それにしても……シグナムは騎士で、悠翔は剣士。
2人とも剣を扱うというのは同じ。
でも、その戦い方と考え方は全く、違う。
シグナムは正々堂々としているけど……悠翔は違うような気がする。
士郎さんとの立ち合いで悠翔の剣は少しだけ見せて貰ったけど……。
悠翔の振るう剣は正々堂々とは言わない。
私には……その悠翔の振るう剣が解らない。
ミッドチルダじゃありえない剣だということならはっきりと言える。
私達、魔導師の常識じゃ計れない剣……それが悠翔の振るう剣なんだと思う。
シグナムでも悠翔に勝てるか解らないかも……
悠翔が普通に戦うだけなら魔法があるシグナムの方が強い。
でも……悠翔にも御神流という私達の理解の範疇を超えた力がある。
後は……本人達次第なんだろうけど……
私にはなんとなく悠翔が勝つような気がしていた。
ただ、どうして……私がそう思ったかは解らない……。
本当になんとなく思っただけなのかもしれない。
でも……この予感は当たる……
何故かは解らないけど……私はそういう予感が止められなかった。
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「では……早速、始めようか」
「ああ、宜しく頼む」
俺は一言、シグナムに声をかけて、多少の距離をとる。
本来はあまり、距離を取る必要は無いのだが、今回は魔法を遣うことを前提としている。
接近戦に持ち込ませれば魔法を遣わせないことも出来るだろうが……。
それはあくまで剣士の領分だ。
魔導師が相手だとそれは戦いの意味を成さないだろう。
俺は小太刀を抜き、精神を統一する。
意識を集中させ、周囲の空気を感じ取る。
……何か違和感があるな
咄嗟に気付いた俺はその違和感の感じた方向に向かって飛針を投げつける。
飛針を投げた方向から鈍い音がした。
今の俺の行動に魔導師達が驚く。
「……監視モニターとかセンサーの類か。目的としては恐らく、俺のデータを取るつもりだな」
俺は破壊した物を睨みながら言い放つ。
「それが、時空管理局の遣り方か……」
はっきり言って、呆れ果てて言葉も無い。
データを取ろうとする行為に関しては悪いとは言わない。
だが、了承も無く取るというのは認めるわけにはいかない。
今回の目的は魔法を見せて貰うためであり、俺のデータ収集が目的では無いはずだ。
恐らくは……クロノさんか、話に聞いていたリンディさんの指示かもしれない。
「……今回のは僕達の独断だ。君がどのくらいの力を持っているかどうしても判断したかった」
俺の考えていることが解ったのかクロノさんが答える。
「そういうことなら、別に構わないですけど……。俺としてはデータとしては残したく無いですね」
俺は溜息をつき、言葉を続ける。
「貴方達には解らないことかも知れないが、剣士は手の内を知られることを嫌う。別にデータを取ることは悪く無いけど……易々と見せるわけにもいかない」
「……すまない」
俺の言葉に頭を下げるクロノさん。
クロノさんの態度を見る限り、この人は真面目なのだろう。
だからこそ、俺がどのくらいの力を持っているのかを見たかったのかもしれない。
組織に所属していると身して不確定要素とも言える俺達のデータは必要だろう。
だが、此方としてはデータを取られたくないのも事実だ。
とはいってもクロノさんを追及することでも無い。
「……解っているなら良いんです。組織に所属している人から見れば当然のことなんですから」
「あ、ああ……?」
クロノさんは俺がこれ以上の追及をしなかったことに疑問を持った様子。
「……俺も多少は組織とかの事情に関しては解っているつもりですから」
俺の言った意味に納得するクロノさん。
俺の言い分にクロノさんが頷き、俺は再度、シグナムに目線を向ける。
「待たせてしまったようで申し訳ない。それでは……始めようか」
そう言って俺は小太刀を構え直した。
「なぁ、フェイトちゃん。今の悠翔君とクロノ君とのやり取りの前にやった悠翔君の動きは見えた?」
悠翔とクロノのやり取りにはやてが驚きながら尋ねる。
私も今の悠翔の動きは全く見えなかった。
寧ろ、悠翔が針のようなものを投げた理由も解らなかった。
悠翔がいったい、何を感じてそんな行動をとったのかは解らなくて。
「う〜ん……私が思ったことなんやけど……もしかして、悠翔君はクロノ君達が何かを設置していたのに気付いたんとちゃう?」
「え……?」
「多分、悠翔君の話がクロノ君達に伝わっているんやったら……そのくらいのことはすると思うで?」
はやてが簡単に推理する。
確かに……クロノだったらそのくらいはやりかねないけど。
「まぁ、なんにせよ。それに気付いた悠翔君は凄いと思うで? 私達は誰も気付かんかったやろ?」
「うん……そうだけど……」
「本当に聞いてたとおりに悠翔君は凄いんやなぁ……」
「そうだね……」
私は呆けた感じのはやてに頷く。
本当に何かが仕掛けられていたことなんて全く気付かなかった。
でも、悠翔は簡単に気付いていた。
恭也さんも多分、気付いているんだろうけど……。
やっぱり、私達の中では誰も気付いていない。
悠翔の感覚は本当に違うんだと思う。
私達は、魔力で感じるのが普通だけど……悠翔は別のもので感じてる。
それがどれだけ私達、魔導師では考えられないことなのか……。
考えれば考えるだけ、悠翔達は凄い。
多分……シグナムも驚いているんじゃないかな……?
「あ、ああ……始めようか」
今の俺とクロノさんのやり取りに少しだけ驚きながら頷くシグナム。
まぁ……無理もないとは思う。
シグナムも相当な力量の騎士で戦闘の経験も気配からして相当なものだ。
だが、魔法のある世界に身を置いていたのもあって俺達みたいな気配の感じ方は専門では無いのだろう。
シグナムも違和感には少しだけ気付いていたようだが……確証までは持てなかったらしい。
もし、魔導師や騎士がこういったことが出来ないというのであれば、魔法という大きな力があったとしてもこのくらいならどうにか出来る。
しかし、俺が見る限り、シグナムは他の魔導師達とは違って、多少の気配察知能力を持っていると思える。
恐らくだが……クロノさんも他の魔導師達よりも慣れている感じがする。
これは……一筋縄でいかないな
俺は冷静にシグナムとクロノさんの力量を推察する。
唯でさえ、魔法という大きな力を持っている。
しかも、魔導師にはランクがあるとかで、シグナムもクロノさんも時空管理局全体で5%にも満たないほどのランクだとか。
なのはさんとフェイトとはやても同じようにランクが高いらしいが……彼女達はどちらかと言えば力に偏っている印象がある。
同じような魔導師のランクで考えるとなのはさん達よりはヴィータの方が俺にとっては怖いくらいだ。
いや、寧ろなのはさん達よりもヴォルケンリッター達の方が脅威だな。
永い刻を流れてきただけあってシグナム達はかなりの経験と戦闘者としての感覚を持ちあわせている。
多分……足りないところがあるとすれば生身一つでの戦闘の感覚くらいだろうか。
魔力が無い世界ではヴォルケンリッターが以前やってきた行為というのはあまり意味は無いみたいだしな。
だが、なんにせよ、シグナムが強いのは間違い無い。
俺に比べても魔法がある分、力は圧倒的に上だろう。
だが、此方には此方の戦い方がある。
この世に絶対なんてものは無い……
例え、シグナムのような騎士が相手だとしてもそれは変わらない。
……とにかく遣るだけだ。
From FIN 2008/6/20
前へ 次へ 戻る