これは……一筋縄でいかないな

 俺は冷静にシグナムとクロノさんの力量を推察する。
 唯でさえ、魔法という大きな力を持っている。
 しかも、魔導師にはランクがあるとかで、シグナムもクロノさんも時空管理局全体で5%にも満たないほどのランクだとか。
 なのはさんとフェイトとはやても同じようにランクが高いらしいが……彼女達はどちらかと言えば力に偏っている印象がある。
 同じような魔導師のランクで考えるとなのはさん達よりはヴィータの方が俺にとっては怖いくらいだ。
 いや、寧ろなのはさん達よりもヴォルケンリッター達の方が脅威だな。
 永い刻を流れてきただけあってシグナム達はかなりの経験と戦闘者としての感覚を持ちあわせている。
 多分……足りないところがあるとすれば生身一つでの戦闘の感覚くらいだろうか。
 魔力が無い世界ではヴォルケンリッターが以前やってきた行為というのはあまり意味は無いみたいだしな。
 だが、なんにせよ、シグナムが強いのは間違い無い。
 俺に比べても魔法がある分、力は圧倒的に上だろう。
 だが、此方には此方の戦い方がある。

 この世に絶対なんてものは無い……

 例え、シグナムのような騎士が相手だとしてもそれは変わらない。
 ……とにかく遣るだけだ。






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 俺が考えごとをしていた間にシグナムも準備を済ませたらしい。
 服装がさっきとは大幅に変わっている。
 少し、変わった感じの意匠だが……多分、騎士の鎧みたいなものだろう。
 確か……騎士甲冑とか言ったか。
 それとシグナムが腕に持つのは一振りの騎士剣。
 見た感じでは片手でも持てるくらいの扱いやすい大きさの洋剣だ。
 だが、見た目とは裏腹にあの剣は相当な力を持っている。
 優れた武器というのは見ただけでも解るからな……。
 聞いた話だと、剣以外にも形態があるんだとか。
 しかし、見ただけではとても解らない。
 多分、俺の常識では測れないようなものなんだろう。
 武器を多種多様に扱う……それはとても難しいものだ。
 しかし、シグナムはそれを遣いこなすことが出来るという。
 それだけで、彼女がどれだけの力量を持っているかは解る。
 唯、一つ惜しむとすればシグナムも魔力によるものに頼っている分があるということか。
 魔力という明確な力があるならそれを遣うことは当然だ。
 しかし、魔力を遣う力である魔法が遣えない時はどうするのか。
 俺にはその辺りに疑問がある。
 だが……シグナムのような力量を持つ魔導師なら対策法を知っているのだろう。
 けど、それでも埋められないものはあるはずだ。
 例えば……魔法というものには一瞬の時間の間隙があるのは間違い無い。
 そういう意味では魔法も決して無敵ということは無い。
 遣りようはあると言えるだろう。

