「う〜ん……ここで立ち話もなんだし。アップルヒルに戻らないか? 飛竜を討伐した報告もしないといけない」
晃一がそんな事を考えたところでカインが提案をする。
現在の場所はカインが拠点にしているアップルヒルと呼ばれる町からも離れている山の中だ。
幸いにして町からは然程遠くなく、戻るにも大きな支障はない。
だが、この山の主である飛竜は討伐したが、魔物自体は残ったままである。
このまま、山にいるのは得策とは言えないだろう。
「そうだな。流石にこんなところでゆっくりしてるわけにもいかねぇか」
カインの言う通り、依頼が終わった以上、危険な場所に留まる理由もない。
それに日が完全に沈んでしまえば移動するのも難しくなる。
晃一はカインの判断に同意する。
「よし、すぐに戻ろう――――」
晃一の返事を確認したカインが足をアップルヒルへと向けようとしたその時――――。
「きゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
1人の女性の悲鳴が辺りに響き渡った。
龍殺光記レジェンドアーム
「コウイチっ……!」
「ああっ!」
女性の悲鳴が聞こえたと同時に駆け出すカインと晃一。
聞こえた距離からすると現在位置からはそう遠くない。
カインの記憶の中では悲鳴が聞こえた方向は現在位置から200メートルほど離れた湖の方向。
場所も把握出来ているため、どうにか間に合うはずだ。
2人は急いで現場に移動する。
「まだ、残っていたのか!?」
カインと晃一が現場に到着した時、目の前に現れたのは先程とは違う飛竜だった。
見た目の大きさからすると、依頼で戦った中級飛竜ではなく下級飛竜<ワイバーン>のようだ。
下級飛竜は中級に比べても体躯は小さく、力も強くはない。
だが、通常の魔物に比べればその力は圧倒的に強く、動きも素早い。
下級とは言えど、単身で竜と戦う事は困難であり、侮る事は出来ないのだ。
例え、魔物を相手にして余裕で勝つ事が出来るほどの実力があったとしても竜が相手ではそうはいかない。
竜は魔物と違って鱗が非常に堅牢で魔法に対する耐性もある。
だからこそ、竜殺しを成すためには集団でそれも一流の傭兵達が束になって闘うのがセオリーとまで言われているのだ。
カインのような人間でなければ単身で竜を相手にするのは無謀すぎる。
「くそっ……ここからだと僕じゃ届かない。コウイチ、何とか出来ないか?」
少女が竜に襲われようとしている――――。
カインは何とかしようと思ったが、現在の自分の持っている術ではどうする事も出来ない。
どうやってもカインが飛び込むよりも早く、竜が少女に襲いかかる方が早いからだ。
それに遠当ての技であるヴァーティカルを以ってしても現在の距離で竜を斬り伏せる事は不可能だった。
「解った」
カインの言葉を聞いて、晃一が愛用の銃を取り出す。
一見すれば派手な装飾などは一切、されていない何も変哲もない銃。
サイズも片手で易々と持てるほどの大きさしかない。
傍目からすれば竜を一撃で何とか出来るような代物には到底、見えない。
だが、晃一は自信満々で銃を掲げて見せる。
「俺とガンブレイクに任せときな」
晃一の持っているこの銃はガンブレイクと言い、『砕く者』と言う名を持つ、この銃は古い時代に創られたレジェンドアームの一つである。
レジェンドアームとは今から1億の昼と1億の夜を迎えたほど過去の次代――――謂わば、神話とも言うべき時代に創られた物。
当時は人智を遥かに超える存在である神、龍、魔と呼ばれる者達が存在していた時代で、龍と魔が世界の覇権を争っていた時代。
そして、神が死んだとされる時代である。
魔は崩界を含めて全ての滅ぼすためにその強大な闇の力を増大させ、龍は魔を止めるためにその前に立ち塞がった。
龍と魔の力は全くと言っても良いほど拮抗しており、その力は人智では想像も及ばないほどであり、世界は瞬く間に荒れ始めた。
力と力のぶつかり合いに耐えられなかったのである。
神は暫くの時を静観していたが、遂には神もこの争いの中に介入した。
