恭也さんも士郎さんも師範だというのもあり、流石に奥義のことにも御神流のことにも詳しい。
美沙斗さんと夏織さんも詳しかったが……女性ということもあり、恭也さん達とは視点が違っていた。
そういう意味でも恭也さんと士郎さんとの立ち合いはとても参考になる。
特に恭也さんは俺と同じように身体に傷を持っている剣士だ。
今ではその傷も完治しているみたいだが……どういった方法で戦えば良いのかも恭也さんは良く理解している。
本当に恭也さんは凄いと思う。
士郎さんも様々な経験をしているだけあって多くの戦いの術を知っている。
特に経験という点では今の御神の剣士の中では最も深くを見ているだろう。
はたして、俺はどこまで恭也さんや士郎さんに迫ることが出来るのだろうか……
魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
「虎切に関することはこのくらいにして……後は色々と遣ってみることだな。虎切は遣い勝手が良いからな」
「はい」
虎切に関する話が一段落し、俺は士郎さんに頷く。
「さて……後は虎乱と花菱だが……花菱の方は大分、美沙斗さんにも見せて貰っているんだろう?」
「はい。とは言っても虎切と大差はありませんが」
虎切の後は虎乱と花菱の話。
花菱の方は美沙斗さんが遣っていたからある程度は形が出来つつある。
とは言っても完成度で言ってしまえば先程遣った虎切と大差は無い。
まだまだ、花菱も完成しているとは到底、言えない。
「そうか……。だったら、軽く見せておいた方が良いな。……恭也」
「解った。悠翔、少しの間で良い。そこを動くな」
「解りました」
恭也さんが俺に確認し、木刀を構え、奥義を放つ。
――――小太刀二刀御神流
恭也さんが一刀を抜き放ち……。
――――奥義之伍・花菱
高速で斬撃が放たれる。
花菱は相手に一切の隙を与えず、連続で斬撃を浴びせる技。
手数においては虎乱に及ばないが、近距離〜中距離で遣えるため遣い勝手においては虎乱を上回るかもしれない。
因みに花菱は系統的には射抜に少し近い。
多少の距離が開いても遣えるのはその辺りにあるのかもしれない。
俺は意識を集中させ、恭也さんの放った花菱の太刀筋を見極める。
僅かに数秒も満たないような時間だったが、俺はその花菱を脳裏に焼き付けた。
「大体は解ったか?」
「あ、はい。今からやってみせますので下がって見てて下さい」
「……解った」
恭也さんの返事を確認した俺は木刀を構える。
集中力を高め、脳裏に焼き付けたイメージと自分の動きを重ね合わせていく。
イメージが鮮明になり、俺は木刀を抜き放つ。
――――小太刀二刀御神流、奥義之伍・花菱
俺が放つ高速の斬撃。
元々、俺は射抜を遣えるのもあって花菱の感覚を攫むのは早かった。
更に美沙斗さんからも見せて貰っていたのもある。
ある程度のイメージは初めから出来上がっていたとも言える。
「ふむ……花菱も思ったよりは問題無いな。後は、実戦で慣らしていくのが良いだろう」
「そうだな。元々、悠翔は射抜が遣えるからな。花菱の感覚を攫むのも早いだろう。後は美沙斗や夏織にでも意見を貰えば良い」
そう言って頷く、恭也さんと士郎さん。
これで、今日の朝だけで俺が基本を習得出来た奥義は2つ。
虎切と花菱……どちらも頭の中では出来上がっていた技だ。
とは言っても今までは技として遣えるというものでは無かった。
しかし、恭也さんと士郎さんのお陰でなんとか形にはなった。
後は、俺が今後も遣って鍛え上げていく感じになるんだろう。
完全に扱えるようになるまでは……数年くらいの年月が経たないと駄目なんだろうが。
残りは虎乱だが……俺の利き腕には問題があるため、これは難しいか?