 後は……どこまでその力の差を埋められるか、だな
















「では、今回のルールでも決めておこうか。勝敗は戦闘不能か、状況次第。飛行魔法に関しては使用も構わないが、制限付きだ。基本的には無しで考えてくれ」
 クロノさんが簡単にルールを説明する。
 因みにこの間にユーノが結界を展開している。
 ……普通に魔法を扱うのは危ないだろうからな。
 恐らくは、そのあたりも考慮しているのだろう。
 しかし、飛行に制限があるのは有り難いな……。
 流石に飛行されてしまうと、此方の手段もかなり限られてしまう。
 今回の場合は地形の都合で対処は出来るだろうが……それでも飛行している相手に挑むのはキツイ。
 貫を遣うか、地形を駆使するくらいしか遣りようが無いだろう。
「後、シグナムの魔法の設定は非殺傷前提で……」
「いえ、待って下さい、クロノさん。出来れば殺傷前提でお願い出来ませんか?」
 クロノさんが更に捕捉で説明を加えようとするが、俺はそれを遮る。
「なっ……君は本気で言っているのか!?」
「……ええ。本気ですよ。俺の方が殺傷を前提としか出来ないのにシグナムが非殺傷というのはあまりにもハンデがありすぎる」
 あえて細かいことは言わないが、元々シグナムの扱う魔法には非殺傷と言うものは無いらしい。
 一応のところは出来ないことは無いらしいが、遣る場合にはなにかしらのリスクがあると言う話もある。
 それでは戦う上でもハンデとしかならないし、シグナムにとっても不利過ぎる。
「だが……君には魔法を防ぐ手段は無いだろう? それなのに殺傷設定では命の危険が……」
 クロノさんが俺の提示した意見に反論するが俺は更に言い返す。
「……俺は元々から次の無い世界に身を置いているんです。そのくらいの覚悟は出来ています」
「しかし……っ」
「それとも……魔法と言う大きな力を振るっている貴方達がその覚悟が出来て無いとでも?」
「ぐっ……」
 俺の言葉に反論出来ないクロノさん。
 もしかしたら、俺達の常識とクロノさん達の常識には大きな差があるのかもしれない。
 なのにそれだけの力を持っていると言うのに俺は恐怖を感じ得ない。
 力を振るうというのにはそれ相応の覚悟がいる。
 だが、話を聞いている限り、魔法というのは子供でも遣っているみたいだ。
 俺もまだ、子供だが御神の剣がどれだけの力なのかは理解している。
 だが、魔法に関しては才能があれば構わないようにも思える。
 現になのはさんやフェイト……それに、はやて達は9歳から時空管理局に入ったと聞いている。
 だが、そんな子供のころからそれだけ大きな力を振るうのはどうかと思う。
 10歳以下の年齢でそんな力を持っているなら普通は一種の英雄願望と言ったようなものにとり憑かれてしまうかもしれない。
 幸い、なのはさん達はそんな人じゃないから良かったかもしれない。
 しかし、時空管理局の中には英雄願望だけで魔法を振るっているような人間もいるかもしれない。
 そう考えてみると時空管理局というのは危うい組織だとしか感じられない。

 ……尚更、時空管理局は信じられないな

「まぁ……それは些細な些細なことですから気にしなくても良いです。ですが……俺の言った条件は飲んで貰いませんか?」
 とりあえず、俺は考えたことを振りきり、クロノさんに意見を伝える。
「それに……今、言った条件を飲んで貰わないと今回のことの意味が無くなってしまいますので」
「……解った」
 俺の言った意味に気付いたのかクロノさんが頷く。
 さて……これで対等な条件には持っていけたが……。
 ……ここからはシグナムとの戦い方次第だろうな。
















「さて……随分と色々あって遅くなったが……早速、始めようか」
「……ああ」
 シグナムが頷き、剣を構える。
 俺も小太刀の裡の一刀を抜き、構える。
「む……不破は二刀遣いと聞いていたが……違うのか?」
 シグナムも俺の構え方に少し驚いたらしい。
 意外そうに見つめる。
「いや、別に違わないが……これは俺の戦い方の特徴だと思ってくれ」
「……了解した」
 念のため、俺はシグナムに構え方のことに関して伝えておく。
 事情を知らない相手からしたら……俺のこの構えは手加減しているようにも見えるからな。
 とりあえず、シグナムは納得してくれたのか頷く。
 御互いに剣を構えて暫しの間、立ち止まる。
 周囲の空気が御互いの気配の影響を受けたかのように変化する。
 暫くしてシグナムが名乗りを上げる。
「――――我、夜天の王・八神はやてに仕える守護騎士ヴォルケンリッターが将、シグナム。そして、炎の魔剣レヴァンティン」
 その名乗りに対し、俺も名乗りを返す。
「――――永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術、御神の剣士・不破悠翔」
 俺とシグナムは名乗りを上げた後、暫し黙る。
 そのまま、御互いの武器を構えて更に1分ほど――――。
















 ――――遂に戦いが始まった。



































 From FIN  2008/6/20



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