御互いに剣を構えて暫しの間、立ち止まる。
 周囲の空気が御互いの気配の影響を受けたかのように変化する。
 暫くしてシグナムが名乗りを上げる。
「――――我、夜天の王・八神はやてに仕える守護騎士ヴォルケンリッターが将、シグナム。そして、炎の魔剣レヴァンティン」
 その名乗りに対し、俺も名乗りを返す。
「――――永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術、御神の剣士・不破悠翔」
 俺とシグナムは名乗りを上げた後、暫し黙る。
 そのまま、御互いの武器を構えて更に1分ほど――――。
















 ――――遂に戦いが始まった。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 まずは先に動いたのはシグナム。
 風を斬るかのような速さで一気に距離を詰め、悠翔に対して斬りかかる。
 瞬く間も無いほどの速さの剣速が迫って来る。
 だが、悠翔も右手の小太刀でそれを軽く受け止める。
 受け止めては見たもののシグナムの力は見た目以上に強いらしい。
 片手で受け止めるには少し厳しいものがある。
 そう判断した悠翔は瞬間的に力を込め、シグナムを弾き飛ばす。
 だが、弾かれたシグナムは何事も無かったように態勢を整える。
「片腕だけでその膂力……。大したものだ」
「……そちらこそ洋剣をそこまで速く操るとは、俺も驚いた。洋剣は普通、そこまで速く操れるものじゃない」
「それは御互い様だ。不破の剣技こそ、小太刀特有の速さを差し引いても余りある動きだ。相手としては申し分ない……!」
 再び、シグナムが動く。
 今度は上段からの振り下ろし。
 悠翔は受け止めることを考えず、身体を捻って斬撃を避ける。
 避けたと同時にシグナムの側面に回り込み、斬りつける。
 しかし、その動きはシグナムの予想の範疇だったのかレヴァンテインで牽制される。
 悠翔は冷静にシグナムのレヴァンテインの動きに合わせて身を捻り、斬撃を避ける。
 斬撃を避けた悠翔は再び、態勢を整え直し、シグナムもレヴァンテインを構え直す。
 今の攻防だけでもなのは達には全くと言っても良いほど見えない。
 悠翔とシグナムの動きが見えたのは、恭也と忍とすずか。
 魔導師側ではユーノとクロノとヴィータとザフィーラ。
 なのは達には殆ど解らなかった。
 一度は恭也で見ているとはいえ、悠翔達の攻防になのは達は驚くだけだった。
 悠翔までああいった動きが出来るというのは驚きだったのだろう。
 恭也と違って悠翔はなのは達と同じ13歳なのだから。
 それだけでも驚きに値するのだろう。
 最も、悠翔にとっては取り立てて凄いものでも無いのだが……。
















 これは予想以上に強いな……

 俺は軽くだが悪態を付く。
 少し、シグナムの実力を甘く見ていたのかもしれない。
 彼女は魔導師としてだけで無く、剣士としても優れた実力者のようだ。
 俺もまだ、二刀を遣っていないとはいえ、シグナムの力量の高さは理解出来た。

 ……気配の察知に関しても一級品だ
 これだけの力を持ちながら、魔法も遣えるというのか……
 これは……相当な実力者だと言える

 シグナムの力量を判断した俺は距離を取り、もう少し見極めることにする。

 ……まだ、魔法を遣っていない

 俺の目的は魔法を見ることと……戦闘というものを見せること。
 そのためにも魔法を一度は見ないといけない。
 だが……シグナムの力は魔法のことも考えれば俺よりも上だ。
 ……余裕があるかどうか。

 あえて、魔法を遣うような状況に持ち込むか……?

 俺は少し、思案する。
 しかし、そのためには今の戦い方では無理だろう。
 俺が暫し、思案しているとシグナムが構えをとる。
「レヴァンティン!」
《Explosion!》
 シグナムがレヴァンテインに命令を出す。
 ガコン、と音がしたかと思うと刀身の紫の装飾部がスライドし、内部のコックが機械的に動く。
 そして、赤い弾丸が一つ装填されると共にシグナムの纏う空気の感覚が変化する。

 ――――なんだ……この感じは?

 シグナムが何かを仕掛けようとしている。
 それがはっきりと解る。
 しかし、俺が感じているこの感覚は初めてだった。
 上手く説明は出来ないが……シグナムの纏っている空気が変わった。

 ――――魔法を遣うのか?
















(多少、卑怯かとは思うが……遣わせて貰おう)
 シグナムが構えを取り、悠翔を睨みつけるかのように眼を細める。
 シグナムが放つは自らの必殺の一撃。
「――――紫電一閃!」
 刀身に濃縮された魔力の迸りが、わずかに光となって刃を包んでいる。
 これを見れば本能的にもこの技が危険だと理解出来る。
 だが、悠翔はシグナムの紫電一閃をじっと見つめている。
(避けないつもりだというのか?)
 多少、魔力を抑えたとはいえ、今回は殺傷設定なのである。
 当たれば死亡する可能性だってある。
 特に悠翔は魔力が全く無いのだ。
 万が一直撃でもすれば確実に死ぬだろう。
 だが、悠翔は冷静だった。
 シグナムの眼には解らなかったが、悠翔は既に紫電一閃の範囲から離れていた。
 いや……寧ろ、悠翔は初めから範囲にいなかったといっていい。
(なっ……!?)
 シグナムは驚きのあまりに一瞬だが硬直する。
 今の悠翔の動きは初めから紫電一閃が来ることが解っていたかのような動きだった。
 でなければ、あれだけ冷静に紫電一閃を見つめるという真似は出来ない。
(まさか……あんなに簡単に凌ぐとは)
 シグナムは悠翔の力量に感心する。