薙旋の場合は虎乱ほど剣を振るうことは無いが、虎乱の場合は二刀による連続技だ。
二刀による連続技と言う点で利き腕に難がある俺には難しい技だ。
こればかりはじっくりと習得していくしか無いな……。
「大体、今の段階で悠翔に教えられる奥義はこのくらいか。悠翔は他に聞きたいこととかあるか?」
「そうですね……」
士郎さんに尋ねられ俺は少し考える。
今のところ奥義に関しては問題無い。
今回教わった奥義は実戦で遣っていくことで奥義としての形になっていくだろう。
後は、自分でじっくりと時間をかけて鍛え上げていくだけだ。
とりあえず、射抜、雷徹を基本として、薙旋を用途によって遣っていくのが今の段階での基本だろう。
虎切と花菱は色々と戦術や状況次第で組み入れていく感じか。
俺の戦い方の場合だと虎切や花菱を遣う状況は意外と限られてくる。
その辺りも考慮しないとな。
しかし……聞きたいことか……
とりあえずはあのことでも聞いてみるか……
「じゃあ……恭也さん、神速の二段がけについて聞きたいのですが……」
「む……? 悠翔も神速の二段がけのことを知っているのか?」
俺が神速の二段がけを知っていることに少しだけ驚く恭也さん。
確かに神速の二段がけを遣うのは恭也さんくらいしかいない。
士郎さんも遣っているのかは解らない……実戦で遣ったと言う話を聞いたのは恭也さんくらいだ。
それに、美沙斗さんと美由希さんも遣うとはあまり聞かないからな。
夏織さんの場合は……どうか解らないけど。
「ええ、美沙斗さんから話を聞きました」
「……そういうことか」
恭也さんは俺の美沙斗さんから聞いたという言葉に納得した表情をする。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「ええ、その神速の二段がけですが……俺にも遣うことは出来るでしょうか?」
俺は率直に恭也さんに質問する。
「ふむ……悠翔なら遣えるようにはなるだろうな」
「本当ですか!?」
「ああ。だが……今の段階での悠翔が遣うにはリスクが大きすぎる」
俺の質問に意外にも肯定の意志を示す恭也さん。
しかし、恭也さんは自分の膝を見ながら注意をする。
恭也さんは以前に膝を壊していた。
今でこそ手術して完治はしているが、古傷となった膝は行使しすぎると痛むことがあるらしい。
俺が聞いた限りだと、恭也さんが神速の二段がけを遣えるようになったのは膝の怪我があったからこそだと聞いている。
本来、御神の剣士は神速を遣うことも前提とした戦い方だ。
しかし、恭也さんの場合は膝の都合もあって神速を遣うことを前提とした戦い方が殆ど出来ない。
だからこそ、恭也さんの場合は神速を”切り札”にすることで、他の戦術で戦っていたらしい。
そして、神速二段がけは神速を切り札にしたからこそ遣うことになったんだとか。
壊れた身体を持つからこそ編み出された最強の切り札。
そういう意味では恭也さんとは違うが、俺も条件は満たしているのかもしれない。
俺の場合は足では無く、利き腕の方だが……。
利き腕が限られた場合にしか遣えない……これは剣士としては致命的だ。
俺が神速の二段がけを求めたのも刹那の一瞬で斬り伏せるという戦闘の型をしているからこそでもある。
恭也さんは神速が切り札……俺の場合は刹那の一瞬に加速、二刀術が切り札……。
どうしても、俺には神速の二段がけは必要だった。
「悠翔の場合は身体がまだ、発展途上だ。今の段階で神速と奥義の一部が遣えるというだけでもかなり凄いと言える」
「そう……なんでしょうか」
「それに……神速の二段がけは神速以上に負担がかかる。神速の中でもう一度、神速に入るからな」
「……はい」
恭也さんの言った負担がかかるという言葉に俺は返す言葉もない。
確かに今の俺の身体の状態じゃ負担をかけすぎてしまうのかもしれない。
「一応、やり方だけは見せておくが……決して遣おうとは思うな」
――――小太刀二刀御神流、奥義之歩法・神速
俺に忠告をし、恭也さんが神速の領域に入る。
それを見た俺も神速の領域に入る。
視界から全ての色が失われ、モノクロの世界に変わる。
時間の感覚が引き延ばされ、周りの光景がスローモーションになっていく。
その世界の中で恭也さんは普通に動いている。
俺も神速の領域に入っているからだ。
恭也さんと俺が神速の領域に入っている中、恭也さんの姿が掻き消える。
恭也さんが神速の二段がけに入ったのだろう。
俺は神速の領域の中で恭也さんを探してみる。
しかし、恭也さんがどう動いているかは全く見えない。
時間にして……3秒くらいだろうか、恭也さんが姿を現す。
それも、俺の背後から首筋に木刀を向けている形で。
「っ……!?」
「……これが、神速の二段がけだ」
恭也さんが背後でぽつりと呟く。
今の光景の凄さに俺は言葉も出ない。
神速の領域でも今の動きは捉えられなかった。
これが……神速の二段がけ……
「まぁ……神速の二段がけはこんなところだ」
そう言って恭也さんは一息つく。
流石に神速の二段がけは反動があるのか恭也さんは軽く呼吸を整え直している。
「……はい、ありがとうございます」
恭也さんの今の動きに俺はぞっとする。
神速の領域から更に神速の領域に入る……それが、どれだけ難しいか。
今の動きを見ていればそれが解る。
やり方が解っても、そう簡単に出来るものじゃない。
俺はそれを実感した。
今の技法はあまりにも難しすぎる……。
それに、恭也さんの言うとおり負担も大きい。
多分、恭也さんでも5秒と持つかは解らないだろう。
それだけ神速の二段がけは反動が大きい。
神速の二段がけ、本当に限られてるからこそ遣える方法なんだな……
恭也さんが決して遣おうと思うなと言った理由がよく解る。
幾ら、可能とはいえ、神速の中で神速を遣うということはあまりにも反動が大きい。
俺はそのことを肝に命じる。
しかし……この神速の二段がけを遣える恭也さんは本当に凄い。
恭也さんは俺なら神速の二段がけも遣えるようになるとは言ってくれたが……。
俺は恭也さんと同じ不破だが……ここまでのことが本当に出来るようになるんだろうか?
From FIN 2008/6/9
前へ 次へ 戻る