破壊されようとする”自分の創世した世界”を何もせずに見過ごす事が出来なかったためだ。
だが、龍と魔は神と同格の存在であり、神ですらその力を抑える事は出来なかった。
熾烈を極める龍と魔の戦いに介入した神は魔に対抗するため、自らも魔の持っている力と同じく、闇の力を使った。
しかし、神はその闇の力を制御出来ずに自滅の道を歩んでしまう。
闇はあくまで魔が使うからこそ絶大な力があるわけであって、神では魔の持っている闇の力に耐える事が出来なかったからである。
皮肉にも魔に対抗しようしたはずが、自らの存在を消す事になってしまった。
それも同格の存在であるにも関わらずに。
何故、戦いを巻き起こしたわけではないのに自滅しなくてはならないのか。
神は世界の在り方に絶望した。
だが、神は自滅への道を歩んでも唯では転ばなかった。
神は自らが死ぬ時に世界に呪いをかけたのだ。
その呪いの内容は緩慢に世界が病んでいくと言うものであり、直訳すれば死を以って世界を道ずれにしようと言うものであった。
まるで、辻褄の合わない御伽話のような話ではあるが――――崩界と言う世界の名前そのものがそれを事実だと証明している。
崩界と言う名の由来は世界の崩壊と言う物に由来しているからだ。
神の呪いによって何時かは崩壊する――――それを皮肉ったのが崩界と言う名であると言っても良い。
だが、神話の時代に存在していたもの達は決して滅びようとする世界を遺したわけではない。
人間達にある物を遺していたのだ。
その物とは――――。
神の持つ、創世の力を秘めた鎚。
龍の持つ、守護の力を秘めた剣。
魔の持つ、破壊の力を秘めた腕。
神話の存在が争ったが故に遺される事になったそれぞれの持っている強大な力を宿した武器。
この3つの遺された物が人間達を生かすための力となる物であった。
3つの武器は神話の時代の時に神、龍、魔のそれぞれに選ばれた人間に託され、その武器を持った人間は神話の争乱を戦い抜いた。
人智を超える者達の戦いの中でその武器を持った人間がまともに戦えていた事を見ると脅威的な力である。
神話の存在の力を秘めた武器はこれほどの力を持つ物であったのだ。
戦いが終わった後の惨状を鑑みると一応の部分で、人間達に滅びを与えるだけでなく、生きるための術も遺していたと言うべきであろう。
だが、これらの武器の詳細については詳しく解っていない。
遺したとされる武器の構造は人間達の想像を大きく超えていたと言われているからだ。
しかし、その遺された武器に秘められた力は膨大であり、人間達は力を求めて研究を重ねた。
神、龍、魔に関わる物とはそれほどまでの価値がある。
人間達は長い年月の時を研究に費やし、終いにはこの遺された物を媒介とし、下位の存在となる武器を創り出した。
この武器こそがレジェンドアームと呼ばれる武器で――――世界を活かし続けるために必要な力。
神話の存在にも匹敵するほどの力を秘めた武器。
それが後にレジェンドアームと呼ばれる物である。
人間達が神話の時代から受け継いだ力と言われるのはこのような経緯で創りだしたと言う側面があったからであった。
今の時代ではレジェンドアームとは神話の時代の武器を元にして創られた武器――――。
または特別な物を持っているわけではないが、その力に準じる力を持つ武器の事を差している。
そして――――ガンブレイクはその中の一つなのだ。
『砕く物』の名を持つ、世界に一つしか存在しない幻の銃。
3つのレジェンドアームを創るために蓄積された技術と異世界である地球と呼ばれる世界の技術をかけあわせて創られた物。
崩界人と地球人の英知の結晶とも言えるレジェンドアームがガンブレイクである。
ガンブレイクはレジェンドアームと言うだけあって通常の銃とは桁違いの威力と精度を持ち、更には特別な力を持っている。
何しろガンブレイクは限られた者にしか使う事が出来ない。
レジェンドアームは凄まじい力を持つ半面、制約が存在するのだ。
その制約とは特定の血筋を持つ事――――またはレジェンドアームの力を受け止められるだけの器を持っている事。
