「……解った。でも、怖いものを見せることになるかもしれないぞ?」
 悠翔が念を推すように私を見つめながら言う。

 でも……私の応えは初めから決まっているから……

「大丈夫だよ、さっきも言ったと思うけど……私は悠翔のことを怖がったりしない、よ」
 だから、私は悠翔にはっきりと伝える。
 悠翔がどうだとしても私は怖がったりしない。
「ううん、もし……悠翔のことが怖いと思ったとしても悠翔から目を逸らしたりしないから」
「……解った。フェイトがそこまで言ってくれるのなら」
 そう言って悠翔は私の手をとる。
「ふぇっ……?」
 私はいきなりのことに頬を紅く染める。
「……今回の立ち合いは君に見届けて欲しい」
 悠翔が真剣な表情で私を見つめる。

 真剣な表情……
 悠翔は本当に自分を懸けて士郎さんに挑もうとしてるんだ……
 だったら私に出来ることは……

「はい……!」

 悠翔のその想いに応えること……
 ううん、私も見届けるっていう想いを悠翔に伝える
 それが……今の私に出来ることだから……





















魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever
















「さて、準備は終わったみたいだな」
「あ、はい。俺の方は大丈夫です」
「ふむ……なら、道場に行くとしようか……」
 悠翔の準備が終わったことを確認した士郎さんが道場に行くように促す。
「あの、士郎さん……私も一緒に行っても良いですか?」
 このままだと悠翔と2人だけで道場に行ってしまうと思った私は咄嗟に士郎さんに質問する。
「俺は別に構わないが……悠翔は良いのか?」
 士郎さんが悠翔に念のため確認をとるように聞く。
「……はい。フェイトが立ち合ってくれるようにお願いしたのは俺ですから」
 士郎さんの質問に対して悠翔は目を逸らさずにはっきりと答える。
 悠翔のその表情を見た私は少しだけどきっ……とする。

 迷いの無い眼……
 なんか、悠翔の眼って凄く意思が強いように見えるよ……
 ううん、意思が強いんだと思う
 私は出会ってからずっと……悠翔を見ていたけど……悠翔には迷いが無い
 そんな悠翔が私には格好良く思えて……
 ふぇっ……わ、私ったら何を考えてるんだろ……

「なるほどな……。だったら俺から言うことは何も無い。フェイトちゃんも一緒に来てくれ」
「あ……はい」
 考えごとをしていた私は少し戸惑いながらも返事をする。
 でも……これで士郎さんからも許可をもらった。
 悠翔と士郎さんの立ち合いを見届けるということ……。
 と言うことは私がその場所にいても良いってことになる。
 私は改めて悠翔を見つめる。
「……フェイト」
 私の視線に気付いた悠翔が私の方に振り向く。
 悠翔の視線を認めた私ははっきりと言葉を伝える。
「うん……私、悠翔のこと見てるから……だから、頑張って」
 今の私が悠翔に言ってあげられる言葉なんてあまり無いけど……。
 私は悠翔に精一杯の想いをこめて伝える。
「……ありがとう」
 悠翔も私の想いに気付いてくれたのか笑顔で応えてくれる。

 ゆ、悠翔ってやっぱり……自分のことには鈍いのかも
 普通そんな顔をされたら女の子はどきっ……としちゃうと思う
 ううん……違う……悠翔の今の表情は……私に対してものだから……
 そう考えると……ドキドキが治まらないよ……
















 結局、私はドキドキが治まらないまま悠翔と士郎さんについていく。

 今から大事な立ち合いをするっていうのに……
 私がこんなんじゃ立ち合いをお願いしてくれた悠翔に失礼だよ……

 私が少しだけ沈んでいるのとは裏腹に道場に到着する。
 悠翔と士郎さんが用意していた道具の準備を始める。
 私は悠翔と士郎さんに言われて一番、道場全体が見渡せる場所に座らせてもらう。
 座らせてもらった私は暫く準備をしている悠翔の様子を見つめる。

 やっぱり……悠翔も恭也さんと同じなんだ……

 悠翔の取り出した道具を見て私はふと気付く。
 針みたいな道具に、糸のようなもの。
 これは恭也さんが持っていたものと同じ。
 悠翔が剣術を使えるのは解っていたけど……改めて見てみると吃驚する。
 恭也さんが扱っていた道具の一式全部を悠翔も使えるということだから。
 以前に恭也さんが私と模擬戦をした時はあの道具は使わなかった。
 もし、恭也さんが道具も含めて使っていたら私はきっとあそこまで戦えなかったかもしれない。
 きっと……あの糸のようなものに掴まっちゃってそのまま、負けちゃうかも。
 実際に戦った恭也さんはそれだけ強かったし、スピードも私の真・ソニックフォームよりも速かった。
 でも、私が恭也さんに負けたのはそれだけじゃないと思う。

 時々、言われるけど……私ってどこか抜けてるみたいだし……

 私は、みんなからはたまにそう言われる。

 普段の私だとそんなことは無いんだと思うんだけど……
 悠翔には、ぼ〜っとした姿ばかり見せているから……本当のことなのかも……

 ただ、私は攻撃に昏倒してる感じの戦闘スタイルだから……あまり、ああいうのには強くない。
 基本的にはバインドとかそういうのは避けるから問題は無いんだけど……。
 恭也さんのように私よりも速かったり、力量に差があったりするとそうはいかない。
 私の動きを止める手段なんてあるってことだから。
 一応、魔法同士でなら私のスピードが上回れることは無いんだけどね……。
















 私が暫く悠翔を見つめていると準備が終わったらしく、悠翔と士郎さんが立ち上がる。
「悠翔、今回の立ち合いでは小太刀は使わなくてもいいか?」
「そう……ですね。今回は木刀で良いと思います。後……飛針と鋼糸はどうします?」
「ふむ……使ってもいいが……木刀では対処が難しいな。とりあえず、悠翔はためしに使ってみてくれ。一応、確認しておきたい」
「……解りました」
 悠翔と士郎さんが今回の立ち合いのルールを確認しあう。

 う〜ん……なんて言えば良いのかな……?
 なんか、悠翔も士郎さんも凄く危ないことを言っている気がする……
 普通は模擬戦でもここまではやらないよ……?

 私の心配には全く気付くことなく、悠翔と士郎さんは木刀を構える。

 悠翔も士郎さんも構えが似てる……
 ううん、恭也さんも構えが殆ど同じだと思う
 でも……なんとなく悠翔も恭也さんも士郎さんもどこか雰囲気が違うような気がする
 どうして……かな?

「……フェイト」
 私がなんとなく悠翔と士郎さんの構えを見ながら考えていると悠翔から声がかけられる。
「は、はいっ!?」
 悠翔に話しかけられたのは私にとってはいきなりだったので吃驚してしまう。
 でも、悠翔は気にしていないみたいで……。
「……しっかりと見ててくれ」
 私に真剣な表情でお願いをする。
「うん……解った、よ」
 悠翔の表情からその意味を汲み取った私も真剣に応える。

 けど……悠翔が心配……
 この立ち合いが悠翔にとって大切なのは解ってる
 でも……私は……

 悠翔のことが心配でそのことが頭から離れなかった。


































 From FIN  2008/3/25



 前へ  次へ  戻る