悠翔はレヴァンテインの間隙を抜け、飛針をシグナムに投げつける。
 寸分違わずに飛針はシグナムを狙うが、それをシグナムはレヴァンテインで弾き飛ばした。
(このままじゃ、埒があかない)
 自分を追いかけてくるレヴァンテインをどうにかしようと考えて飛針を遣ってみたのだが、シグナムにはそれも通じないようだ。
(……仕方が無い)
 悠翔は足を止め、小太刀を構える。
 この状況を突破するには最早、遣うしか無い。





 シグナムは悠翔の行動に一瞬驚く。
 だが、悠翔が構えたことを認めたシグナムはそのままレヴァンテインを振るう。
 蛇龍と化しているレヴァンテインが急速に悠翔に迫る。
 レヴァンテインの刃が悠翔に当たるかと思われた瞬間――――。
















 ――――悠翔の小太刀が閃いた。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 悠翔は一刀目の小太刀でレヴァンテインの鋼線の部分に斬撃を放ち、二刀目の小太刀を抜き放ち、一閃する。
 この一瞬の閃きで恭也以外の、この場にいた誰もが眼を疑った。
 今の一瞬の間にシグナムのレヴァンテインが斬り捨てられていたからである。
 悠翔と直接、剣を交えているシグナムですら、いったい何がおこったのかは解らなかった。
 悠翔が二刀目の小太刀を抜き放ったのは理解出来た。
 だが、小太刀の閃きが見えた瞬間、鞭状の形態となっているレヴァンテインの鋼線の部分が断ち斬られた。
 どうしてレヴァンテインが断ち斬られたのかは全く理解出来ない。
 レヴァンテインが断ち斬られたことにより、魔力供給が失われ、レヴァンテインが元の騎士剣の姿に戻る。
「御神流、奥義之肆・雷徹……」
 悠翔が二刀目の小太刀を抜き放った体制のまま技の名前をぽつりと呟く。
 雷徹は御神流の中でも最大級の威力を持つ奥義。
 武器を問わず、場合によっては素手でも高い破壊力を得る為の技法である基礎乃参法「徹」を昇華させた奥義である。
 今、悠翔が行ったのは、基礎乃参法である「斬」を一刀目の小太刀で遣い、そのまま二刀目で「徹」を複合させることで雷徹を放つという方法。
 本来の雷徹は徹を基本としているため、物を斬るために遣うということは少ない。
 しかし、素手で雷徹を遣ったのでは無く、小太刀を遣って雷徹を放つ場合は”斬撃を徹す”という特性も含まれる。
 悠翔は雷徹に基礎乃参法「斬」と「徹」を複合させ、その特性を利用することでレヴァンテインを斬り捨てたのである。
(馬鹿な……っ! 魔法でも無い攻撃にレヴァンテインが斬り捨てられただと!?)
 悠翔にとってはそう難しくも無いことだったのだが、シグナムにとっては驚きだった。
 レヴァンテインは普通の金属などで出来ている騎士剣などでは無い。
 特別な技法で創られたものだといっても良い。
 だが、悠翔は普通の小太刀……それも見た感じでは無銘の小太刀……それにも関わらず、悠翔はレヴァンテインを斬り捨てた。
 実際に見た光景とはいえ、簡単には信じられるものではない。
 底知れぬ悠翔の剣術にシグナムは戦慄を覚えた。
















「恭也、今の見えた?」
 一瞬の悠翔の行動を見て、忍が恭也に問いかける。
「ああ。悠翔がシグナムの剣を斬り捨てた時のことだな?」
「うん。私には悠翔君が二刀目の小太刀を遣ったことと、何かをしたってことは解ったんだけど……」
「ふむ……悠翔が何をしたかということまでは解らないんだな?」
「うん」
 恭也の言葉に頷く忍。
 普通は今の悠翔の動きは見えないだろうが、悠翔が何かをしたってことが解っているだけでも忍は充分凄いと言える。
 忍以外にもすずかも少しは解っているみたいだが、残りの全員は何が起きたのかは全く解らないようだった。
 しかし、恭也には今の悠翔の動きの全てがはっきりと見えていた。
「今のは、悠翔が御神流の奥義を遣った……ということだ。奥義の一つである雷徹を、な」
 忍は恭也の言った雷徹という単語に少しだけ驚く。
 悠翔の行った方法には覚えが無かったからだ。
「どういうことですか?」
 今の恭也と忍の会話に疑問を持ったクロノが質問をする。
「そうだな……はっきりと言えば悠翔は……雷徹を遣ってシグナムの剣を斬り落した。それも……一切、特別なものは遣わずにな」
 恭也が簡潔に悠翔が行ったことを説明する。
「なっ!? 今ので特別なものを遣っていないですって!?」
 今の恭也の説明にクロノが反論する。
「……ああ。悠翔は何も特別なものは遣っていない。いや……寧ろ、悠翔が行った方法は悠翔自身が最も得意としているものだと言っても良い」
「っ……!?」
 悠翔にとってはなんでもないといった様子でいう恭也にクロノは最早、言葉も出ない。
 レヴァンテインを斬り落したのが普通でしか無い。
 いったい、それがどれだけ難しいことをいっているのか、それが解っているクロノにとっては到底、信じられない。
 だが、次に恭也が言った言葉でクロノはさらに絶句することになる。
「後、一つだけ言っておくとすれば悠翔はまだ、全力を出して無いぞ?」
「は……?」
「それに……悠翔は自分の小太刀を遣っていないからな。本来ならもっと、楽にああいったことは出来るはずだ」
 悠翔が全力を出していないということにクロノは絶句するしかない。
 しかも、自分の小太刀を遣っていないということである。
 だったら、今の小太刀は代用品でしかないということなのか――――。
 いや、代用品でしかない小太刀であそこまで出来るものなのか――――。
 クロノは思案する。
 しかし、求めようとした答えが出ることはなかった。
















