「あの……彗さん……」
 正式に死神の手続きが終った円花と再開した日の放課後。
 昇神家の彗の部屋で死神の手続きの事の詳細を話していた円花が何かを思い立ったように彗に問いかける。
「なんだ……?」
「私達って……恋人なんですか?」
「は……?」
 いきなり投げかけられた円花の言葉に彗は何て答えれば良いのか解らない。
 ある意味で円花の投げかけた言葉は爆弾だった。
















スタンプ・デッド
恋人・始まり
















「いや……お前な……」
 彗は先ほどの円花の言葉に少しだけ、頬が熱くなる感覚を覚えつつも何とか問いかける。
「だって……気になるじゃないですか……」
 目を逸らしながら言う彗を見て円花も若干、歯切れ悪そうに言う。
 円花も自分で何を言っているのかは解っている。
 普通は聞かないかもしれない質問。
 だが、色々な事があった後としては問いかけない方が可笑しいとも言えなくも無い。
「って……んなこと言われてもな……」
 彗は少し考え込む。
 正直な話、じっくりと考えてみれば結構、円花とは恋人らしいことはしていない気がする。
 ただ、一つのことだけを除いて。
 それは円花にとっても同じだったらしく彗をじっと見つめている。
「ああ……そう言うことかよ……」
 円花が言いたいことが漸く解った気がする。
 元々は、魂のエネルギーを補給するための行為。
 そして、いつの間にかそれだけの意味じゃなくなってしまった行為。
 確かに一般的な概念で見るならばその行為は恋人同士がやるものだと言える。
 既に円花とはその行為を何度も行ってはいるが……それは数に入れても良いのだろうか?
 いや、初めに会ったばかりのころはあくまで仕方が無くだった。
 実際にその行為は、時には円花からのアクションからだったり、状況的にという感じで行っていた。
 しかし、いつからか円花自身が待ち望む様になり、自分もそう言う意味合いで捉えるようになっていた。
 その意味合いが鮮明に明らかになったのはいつの事だろうか……?
「オーケイ、だったらお前の望むようにすれば良いんだな……?」
「え……?」
 彗の言葉に驚いた円花を尻目に彗は部屋のベッドに座っている円花に口付ける。
「ん……ふぁ……」
 円花は少しだけ驚いたような反応をしたが、そっと目を瞑りすぐに彗からの口付けを受け入れる。
 円花の中で魂のエネルギーが増幅する。だが、それはついでの事でしかない。
 キスと言う行為自体は何度も行っている。
 しかし、今回のキスは今までのものとは大きく意味が違っていた。
















――――恋人としての意味を持ったキス……。
















――――それはとても甘いものだった。
















 どのくらい経っただろうか。
 やがて、二人はゆっくりと唇を離す。
「彗……さん……」
 うっすらと頬を上気させた円花が彗の名前を呟く。
「お前が望んだんだ……それに……恋人同士って言うんなら……」
 円花の言葉に彗は軽く笑みを浮かべ……。
「普通やるだろ?」
 彗はそう言ってもう一度、円花に口付けた。
「ん……ぁ……」
 今までは、彗からキスをしてくれると言う事は殆ど無かった。
 正直な話、彗からしたと言うのは数えるほどしか無い。
 状況の都合を除く場合だと……
『クリスマス前夜祭にして当夜祭にして後夜祭にして年末年越しあけましておめでとうございます祭り兼、終業式〜豆まきもあるよ〜』
 のアトラクションの時と、最強とも言える死神であるブドォとの戦いの時と最後の敵とも言える小山慎司との戦いの時くらいしかない。
 それだけ、彗からこう言った行為をすると言うのは珍しいのである。
 10秒ほど時間が経ち、彗はゆっくりと唇を離す。
「彗さん……」
 円花は少しだけ名残惜しそうに彗の名前を呟く。
「ん……まだ、して欲しいのか?」
 名残惜しそうな円花の反応に気付いたのか彗は円花に聞く。
 そんな彗の言葉に円花は頬を染めながら言う。
「いえ……そう言うわけじゃないですけど……今度は私からしたいなと思いまして……」
 そして、円花はゆっくりと目を瞑り今度は円花から口付ける。
 彗は円花からのキスを躊躇う事なく受け入れる。
 今までの行為とは全く違う感覚。
 円花はこの感覚に身を委ねる。
















――――好きな人とキスをすること……
















――――それはとても幸せな感覚だった。
















 暫くして円花はゆっくりと彗から唇を離す。
「彗さん……」
 自分から口付けたにも関わらず、円花は少しだけ物足りなさそうな顔で彗を見つめる。
 彗は円花を後ろからそっと包み込むように抱きしめる。
「あ……」
「お前って……やっぱり小さいな」
「え……そうですか?」
「でも、これくらいの方が良いな。しっかりと抱きしめてやれる」
 彗の言葉に円花は頬を紅く染める。
「それに……これならお前は逃げられないだろ?」
 そう言って彗は更に円花を深く抱きしめる。
 円花が自分の腕の中にいることを感じられるように。
「彗さん……」
「ん?」
 彗の腕の中に納まっていた円花が不意に声をかける。
「彗さんこそ……何処にもいきませんよね?」
 円花の言いたいことは解る。
 彗自身は何度も”別のところ”にいきそうになった。
 円花が不安に思うのも当然である。
 それに彗は人間で円花は死神だ。
 そこにも大きな差があると言える。
 円花にはそれが大きな不安だった。
「ああ。約束する。……死んでも一緒だ」
 円花の言いたいことを理解した彗は円花を安心させるように言う。
 それに彗にとっても円花は大切な存在なのである。
 初めて会った時からの約束もある。
 しかし、今はそれだけではない。
 彗自身が円花が傍にいることを望んでいる。
 恥ずかしいから面と向かってはあまり言えないのだが……。
「はい……!」
 彗の言葉に円花は笑顔で応える。
 彗がなんて言いたいのかは解った。
 自分も彗と同じなのだから。
 お互いにその気持ちを感じたのか、やがてキスを求めるように円花がゆっくりと目を瞑る。
 その態度を確認した彗は円花にゆっくりと口付ける。
 互いの気持ちを感じるように、とまらない感情を伝えるように。
 彗は深く円花と口付けを交わす。
 今日だけでも既に何度もキスを交わしている。
 しかし、そんなことは些細なことだった。
















――――二人は……
















――――恋人同士なのだから。































 From FIN  2008/1/23



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