正直な話、本当に……生身一つで魔法を凌駕する恭也さん達には吃驚することばかり。

 あ、そういえば前に恭也さんが言ってたっけ……
















 ――――確かに魔法は強い
















 ――――だからこそ教えておく
















 ――――この世に絶対は無いということを
















 一度、恭也さんの話を聞いたときは解らなかったけど……。
 今の悠翔と士郎さんの立ち合いを見ているとなんとなくだけど解る気がする。

 本当に絶対なんて……無いのかもしれないって……





















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















 やっぱり貫は……見切られるか……

 士郎伯父さん……いや、士郎さんに仕掛けた俺は彼の動きに気付く。
 若干だけ反応が遅くはなっていたから貫の効果はあったのだろうが、やはり冷静に対処されてしまった。

 普通の相手なら今の段階で仕留められたんだが……この技法だけで



 ――――御神流、基礎乃参法「貫」



 御神流で、全ての技の基本となる動きの一つ。
 防御を掻い潜り、攻撃を届かせる為の技法、。
 相手の呼吸・視線・間合い・動作・剣気・殺気や、相手が感知できるこちらの気配なども考慮。
 そして、相手の知覚手段や動きを完全に”支配”することにより相手に死角を作らせるための身体運用法……。
 基礎と言うだけあって御神流の使い手は全員これが使えると言っても良い。
 逆を言えば、御神流の使い手は貫に対する対処法も解るということでもある。
 実際に俺も対処法は知っているし、な。
 最も、貫は御神不破として戦う時とかじゃないと使うことは少ないな。
 貫は普通に戦う上で使うには反則に近いしな。
 けど……今回の場合はそうも言っていられない。
 士郎さんは俺の使える御神不破の技を全て使っても勝てないような相手だから。

 俺は間違い無く、御神の剣士としては一番弱い……
 けど……それでも、この世に絶対は無いってことは知っている
 それに、俺が剣士として戦う上で必要なものは……
 刹那の隙に必殺の一撃を叩き込むこと
 どれだけ強かろうが、技量が上だろうが、未知のものだろうがそんなものは関係無い
 それに、御神の剣士の前には間合いだとか攻撃能力だとか防御能力だとか速度だとか武器の差だとかそんなものも関係無い
 相手の急所に正確な一撃……討つのに必要なのはそれだけだ
 だからこそ、勝ち目が無いということは無い
 力の差があるならあるでやりようはある……!





 俺は一旦、あえて殺気を強くする。
 相手の知覚手段を支配する貫は御神の剣士全員が扱える。
 今回は御神不破として立ち合いだ。
 恐らくだが、士郎さんも貫は使うだろう。
 だったら、あえてその感覚を強くしたほうが良い。
 知らないうちに知覚手段を支配されている可能性があるからだ。
 逆に殺気などを消す方法もあるが、それは貫を応用する方法に近い。
 そういう点でも士郎さんの方が経験が上だ。
 俺も場数は踏んでいるが、士郎さんや恭也従兄さん……いや、恭也さんにも場数は及ばない。

 だが……殺気を強くしたところで攻撃が見切られやすくなってしまうから意味は無い……
 かと言って……殺気を消しても……士郎さんには効果は無い……
 どうする……?
 ここは……感覚を消してみるか……?

 俺がそう考えていると士郎さんが動き出す。
 木刀の裡、一本を腰に構え、そのまま抜刀術の動作で斬撃を放つ。



 ――――御神流、奥義之壱・虎切



 士郎さんが最も得意とする一刀による高速の抜刀術。
 その剣速は俺の使う剣よりも速い。

 くっ……入るしかないか……!

 俺は咄嗟に全てがモノクロに変わる領域――――神速に入る。
 神速の領域に入ったことにより士郎さんの虎切の速度が下がる。
 俺はその間隙をついて虎切を避ける。
 そして、神速の領域から抜け出た俺は士郎さんから距離をとる。

 この距離でなら……!

 俺は再度、士郎さんに向かって地を蹴る。
 そのまま木刀を構え、士郎さんに向かって突きを放つ。



 ――――御神流、奥義之参・射抜



 御神流の技の中でも最大の射程を誇る技を士郎さんに向ける。
 しかし、士郎さんは俺の動きを読んでいたのか既に木刀を構えていた。

 だが……俺の狙いはここじゃない……!

 俺は射抜を使ったまま、貫を使用し、再度、神速の領域に入る。



 ――――追



 射抜に追撃を加えた二段構えの突き。
 射抜は元々、超高速の突き技であり、かつ、突いた先から様々に変化する技だ。
 それにもう一段階の突き技を加えた技が射抜・追。
 神速を使った上での射抜・追……今の俺が使える技の中では最強と言っても良い技だ。

 これが効かないなら俺に勝ち目は無い……!

 しかし、既に士郎さんは俺が神速の領域に入る時に動きを察知していたらしい。
 射抜・追の動きを見た士郎さんも神速の領域に入っていた。
 神速の領域に入った士郎さんは俺の放った射抜・追を片手で受け止める。



 ――――刃取り



 刃取りは御神流の技の一つで、真剣を片手で取る技。
 簡単に言えば、指でやる真剣白刃取りと思えば判りやすい。
 要は刃に触れないように刀身を掴むだけだが、実戦で使うには、並々ならぬ集中力に加え、握力が軽く100kg以上あることが必須だと言える。
 しかし、今回は木刀による模擬戦であり、士郎さんは元々から刃取りを扱えるだけの剣士だ。
 俺の射抜・追を刃取りで無効化する可能性はありえた。

 くっ……刃取りでくるとは……流石に予測は出来なかった……!

 それでも、士郎さんが刃取りを使ったのには流石に驚いた。
 しかし、二段目の突きを止められた俺は咄嗟に士郎さんの動きに対して、一段目の突きの時に使った方の木刀を構え直す。
 だが、未だに神速の領域のままとはいえ、俺の行動は遅すぎた。
 既に士郎さんは再度、抜刀術の構えを取っていた。
 そして、俺が木刀を構え直した時には既に虎切を放っていた。
 士郎さんが得意とする御神流の奥義である虎切。
 俺はそれを受け止めることも、避けることも出来ずに身体にうけてしまう。
 士郎さんは虎切を手加減して使っていたんだとは思う。
 けど、お互いに神速の領域に入ったままでの奥義のぶつけ合い。
 その消耗の影響もあり、俺自身に流れてきた衝撃は予想以上に大きいものだった。
 俺は痛みを感じながら、虎切の衝撃をうけたのを最後にそこで意識を手放した。
 意識を手放す寸前にフェイトの俺の名前を呼ぶ声を最後に……。
















 士郎さんと悠翔の立ち合い……。
 僅かな時間だったけど……その決着がついた時、私の目の前にはゆっくりと倒れていく悠翔の姿が見えた。
「悠翔っ!」
 私は悠翔が倒れていくのを見て咄嗟に悠翔の名前を呼ぶ。
 でも……悠翔には私の声が聞こえたのかは解らない。
 私はいても立ってもいられなくなって悠翔に向かって走り出す。
 悠翔が倒れる寸前、私はなんとか悠翔を抱きとめる。
「きゃっ……!?」
 悠翔を抱きとめたのは良かったんだけど……。
 私も咄嗟に悠翔を抱きとめた感じだったから悠翔が私の胸に埋まる形になってしまう。
 でも、今の私はそんなことは気にならなかった。

 だって……悠翔の方が心配だから……



































 From FIN  2008/3/30



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