「……フェイト」
 私がなんとなく悠翔と士郎さんの構えを見ながら考えていると悠翔から声がかけられる。
「は、はいっ!?」
 悠翔に話しかけられたのは私にとってはいきなりだったので吃驚してしまう。
 でも、悠翔は気にしていないみたいで……。
「……しっかりと見ててくれ」
 私に真剣な表情でお願いをする。
「うん……解った、よ」
 悠翔の表情からその意味を汲み取った私も真剣に応える。

 けど……悠翔が心配……
 この立ち合いが悠翔にとって大切なのは解ってる
 でも……私は……

 悠翔のことが心配でそのことが頭から離れなかった。





















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「さて、始めるか……悠翔、どこからでも良いぞ」
「……解りました」
 悠翔が士郎さんからの合図を確認したと同時に動きだす。
 普通に悠翔は動いているだけのはずなのにそのスピードはとても速い。
 一瞬、悠翔の姿が霞んだ気がしたと思ったら、悠翔の手元から針のようなものが投げられる。
 今の一連の動作は私には殆ど見えなかった。
 悠翔が何かをしたのかは解らなかったけど……多分、狙った箇所は士郎さんの手元。
 士郎さんの手元に針が迫る。
 けど、士郎さんは私にも見えないほどの速さで木刀を振るい、悠翔の投げた針を叩き落す。
 士郎さんが針を叩き落した時、一瞬だけ光るものが見えた気がしたけど……。
 私には何なのかは解らない。
 士郎さんはその光るものに対しても冷静に対処していた。
 何をしたのかは私には見えなかったけど……。

 凄い……何も使わずにあんな速度で動けるなんて……

 恭也さんと模擬戦をした時もそうだったけど……。
 今の攻防を見てると改めて吃驚する。
 悠翔の姿が一瞬、霞んで見えたのは私が悠翔を認識出来なかったからだと思うし。
 それに、悠翔が投げた針のようなものはどこから出したのか解らなかった。
「ふむ……飛針の扱いは完璧だな。それに、俺が叩き落とした瞬間に鋼糸も投げていたな?」
「……やっぱり、気付かれていたんですね」

 え……?
 悠翔は針を投げただけじゃなかったの……?

 私には全く解らなかった。
 悠翔の動作はそこまで計算されていたなんて……。
 私だったら……きっと今の攻防だけで負けちゃうかも……。

「ああ、普通なら今の一瞬で相手で葬れるだろうな」
 私が考えているのが解ったのか士郎さんが肯定する。
「動きも暗器の扱い自体も問題は無いが……恭也や美由希に比べたらまだまだだな」
「……そう、かもしれません」
 士郎さんの厳しい言葉に悠翔は少しだけ落ち込む。
 けど、士郎さんの言葉はこれだけじゃ無かった。
「だが、ここまでやれるとは大したもんだ。このまま鍛え続ければ必ず強くなれる。それだけ、悠翔の扱い方は良かったぞ」
「本当ですか……?」
 厳しい言葉とは一転して士郎さんの指摘に悠翔は嬉しそうにする。
「ああ、悠翔がその気持ちを忘れなければな」
「はい……!」

 悠翔……本当に嬉しそう……
 でも、今の悠翔の動きは本当に凄かったから……
 私もそう思う、よ
















「さて、そろそろ小太刀の型でも見るか。まぁ……今回は木刀で、だが」
 あれから少し……悠翔が落ち着いてから士郎さんが口を開く。
「はい、お願いします」
 悠翔が士郎さんに頭を下げてからお互いに距離を取り直す。
 距離を取り直してから悠翔と士郎さんが視線を交え、木刀を構え直す。

 なんか……緊張する……

 悠翔と士郎さんはお互いに構えて睨みあっているだけなのに……。
 空気が変わったような感じがした。

 なんとなく……怖い……というか……寒気がするのかな……?
 
 悠翔と士郎さんから何かプレッシャーのようなものが発せられている気がする。
 私は知らないうちに身体が少しだけ震えていた。

 私も色んなものと戦ってきたけど……
 こんなのは初めて……
 悠翔も士郎さんも魔力が無いはずなのに……これだけの威圧感を感じさせるなんて……
 これが、剣士……なのかな?

 剣士……私達の世界にはいない人達。
 少し前にユーノが魔法が無いから変わりに発達したのが剣術とかだって言っていたけど……。
 これなら納得だと思う。
 悠翔と士郎さんが放っている威圧感は私達、魔導師が放つものとは全く違う。
 ううん、私達の場合じゃこれだけの威圧感は出せないと思う。
 なのはやはやてと出会ったあの事件の時にもこんなことは感じなかった。
 それに、管理局の中でもこれだけの威圧感を出せる人はいなかったと思う。

 本当に……凄い……
 これが、剣士同士の立ち合い……
















「さて、そろそろいこうか、悠翔」
 私が悠翔を見守っていると士郎さんが一言だけ悠翔に伝え、動く。
「……はい」
 悠翔も士郎さんに応じて動き始める。
「小太刀二刀・御神不破流……御神の剣士・不破悠翔……行きます!」
「小太刀二刀・御神不破流師範、御神の剣士・高町士郎、参る!」
 悠翔が名乗りをあげ、士郎さんも悠翔に応じて名乗りをあげる。

 あれ……?
 恭也さんが私との模擬戦の時に名乗っていた時となんか違うような……?
 もしかして、私の時はあえて違う名乗り方をしていたのかな?
 それとも……悠翔と士郎さんが意図的に普段と違う名乗り方をしてる……?

 私が悠翔と士郎さんの名乗りに疑問を感じている間に立ち合いは始まっていた。
 悠翔が右手の木刀で仕掛けているところだった。
 でも、私に解ったのはそこまでだった。
 悠翔の姿がまた霞んで見える。
 それを見た士郎さんの目付きも変わる。

 いったい……悠翔は何をしているの?
 それに……士郎さんも……

 悠翔は既に何回か姿が霞んで見える方法を使っていたみたいだったんだけど私には何も解らない。
 ううん、やっぱり今回も悠翔はそこにいるはずなのに私には悠翔の存在が認識出来ない。

 もう、何回も見てるから信じないわけにはいかないけど……

 でも……もし、これが本当の戦いだとしたら相手が魔導師でも一瞬で倒してしまうと思う。
 だって……認識出来なければ魔法が使えたとしても対処なんて出来無いから……。
 実際に私も恭也さんにこの方法を使われたし……それに悠翔も何回か使っている。
 正直な話、本当に……生身一つで魔法を凌駕する恭也さん達には吃驚することばかり。

 あ、そういえば前に恭也さんが言ってたっけ……
















 ――――確かに魔法は強い
















 ――――だからこそ教えておく
















 ――――この世に絶対は無いということを
















 一度、恭也さんの話を聞いたときは解らなかったけど……。
 今の悠翔と士郎さんの立ち合いを見ているとなんとなくだけど解る気がする。

 本当に絶対なんて……無いのかもしれないって……


































 From FIN  2008/3/27



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