「馬鹿なっ……!? 唯の小太刀でレヴァンテインを斬り捨てるだと!?」
「……確かにシグナムの剣は硬かった。だが、斬るのが不可能というわけじゃない」
 シグナムが反論するが、俺の言葉に一応は納得したのか口を紡ぐ。
「だが……今までの俺は唯の剣士としてシグナムに相対していた」
 俺はシグナムの様子を確認し、言葉を伝える。
「どういうことだ……?」
「今まではシグナムの力量と魔法がどんなものかを見せて貰うために様子を見させて貰っていた」
「……そうか」
 魔法を見せて貰うために様子を見ていたという俺に対しシグナムが頷く。
 俺が魔法を見たことが無いということをはやてから聞いていたのだろう。
「……だが、それもこれまでだ」
「な……に……?」
 俺の一言にシグナムが驚きの表情を見せる。
 言葉だけなら別にシグナムが驚く必要はない。
 寧ろ、なんてことでも無いはずだ。
 だが……何故、シグナムが驚いたのかというと……今の会話の間に俺がシグナムに接近し、小太刀を首筋に向けていたからだ。
「ここからは……御神の剣士として相手になる」
 俺は小太刀をシグナムの首筋に向けたまま、言い放った。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 悠翔が首筋に小太刀を突きつけてきたのを確認したシグナムは咄嗟に悠翔から距離を取る。
 今の動きは全く見えなかった。
 唯、解っていることは悠翔が御神の剣士として相手になると言った瞬間――――悠翔の動きが変わった。
 だが、何故、悠翔が自分の目の前にいるのか――――。
 距離もそれなりにはあったはずだ。
 悠翔のような剣士では届かないだけの距離が。
 しかし、悠翔はその距離を一瞬のうちに零にし、シグナムに迫っていた。
 咄嗟に距離を取ったものの悠翔の動きが見えなかったのは変わらない。
(転移したとでもいうのか?)
 悠翔の速度は魔法では在り得ない速さだった。
 恐らくは真・ソニックフォームを遣っているフェイトよりも速いだろう。
 フェイトの真・ソニックフォームの速度ならば、まだ見える可能性があるのだから。
 だが、悠翔が距離を詰めた方法に関しては全く読めない。
 しかし、今の動きにはなんの魔力も感じなかった。
 いや、寧ろ……悠翔の場合は魔力が感じられる場合の方が可笑しいのか。
 悠翔には魔力が無いのだから、魔力反応が出るはずもない。
(しかし、不破からは魔力が感じられん。魔導師でも騎士でも無いとは聞いていたが……今の動きは合点がいかない)
 シグナムは悠翔の動きを冷静に分析する。
 これ以上は考えても仕方がない。
 後はやるしか無いのだから。 
(ボーゲンフォルム……いけるか?)
 シグナムは確かめるかのようにレヴァンテインの柄を強く握りしめ、魔法を発動させることを決めた。
「レヴァンテイン……!」
《Bogen form!》
 シグナムが命令した直後、弓に魔力で形成された光の弦が引かれる。
 そして、シグナムは此方も魔力によって成された白銀の矢を、美しき白銀の弓に番えた。
 足元に、魔法陣が展開され、その魔法陣を、炎の魔剣の名にふさわしい紅蓮の炎が包むように駆けていく。
 その炎の揺らめきの中、シグナムは自らの全力を、その矢に注ぎ始めた。
















 しかし、その瞬間――――。
















 シグナムの目の前に悠翔が出現する――――。
















 悠翔が出現したと同時にシグナムの目の前に映ったものは――――。
















 ほとばしる己の鮮血だった――――。
















(……距離を取ったか)
 悠翔はシグナムの行動を分析する。
(そして、剣を弓の形状に変更し……魔法を放つ気か)
 シグナムの周囲に魔法陣が展開され、その魔法陣を、紅蓮の炎が包むように駆けていく。
 あれが相当な力を持っている魔法だということは間違いない。
 恐らくは、シグナムの最大の魔法なのだろう。
 だが、悠翔にとってはその魔法に付き合う必要性はない。
 ”模擬戦”であれば、シグナムが魔法を放つまで待っていても構わないのだが……。
 今回は”戦闘”というものを見せるということである。
 シグナムの最大の一撃を待つのは戦闘というものでは考えられない。
(距離はあるが、問題ない。斬り捨てる――――)
 悠翔はシグナムが弓を構えた瞬間、駆けだした。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速