「恭也、悠翔君は今、遣った技を雷徹って言ったわよね?」
 忍が悠翔の放った雷徹に疑問を持ったのか恭也に尋ねる。
「ああ、そうだが」
「でも……悠翔君が遣ったのは私には見覚えがない。恭也もノエルを相手にして訓練してる時でも遣っていなかったのよね?」
 忍は恭也の遣う雷徹を見たことがあるため知っているのだが、悠翔が遣ったのは見たことがない。
 恭也がノエル達に対して遣う時は大抵の場合、素手だったのだから。
「そうだな。今、悠翔が遣った方法は小太刀を遣って放つという遣り方だからな。俺も普段は遣わない」
 忍の質問に恭也が応える。
 恭也の言うとおり、悠翔は多用しているかもしれないが……普段は遣わない方法なのである。
 雷徹は元々から御神流の奥義の中でも最大級の威力を誇る。
 それ故に素手でも恐ろしい威力を引き出せる。
 しかし、徹という技法自体が武器を問わずに扱うことが出来るもの。
 悠翔が小太刀で遣った方法も存在している。
 だが、小太刀で遣う場合は斬撃を徹すという特性までも含めるため、あまりにも危険だといえる。
 しかし、悠翔は全く、躊躇うことなく小太刀で雷徹を放った。
(……悠翔はここから本気を出すつもりか)
 悠翔の放った雷徹から恭也はそう結論付ける。
 今までの悠翔の戦い方は”剣士”としてのものであり、”御神の剣士”としてのものでは無い。
 だが、悠翔は御神流の奥義を放ち、利き腕の小太刀を抜き放った。
 ここからが悠翔の本気なのだろう。
 御神の剣士としての悠翔……。
 恭也にとってもその姿を見るのは久しぶりだった。
















「さて……仕切り直しといきましょうか」
 鞭状に変化していた剣を斬り捨てた俺はシグナムを改めて見据える。
 シグナムは今の光景に驚いた表情をしていたがすぐに冷静になって俺を見返す。
「不破……お前はいったい何をしたのだ?」
 シグナムが俺に問いかける。
 シグナムが聞いていることは尤もなことだ。
 しかし、俺にとってはなんのことでも無い。
「……何もしていない。ただ、斬り捨てた。それだけです」
「馬鹿なっ……!? 唯の小太刀でレヴァンテインを斬り捨てるだと!?」
「……確かにシグナムの剣は硬かった。だが、斬るのが不可能というわけじゃない」
 シグナムが反論するが、俺の言葉に一応は納得したのか口を紡ぐ。
「だが……今までの俺は唯の剣士としてシグナムに相対していた」
 俺はシグナムの様子を確認し、言葉を伝える。
「どういうことだ……?」
「今まではシグナムの力量と魔法がどんなものかを見せて貰うために様子を見させて貰っていた、ということだ」
「……そうか」
 魔法を見せて貰うために様子を見ていたという俺に対しシグナムが頷く。
 俺が魔法を見たことが無いということをはやてから聞いていたのだろう。
「……だが、それもこれまでだ」
「な……に……?」
 俺の一言にシグナムが驚きの表情を見せる。
 言葉だけなら別にシグナムが驚く必要はない。
 寧ろ、なんてことでも無いはずだ。
 だが……何故、シグナムが驚いたのかというと……今の会話の間に俺がシグナムに接近し、小太刀を首筋に向けていたからだ。
「ここからは……御神の剣士として相手になる」
 俺は小太刀をシグナムの首筋に向けたまま、言い放った。



































 From FIN  2008/6/24



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