「それは全部、悠翔に任せてある。そうだな、悠翔?」
「……ええ。俺がなのはさん達にそう言いました」
「君がか……?」
 恭也さんに話を振られた悠翔が答える。
 確かに戦闘という形で見せると言ったのは悠翔だけど……。
 そのことにクロノが疑問を持つのは普通だと思う。
「はい。ですから、場所も道場では無く、恭也さんが訓練をしているという裏山で考えています。その方はより深く見せられると思いますから」
「なるほど……そういうことなら僕に異存は無い」
 悠翔の言い分にとりあえず納得したクロノ。
 戦闘という意味でも悠翔が言った裏山なら色々と出来るんだと思う。
 けど……あの場所は以前に私が恭也さんに模擬戦で負けた場所。

 ……と言うことは剣士である悠翔の方が有利……?
 でも、悠翔はあの裏山に関しては初めてだし……そんなことは無いのかな?
 けど……戦闘という意味で裏山を選んだなんて……どういう意味があるんだろ?






















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 結局、私がどうこう考えているうちに裏山に到着する。
 その道中で私は悠翔に話を聞いてみたけど、悠翔ははぐらかすばかり。
 恭也さんに話を聞いてみようかと思ったけど、恭也さんは忍さんと話をしていて。
 なのはが何か知らないかと思って話を聞いてみようとするけど、なのははユーノと話をしている。
 アリサとすずかも疑問を浮かべていたけど、なんとなくの部分で納得していたみたいで。
 はやてとヴォルケンリッターの皆は今日のことで少し話をしている。
 特にシグナムはとても興味を持っている様子。
 そして……クロノは悠翔を見つめていた。
「どうしたの、クロノ?」
「いや、悠翔と言ったか? なんとなく、彼が気になっているんだ」
「そうなの?」
「……ああ。悠翔はなんとなくだが……僕のことを疑っているような感じがする」
 悠翔が……クロノを疑ってる? それは吃驚だった。
 確かに悠翔はクロノに対して、視線を向けていたけどそういう意味だったなんて。
 今も悠翔はクロノに対して視線を向けている。
「悠翔」
 私はいてもたってもいられなくなって悠翔に話しかける。
「……フェイト。俺の視線に気付いていたんだな」
「うん……」
「俺がクロノさんを見ていた理由として、疑っているというのは間違っていない」
 今の私とクロノの会話が聞こえていたのか悠翔が肯定の意志を示す。
「彼に視線を向けていた理由としては二つある。一つは彼が尋常じゃない実力を持った人だということ」
 悠翔はクロノを見ながら確信を持った様子で言う。
 一目見ただけでクロノの実力を理解した私は少しだけ驚く。
 けど、私がもっと驚くのは次の言葉だった。
「そして……もう一つは、俺が時空管理局という組織を信じられないということだ」
「え……?」
 悠翔の言ったことに私は言葉が出ない。
 管理局が信じられないと言った悠翔。
 そんなことを言うなんて思いもしなかった。
「どうして……悠翔は信じられないの?」
「……色々とな。存在に関しては信じていないわけじゃない。俺があまり信じられないって言うのは……好感が持てないからだ」
「好感が持てない……?」
「ああ。話は昨日聞いていたが……以前の事件での介入の仕方などが一方的過ぎる意見のように感じる。まぁ……他にも俺が信じられないと言った理由はあるんだが」
 そう言って口を紡ぐ悠翔。

 悠翔はどうして……管理局に好感が持てないの……?
 それに……他にも信じられない理由が……?
 いったい……どういうこと?

 考えてみても私には答えは出なかった。
















「さて……俺の準備は終わっている。そちらは?」
 裏山についてから俺はなのはさん達をはじめとする魔導師達に声をかける。
「僕達も準備すぐに終わる。だが……誰が悠翔と対峙する?」
「私が相手をしたいと思います」
 クロノさんが確認をとったと同時にシグナムさんが名乗り出る。
 しかし、彼女の纏っている空気でそれは予想出来た。
 シグナムさんは騎士道を重んじ、義も重んじているといった感じの印象か。
 彼女はなんとなく好印象が持てる人だ。
 話によれば人とは違うらしいが……その辺りは些細なことだ。
 剣士として俺も彼女とは対峙したいと思う。
「寧ろ、俺からもお願いします。シグナムさんとなら俺も剣で存分にやれそうです。それに……戦闘と考え方の違いというのも含めて」
 俺からもお願いする。
 こんな良い機会はそうそうは無いだろう。
「……解った。2人に異存が無いというのならそれで構わない」
 俺とシグナムさんの願いにクロノさんが頷く。
 さて……これで、シグナムさんと立ち合えるのだが……どう考えるか……。

 まずは、魔法を見せて貰ってから、だな
 後は、相手がああいう騎士だというのであれば俺が剣士としての戦い方をするのに遠慮はいらない
 力において、俺が圧倒的に負けているだろうが……遣りようはある……
 それに、御神の剣に退く道理は無い
 俺は自分の遣り方で剣を振るうだけだ……

「不破、これから対等に戦うのだから敬語など止めてくれ。敬う対象など何処にもいないのだから」
「……すまない、シグナム。非礼を詫びる」
 シグナムさん……もとい、シグナムの正々堂々とした振る舞いに俺は一言だけ返す。

 これは予想以上だな……

 俺はシグナムの気配を素直に感じ入る。
 これだけ、堂々としているというのは凄いことだ。
 俺もそういう部分で負けているつもりは無いが……。
 それでも大したものだと俺は感じる。

 伊達に将という名を持っているわけでは無いか……

 シグナムの気配は将と呼ぶに相応しい。
 これは一筋縄ではいかない相手だろう。
 俺は気を引き締め直す。
















 シグナムが悠翔の相手になったというのは思ったとおり。
 はやても解っていたのか、シグナムを止めようとはしなかった。
 恭也さんは無言で悠翔とシグナムの様子を見つめている。
 何か、思うところがあるのかもしれない。
 それにしても……シグナムは騎士で、悠翔は剣士。
 2人とも剣を扱うというのは同じ。
 でも、その戦い方と考え方は全く、違う。
 シグナムは正々堂々としているけど……悠翔は違うような気がする。
 士郎さんとの立ち合いで悠翔の剣は少しだけ見せて貰ったけど……。
 悠翔の振るう剣は正々堂々とは言わない。
 私には……その悠翔の振るう剣が解らない。
 ミッドチルダじゃありえない剣だということならはっきりと言える。
 私達、魔導師の常識じゃ計れない剣……それが悠翔の振るう剣なんだと思う。

 シグナムでも悠翔に勝てるか解らないかも……

 悠翔が普通に戦うだけなら魔法があるシグナムの方が強い。
 でも……悠翔にも御神流という私達の理解の範疇を超えた力がある。

 後は……本人達次第なんだろうけど……

 私にはなんとなく悠翔が勝つような気がしていた。
 ただ、どうして……私がそう思ったかは解らない……。
 本当になんとなく思っただけなのかもしれない。

 でも……この予感は当たる……

 何故かは解らないけど……私はそういう予感が止められなかった。



































 From FIN  2008/6/17



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