 悠翔の視界から全ての色が失われ、モノクロの世界に変わる。
 時間の感覚が引き延ばされ、周りの光景がスローモーションになっていき、悠翔は神速の領域に入った。
 悠翔はそのまま神速の領域の中を駆け抜けていく。
 神速の領域の中で悠翔はシグナムに肉薄し、躊躇うことなく斬撃を放つ。
 最早、戦闘という形式である以上は躊躇う必要はない。
 悠翔の斬撃が放たれた瞬間――――シグナムの身体を小太刀が走り抜け、鮮血が舞った。
















「かは……っ」
 シグナムに刃物で斬り付けられたかのような鈍い感覚が駆け抜ける。
 全く、何がおきたのか理解出来なかった。
 確かに自分は距離をとり、自らの最大の一撃であるシュツルムファルケンを放とうとした。
 だが、悠翔はその距離を一瞬で零にし、自らを斬り捨てた。
 それも、騎士甲冑に守られている自分を。
 普通の小太刀ではシグナムを斬ることは出来なかっただろう。
 だが、悠翔はシグナムを甲冑ごと斬り捨てた。
(いったい……何がおこった……!?)
 シグナムは考えてみるが答えは出ない。
 しかし、戦いはまだ終わっていないのだ。
 シグナムは悠翔に対し、シュツルムファルケンを撃とうとする。
 だが、悠翔はそこにはいない。
 悠翔は既にシグナムの視界の外に廻り、奥義の準備に入っていた。
 咄嗟に悠翔の動きに気付いたシグナムは距離をとるため、後ろへ飛ぶ。
「――――無駄だ」
 シグナムの行動を見た悠翔が一言、呟く。
 そのまま悠翔はシグナムに向かって駆けだす。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之陸・薙旋





 恭也が最も得意としている抜刀からの高速の4連続の斬り。
 悠翔自身も遣うことが出来る技であったが、今までは主力にしてはいなかった。
 だが、恭也から貰ったアドバイスを踏まえ、シグナムとの距離を零にした悠翔は薙旋を放つ。



 ――――一刀目



 悠翔はレヴァンテインを狙って斬りつける。
 シグナムは悠翔の小太刀を受け止めるが、その瞬間に腕に衝撃が走る。
「ぐっ……」
 腕に衝撃を受けたシグナムが短く呻く。
 しかし、悠翔は追撃の手を休めることは無い。



 ――――二刀目



 悠翔はシグナムの胴を狙って薙ぎ払う。
 掠めながらもシグナムは悠翔の薙ぎ払いをかわし、再度、距離を取ろうとする。
 しかし、そのシグナムの行動は悠翔の手元から投げられた何かによって阻まれる。
「――――無駄だと言っている」
 悠翔が鋼糸の3番をシグナムに投げつけたのだ。
 鋼糸は数字によって太さを表している。
 3番よりも小さい数字になればある程度のものは切断出来る。
 それがたとえ、人間だとしても。
 悠翔は素早く、シグナムに鋼糸を巻き付け、一気に引っ張り寄せる。
 シグナムの腕などといった、甲冑の無い皮膚の部分が裂け、血が飛び散る。
 本来ならばバリアジャケットや騎士甲冑は目に見えない部分にも防御効果がある。
 それ故に悠翔が遣った鋼糸でもシグナムはスライスハムのようになったりはしないのだ。
 目に見える部分の皮膚が裂けただけと言うのは騎士甲冑の防御能力の賜物であると言えるだろう。
 シグナムが短く呻くが、悠翔は躊躇うことなく次の行動に入る。



 ――――三刀目



 シグナムが呻きを堪えながらも悠翔を追おうとした瞬間、悠翔の姿が目の前から掻き消える。
 悠翔は三刀目から神速の領域に入ったのだ。
 そのまま、神速の領域に入った悠翔はシグナムの側面に回り込み、斬り伏せる。
 斬り伏せた個所から再び、鮮血が舞う。
 悠翔は神速の領域の中で基礎乃参法である「斬」を併用し、殺傷力を高めていたのである。
 斬は、刀剣類を用い、最小の動作で最大の効果を出せる斬撃法である。
 当然なのだが、悠翔が小太刀を遣って斬を使用するというのは普通のことなのである。
 鮮血が舞った瞬間、悠翔は薙旋の最後の斬りに入る。



 ――――四刀目



 悠翔は利き腕の小太刀から奥義を放つ。





 ――――小太刀二刀御神流、奥義之肆・雷徹





 雷徹を込めた斬撃が、シグナムの胴に叩き込まれる。
 その一撃で甲冑が消失し、シグナム自身も吹き飛ばされる。
 そして……シグナムは地面に叩きつけられ、その意識を手放した。
















 今の一連の攻防の中で、シグナムが意識を手放すまでの間は――――
















 全て、一瞬の出来事だった――――。



































 From FIN  2008/6/25



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