そして――――レジェンドアームから選ばれる事。
最低でも何れかの条件を満たなくてはレジェンドアームを使う事は出来ない。
聞くだけならば簡単そうな条件に見えるが、意外とこれが難しい。
例え、特定の血筋を持っているにも関わらず、レジェンドアームの力に耐えられなかった者もいれば――――。
レジェンドアームに耐えられるだけの力を持っているのにも関わらず、使いこなす事が出来なかった者もいる。
単純に条件を満たしただけではレジェンドアームを使う事は出来ないのだ。
武器は使い手を選ぶとも言うが、レジェンドアームは正に使い手を選ぶ武器そのものである。
しかし、晃一はこのガンブレイクに選ばれた使い手であった。
崩界においてレジェンドアームであるガンブレイクを使用する事が出来るただ一人の人間――――。
レジェンドアームは数あれども、その一つ一つが唯一無二の武器である中から選ばれているのだ。
しかも、条件の一つである血筋を一切持たずに。
彼は自力でガンブレイクに選ばれたのである。
これだけでも晃一が優れた力を持つ人間である事が窺い知れる。
「……そこか!」
ガンブレイクを構えたかと思うと晃一は狙いをつける時間もなしに発砲する。
竜を相手にしながらも狙いをつけないなんて無謀にも見える晃一の射撃。
しかも近くには竜に襲われようとしている少女がいるのだ。
僅かでも弾道が逸れてしまえば危険な事は想像に難くない。
だが、それも杞憂であった。
晃一の射撃は飛竜だけを的確に捉え、女性には何も危険を与える事もなく、飛竜を吹き飛ばす。
常識なら飛竜を一撃で吹き飛ばす事など通常の銃や並みの使い手くらいでは到底無理な話だが、ガンブレイクと晃一ならば問題はない。
レジェンドアームは例え、竜が相手だとしても問題にしないほどの力を持っているのである。
その威力の高さは通常の銃とは比べるべくもない。
「もう一発!」
飛竜に初弾が命中した事を確認した晃一が更に追撃を加える。
今度の狙いは飛竜の頭。
頭さえ潰してしまえば、飛竜の強大な戦闘力も大きく削る事が出来るからだ。
鋭い牙と人間を大きく上回る視野の広さ、そして――――獲物を捉える嗅覚。
これらの要素を一気に奪うのであれば頭を潰してしまうのが手っ取り早い。
晃一はそれを理解しているからこそ頭に狙いを絞ったのである。
次弾も飛竜の頭を的確に捉え、その上体を大きく仰け反らす。
容易く皮膚を貫通し、中の肉まで達するほどの一撃は確実に飛竜の生命力を奪っていく。
レジェンドアームが通常の武器とは桁が違う事はまざまざと見せつける光景だった。
「カイン! とどめだ!」
「解った!」
晃一が射撃をしている間に飛竜の近くまで間合いを詰めていたカインが剣を閃かせる。
カインが晃一の射撃をしていた時間は、僅かに1秒も満たない時間でしかない。
だが、カインはその僅かな時間で一気に接近したのである。
そのタイミングは飛竜が最後の動きを見せる事すらも出来なかった。
互いに勝手知ったる相手との組み合わせだからこそどのように動けばいいのかがはっきりと解る。
晃一ならば確実にカインが竜を葬るために行動を起こす事を知っている――――。
だから、カインは安心して飛竜に肉薄出来るのだ。
知らない人間同士で戦っていたらこうも呼吸を合わせる事は出来なかっただろう。
絶好のタイミングで竜の身体を捉えたカインの剣が一刀両断に斬り裂く。
その光景は余りにもあっさりで、鮮やかで――――。
カインがレジェンドアームを使っていないと言う事が嘘に思えても仕方がない。
普通の剣だけで飛竜を両断する事は決して簡単なものではないからだ。
力づくで竜を剣で斬り捨てようと思えば先に人間の腕が壊れるか、剣が折れるかの方が早い。
そもそも、普通の鋼の剣は竜と戦うためのものではない。
あくまで魔物や対人戦を前提とした剣なのである。
竜のような大物を斬る事は前提とされておらず、ただの剣では力不足だと言える。
だが、カインは鋼の剣だけで飛竜を両断した。
それだけでも12歳と言う若さで名前が知れ渡っている理由には充分である。
特別に創られたわけでもない普通の剣で飛竜を斬るのは至難の術なのだから――――。
「よし、これで良い。君の方は大丈夫だったかい――――!?」
しとめた事を確認したカインは飛竜に襲われていた女性の様子を確認する。
この女性は合間に聞いた声の感じと、見た目の雰囲気から自分とは同年代だろう。
そう判断したカインは普通に問いかけたのだが――――。
この女性は水浴びでもしていたのだろうか――――。
なんと――――一糸纏わぬ姿であった。
「きゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」
あられもない姿を見られた女性――――少女は当然、悲鳴を上げる。
少女は少年に肢体を見られた事に混乱し、魔法を無意識に放つ。
カインに向かって放たれた魔法は水を連想させる魔力弾――――。
静かな水の流れの音と身体に感じられる水飛沫の感覚からして恐らく、水の魔法だろう。
だが、そんな事を思う余裕はカインにはなかった。
予想以上の水の圧力に言葉すら発する事が出来なかったからだ。
身体に直撃した水の魔法と少女の山の中に響き渡った悲鳴を最後にカインは自分の意識を手放した。
「う、う〜ん……」
先程、水の魔法を受けてから10分前後――――。
カインは漸く、目を覚ました。
竜殺しを単独で行えるほどに鍛えていただけに魔法の耐性も身につけていたのだが――――。
まさか、一撃で昏倒させられるとは思いもしなかった。
何しろカインはずっと戦ってきた事もあり、竜の一撃を受けても耐えられるほどの身体を持っているのだ。
そんな信じられないような耐久力を持ち合わせているカインですら一撃で昏倒させてしまう――――。
先程受けた魔法に相当強い魔力が込められていたのは間違いないだろう。
「あ、あのっ……ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
カインが目を覚ました事を認めた少女が謝る。
「あ、うん。大丈夫だけど……」
ゆっくりと身体を起こしてみる。
若干の痛みは残っているが、咄嗟に受け流していたらしく特に身体上は問題ない。
魔法にもある程度の耐性を持っていたのも幸いしている。
すぐに身体を動かす事も出来そうだ。
だが、カインからすれば自分の事よりも気がかりな事があった。
「君の方こそ大丈夫だった?」
それは少女の身である。
急いで飛竜の間に割って入ったとはいえ、完全に無傷で守りきったとは限らない。
悲鳴が聞こえたと同時に動きはしたが、僅かな間に少女が傷ついていた可能性だった考えられる。
カインはそれが心配だった。
「はい。貴方達のおかげで」
カインの心配の言葉を聞いて少女がふわりと微笑む。
どうやら本当に何もなかったらしい。
その事を確認したカインはほっと胸をなでおろす。
助けに入った側の人間が相手を傷つけたりしてしまっては元も子もないからだ。
ひとまず、少女に傷一つない事を確認したカインだが、まだ忘れている事があった事を思い出す。
「あ……そう言えば、まだ名乗ってなかったね。僕はカイン=ウィルヴェント。君は?」
本来なら出会った時に名乗るべき事なのだが、今の今まで忘れていた。
まぁ、カインは先程まで意識を失っていたので名乗っていないのも無理はないのだが。
「私はフィーナ=クレセントと言います」
カインの名前を聞いた少女も自らの名前を名乗る。
「……フィーナ? あれ、何処かで聞いた事があるような?」
少女の名乗った名前であるフィーナと言う名前に聞き覚えがあったカインは首を傾げる。
「えっと、カインさん……? えっ!? カインさん!?」
それに対してフィーナの方もカインの名前を反復するように呟いた後、驚いた表情をする。
「カイン=ウィルヴェントさん……水の都の事を覚えていますか?」
少し考えた後――――フィーナはカインの事を思い出したらしい。
フィーナは以前にここから北にある水の都と呼ばれる地でカインと会っていたのである。
彼女が口にした水の都と言うのはアップルヒルから遥か北にある大都市でその名前はクレセントと言う。
水の都と言う名前が指し示す通り、クレセントは美しい水に囲まれた街で自然も豊かである。
その街の美しさは崩界でも屈指であると言っても良いだろう。
フィーナはそのクレセントの街を治める家柄の血をひく少女だった。
「うん、覚えているけど……。そうか、君はクレセントのフィーナか!?」
カインの方も水の都と言う単語でフィーナの事を思い出す。
クレセントのフィーナ。
それはカインが父親と旅をしていた頃に出会った少女の名前であったからだ。
2人の出会いはもう数年以上にも遡る。
カインは幼い頃から父と共に崩界の各地を旅し、多くの街や国を訪れてきた。
父親に連れられての修行と見聞を兼ねた旅は何年にも及び、その間に様々な人とも出会った。
フィーナと出会ったのもその旅の中での話である。
だが、カインは父親と旅をしていた時以来、一度もクレセントには立ち寄っていない。
当然、フィーナとも会う事は在りえなかった。
寧ろ、もう出会う事もないかもしれないとさえ考えていたが、思わぬ再会にカインとフィーナは驚きを隠す事が出来なかった。
「だけど……何故、君が1人でこんなところに? いくらなんでも危険すぎる」
思わぬ再会に喜んだカインだったが、こんな山の中に自分と同い年の少女が1人で来るなんて無謀すぎる。
「……ごめんなさい、カインさん」
フィーナもカインの言っている事が解っているため、すぐに謝罪する。
自分の行った事が軽率だった事を身にしめて感じたからだ。
「……いや、少し言いすぎたみたいだ。考えてみれば君がこんなところで1人で来るわけがない」
フィーナのしょんぼりとした様子を見たカインはここで漸く落ち着く。
考えてみればフィーナは水の都・クレセントの主の家柄であり、立場的には姫と言うべきものである。
流石に姫を1人旅させるような国は余程の事情がない限りはない。
カインが横に視線を送ると護衛と思われる1人の人物が晃一と会話をしていた。
「はい、彼が私に同行していました」
「……と言う事はさっきはあの人が周囲の魔物を掃討するためにあの場を離れていたと言う事か」
「そうです。でも、いきなり飛竜が音もなく下りてきて……」
「なるほど……それで、さっきの場面になるわけか」
フィーナの話で大体の事情を察するカイン。
旅の途中でこの山を通り、目的地に向かおうとしたが次の町まではどのくらいあるのか解らない。
かと言って、夕方にもなって地理の解らない山の中を移動するのは危険すぎる。
今回は野宿をするしかないと結論になったのだろう。
そして、フィーナは場所を探している途中で偶然、この湖を見つけて水浴びをする事にした――――。
事情としてはそう言ったところだろう。
だが、飛竜の存在までは予測出来なかった。
それ故に今回のような事態になったのだと判断出来る。
「……ごめん、フィーナ」
フィーナがどうしてこの場にいたのかを理解したカインは先程の状況を思い出して頭を下げる。
偶発的にとは言え、少女の裸体を見てしまったのである。
カインは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「え、えっと……私の方こそごめんなさい。助けてくれたカインさんにあんな事をしてしまって」
カインが頭を下げた事に慌ててフィーナの方も謝罪をする。
飛竜に襲われていたところを助けてくれたのに、自分の姿の恥ずかしさのあまり魔法を放ってしまった。
しかも、思わず力を込めて魔法を放ってしまったためにカインは気絶する事になってしまったのである。
これは流石に恩知らずな行動だったとフィーナは思った。
「いや、あれは僕が……」
「私が……」
しかし、互いに謝罪を繰り返すばかりで話は平行線を辿る。
カインもフィーナも根が真面目なためにこうなってしまうのだ。
2人の謝罪の応酬」は結局、晃一達が止めに入るまで延々と続いてしまうのだった。
From FIN 2010/8/20
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