(……なんて威力だ)
 悠翔はシグナムの紫電一閃を見てそう判断する。
 今のは威力をある程度は抑えていたように見える。
 恐らくはシグナムが全力で遣えばあんなものでは無いのだろう。
 だが、悠翔にとってはあまり気になるものでも無い。
(確かに威力はある、速度も充分だ。だが……読みやすい)
 悠翔は紫電一閃を見て読みやすいという判断を下す。
 紫電一閃が遅いということはありえない。
 だが、悠翔が読みやすいと判断した理由は気配で察知出来たことと、恭也や士郎に比べると剣速が遅いということにある。
 決して、シグナムに問題があるわけでは無い。
 魔導師として……いや、騎士として戦っているシグナムと剣士として戦っている悠翔の感覚の差だといえる。
 魔導師や騎士は魔力を察知して攻撃、防御、回避といった行動を行う。
 しかし、剣士は相手の動き、視線、タイミング、間合い、相手が感知できる此方の気配、剣気、殺気など、ありとあらゆる知覚手段や動きで判断する。
 そういったことから悠翔にとっては魔力を遣うということは剣気や殺気といった感覚に似たような感じに捉えられる。
 元々、あらゆる知覚手段を意図的に誘導する術である貫を扱えるのだ。
 貫は誘導するだけでなく、見切りの技法でもある。
 更に悠翔はそれとは別に、啓吾から教わった見切りの技法……所謂、刹那の見切りと言うべき術も持ち合わせている。
 冷静に判断すれば今の一撃を避けることは問題ない。
(今のが魔法か……手加減してあの威力だというのなら脅威だな。しかし……)
 悠翔はシグナムの放った魔法について分析する。
(カートリッジの装填、魔法展開、言葉による発動……。軽く判断してもこれだけの工程がある)
 悠翔が分析した内容はあくまでベルカ式の魔法の発動工程である。
 しかし、ミッドチルダ式も魔法式の構築や展開といったように様々な工程がある。

 ――――”剣士”としては無理だが……”御神の剣士”としてなら魔法は発動前に対処出来る

 魔法の全てを見たわけでは無いが、悠翔は漠然とそう思った。
















(……強い)
 シグナムは悠翔を見て冷静に判断する。
 魔法が遣えないからといって少し、油断していたところもあったのかもしれない。
 しかし、ここに来てシグナムは完全に油断を無くす。
 間違いなく、悠翔は強い。
 しかも、悠翔は全く手の内を見せていないのだ。
 それでもあれだけの動きをするのだから本来の実力がどのくらいあるのかが全く解らない。
 しかし、悠翔の力、技、速さ……その全ては確かに申し分ない。
 シグナム自身と比べても根本的な剣士としての力はあちらが上かもしれない。
 だが、悠翔は全く、手の内を見せようとはしない。
(考えても仕方が無い)
 シグナムに退く、という選択肢は存在しない。
(だったら、私の遣り方で確かめる!)
 騎士として主の前に立つ者として退くという言葉は必要ない。
「レヴァンティン!」
《Nachladen!》
 カートリッジロードされ、赤い弾丸が装填される。
《Schlange form!》
 レヴァンティンの声の直後、その刀身が等間隔に切り離されていく。
 しかし、その中心は鋼線で繋がっており、まるで蛇のような姿になる。
 鞭に近い形の形態といっても良いその形態。
 シグナムの長距離戦用の形態だった。





 悠翔はレヴァンテインのあまりにも信じられないような形態の変化に驚く。
 形態が変わるらしいということは既に聞いていたが、まさかここまでとは予想していなかった。
 魔法というものは自分の常識を遥かに超えている。
 しかし、シグナムが何を遣ってこようとも自分に退く道理は無い。
 御神の剣士に退くという道理は無いのだから。
「いくぞ!」
 シグナムの裂帛の気合とともにレヴァンティンが渦を巻いて悠翔に接近する。
 悠翔は咄嗟に第一撃目を避ける。
 しかし、蛇龍と化したレヴァンテインの剣先が背後から迫る。
 悠翔はこれも冷静に避ける。
 だが、今のレヴァンテインはただの剣では無い。
 鞭の特性も持ち合わせているのである。
 剣の刀身だったはずの部分の刃が無規則に悠翔を追いかける。
 悠翔はレヴァンテインの間隙を抜け、飛針をシグナムに投げつける。
 寸分違わずに飛針はシグナムを狙うが、それをシグナムはレヴァンテインで弾き飛ばした。
(このままじゃ、埒があかない)
 自分を追いかけてくるレヴァンテインをどうにかしようと考えて飛針を遣ってみたのだが、シグナムにはそれも通じないようだ。
(……仕方が無い)
 悠翔は足を止め、小太刀を構える。
 この状況を突破するには最早、遣うしか無い。





 シグナムは悠翔の行動に一瞬驚く。
 だが、悠翔が構えたことを認めたシグナムはそのままレヴァンテインを振るう。
 蛇龍と化しているレヴァンテインが急速に悠翔に迫る。
 レヴァンテインの刃が悠翔に当たるかと思われた瞬間――――。
















 ――――悠翔の小太刀が閃いた。



































 From FIN  2008/6/23



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