――――バレンタイン
















 ――――それは女性から男性に想いを伝える日
















 ――――たとえ、恋人になった後でもそれは変わらない……
















「雪儚さん、ここはこうやって……」
「はい、葵さん」
「お母さん、こっちは終わったよ」
「解りました、唯。次はこれを……」
「うん!」
 今日はバレンタイン……。
 私、深見雪儚と霞唯ちゃんは唯ちゃんのお母さまである葵さんの指導を受けながらチョコレートを作っています。
 葵さんの指導は的確で、葵さん自身も凄く料理が上手です。

 私もこういう人になれたら……
 あの人は喜んでくれるのかな?
 私はふと自分の彼の顔を思い浮かべる。
 ちょっと無愛想な私の彼、霞勇雅。
 葵さんの息子さんであり、唯ちゃんのお兄さま。
 そして……私の一番、大好きな人。
 私は彼の……勇雅のためにチョコレートを作っています。
 本当は私一人でもチョコレートは作れるけど……。
 やっぱり少しでも美味しいものを食べて欲しいですし……。
 勇雅のお母さまである葵さんなら味の好みも知ってるでしょうし……。
「どうしました、雪儚さん?」
「あ、なんでも無いです……」
 葵さんが考え込んでいた私の顔を覗き込む。
 私は慌てて首を振る。
 間近で葵さんの顔を見た私はふとこう思う。

 それにしても……葵さんって美人です……

 葵さんは本当に若くて綺麗な大人の女性。
 旦那さまである霞勇人さんとも恥ずかしくなるくらいに仲も良くて……。
 とても優しい人。
 私にとっても憧れの人です。
「そうですか……。それじゃあ、続きを頑張りましょう。雪儚ちゃんも唯も渡さなきゃいけない人がいますしね」
「はい!」
「うんっ!」
 葵さんの言葉に私達は笑顔で応える。

 これは私にも唯ちゃんにも言えることなんだけど……大好きな人のためにも頑張らないと!
 勇雅……待っててね……
 私……貴方のために頑張ります!

















〜Valentine Kiss〜
















 葵さんからの指導を受けながら料理をすること数時間……。
「はい、二人ともよく出来ましたね」
 葵さんのこの言葉で漸く、私達のチョコレート製作が終わりを告げる。
 唯ちゃんは私のお兄さまである雪那兄さまのために。
 そして、私は……唯ちゃんのお兄さまである勇雅のために。

 大好きな人のために作ったチョコレート……
 勇雅は食べてくれるかな?
 ああ見えても勇雅は甘いものは平気みたいだけど……
 本当は嫌いだとしたらどうしよう?
 勇雅の好みを知っている葵さんが言うには大丈夫みたいだけど……
 やっぱり本人に食べて貰わないと不安かな?

「大丈夫ですよ、雪儚さん。勇雅はきっと美味しいって言ってくれますから」
「葵さん……」
 私の考えていることを見通しているのか葵さんが私の顔を覗き込んでくる。
「勇雅はちゃんと、雪儚さんの想いを汲み取ってくれますよ」
「そうだよ、雪儚ちゃん。お兄ちゃんは雪儚ちゃんのことが大好きなんだから」
 葵さんに続いて唯ちゃんも私を励ましてくれる。
 二人の気持ちがとっても嬉しい。
「ありがとう唯ちゃん、私……頑張るね」
「うんっ!」
 唯ちゃんが笑顔で頷く。
 葵さんもにこにこしながら私を見つめている。

 少し恥ずかしいな……

 二人の視線を感じながら私は部屋を後にする。
















 この時間なら勇雅は……自分の部屋にいるはず……
 それとも……勇人さんの部屋にいるのかな?

 少しだけどきどきしながら勇雅の部屋に向かう。
 勇雅の部屋の前に着いた私はコールをならす。
「……いないのかな?」
 コールを鳴らしても返事が無い。
 普段なら勇雅はすぐに出てきてくれるんだけど……。
「勇雅……」
「……呼んだか?」
 私がぽつりと勇雅の名前を呟くと後ろには勇雅が立っていた。
「あ、勇雅……えっと……」
 漸く、勇雅の前に来たのに私は慌ててしまって上手く言葉が出ない。
「……話なら部屋で聞く。ここは寒いからな」
 そんな私を見た勇雅が私を気遣うように部屋に入れてくれる。
 些細なことだけど勇雅の気遣いが嬉しい。
 私は勇雅に連れられて部屋に入る。
 勇雅が部屋に入ってきた私にベッドに座るように勧めてくれる。
「ありがとう、勇雅」
 私は勇雅に御礼を言ってそのままベッドに腰かける。
「それで、雪儚。俺を探していたみたいだが……」
 私がベッドに座って落ち着いたのを確認した勇雅が話しかけてくる。
「あ、うん……実は……」
 私は葵さん達と作ったチョコレートを勇雅に渡す。
「……チョコレートか?」
「うん、そうなの」
「雪儚が作ってくれたのか?」
「あ、うん。そうだけど……」
 勇雅の質問に私は少しだけ不安になりながら答える。
「そうか、大事に食べさせて貰う。今……食べてしまっても良いのか?」
 勇雅は私が作ったと言うことを確認すると少しだけ嬉しそうに笑ってくれた。

 ……勇雅って無愛想だから中々、表情が解らないんですよね
 でも、そういうところも格好良いんですけど

「あ……はい!」
 勇雅の言葉に私は慌てて返事をする。

 あ……また敬語になっちゃった……

 そんな私を気にした様子も無い勇雅はチョコレートを食べ始める。
 私は不安に思いながらも勇雅を見つめる。
「ん、美味いぞ。甘さも俺好みだ」
 チョコレートを食べながら心なしか勇雅は嬉しそうに言う。
「本当……?」
 私は不安に思いながらも勇雅を見つめる。
「ああ、本当だぞ? 俺が嘘を言ってると思うのか?」
「そんなことは無いけど……でも……」
 不安そうにしている私を見かねたのか勇雅がