放っておいては流石に危険な状態になってしまう。
「シャマルさん、シグナムを治して貰えませんか?」
 俺はシャマルさんに治してくれるようにいう。
 話を聞いた時にシャマルさんはそういうことが専門だと聞いている。
 シャマルさんならシグナムを治せるだろう。

 しかし――――魔法があれだけ凄いとは思わなかったな
 まさか、”御神の剣士”として全力で戦わなければならないとは思わなかった
 いや――――それとも、シグナムが強いのか

 俺はそう考え、一息つく。
















「え……?」
 私は今の悠翔とシグナムとの一瞬の攻防で何が起きたのか全く理解が出来なかった。
 悠翔が”御神の剣士として相手になる”って言った瞬間、悠翔の姿が消えてその後、すぐにシグナムが小太刀で斬り捨てられた。
 しかも、シグナムは最大の魔法であるシュツルムファルケンを撃とうとしたのに……悠翔は一切、それをさせようとしなかった。
 それに、悠翔は魔力光が出たと同時には既に斬り付けていた。
 ということは悠翔は魔法の発動に関係なく、戦っていたことになる。
 それは当然、私達、魔導師の基準では考えられないこと。
 私達、魔導師だったら魔法の発動前に攻撃を仕掛けるなんてことは考えない。
 寧ろ、さっきのシグナムの取った距離だと魔導師では魔法の発動前に攻撃するには間に合わない。
 でも、悠翔はシグナムの取った距離を簡単に零にしてしまっていた。
「いったい……何が起きたんだ……?」
 クロノも今の光景は理解が出来なかったみたい。
 私だって何が起きたかなんて解らない。
 それに、なのはもはやてもアリサも解らなかったみたい。
 けど、恭也さんと忍さんとすずかは解っていた様子。
 それに……ユーノもそこまでは驚いていない。
「……悠翔が魔法の発動前にシグナムを斬り捨てたんだよ」
 ユーノが冷静にクロノに答える。
「なっ……あの距離でか!?」
「ああ、間違いないよ。僕も一度、悠翔から今の動きに似たのは見せて貰ったからね」
「だが……あんな動きは不可能なはずだ。いや、魔法でもあんな動きは不可能だ」
「……でも、悠翔はそれが出来るんだよ。実際にあの動きを見てしまえばそれが解る」
「……そうか」
 ユーノの言い分に一応は納得するクロノ。
 クロノが納得した直後、悠翔から声がかけられる。
 シグナムを治してくれ、と……。
















 シグナムをシャマルさんに預け、俺は皆のところへ戻る。
 戻ってみたら当然とも言うべきかはやてが怒った表情で俺を見ていた。
「悠翔君! 遣り過ぎとちゃうか!?」
 はやての言い分も解らなくはない。
 普通にあれだけのことをしたのなら当然だろう。
 幸い、シャマルさんが治せるくらいの傷だということではやての感情は少しだけ収まっている感じだ。
 なのはさんも俺を複雑な表情で見つめている。
 アリサとすずかはまだ、普段の俺を知っているため、そこまでは変わった様子では無いが。
「……それは認める。その件に関しては何も言えない。だが……今回の話では”戦闘”というものを見せるということだったはずだ」
「それは……そうやけど……!」
「だったら、なんだ? 戦闘に”後がある”とでも思っていたのか?」
「っ……!?」
 俺の問いかけに言葉に詰まるはやて。
「戦闘というのに非殺傷というのは在り得ないことだからな。あるとしたら殺傷だけだ」
 俺ははやての様子に構うことなく言葉を続ける。
「だから……死ぬか、生きるかのどちらかしか残らない。事実上は、後が無いというのと同義なんだ」
「でも……だからって……」
「……じゃあ、俺が魔導師の流儀に合わせて戦えば良かったのか? はっきりと言わせて貰うが……俺は魔導師の流儀には付き合えない。……剣士だから、な」
 俺ははっきりとはやてに伝える。
 俺は魔導師の考え方や基準には合わせられない。
 模擬戦であればある程度は合わせられると思うが、戦闘では合わせることは出来ない。
 非殺傷でやるということも俺にはとても、出来ないだろう。
 俺自身も常に後がない世界に身を置いている。
 当然だが、その覚悟も既に出来ている。
 それが、魔導師との考え方の差に繋がっている――――。
 なんとなくだが、そんな気がした。



































 From FIN  2008/6/30



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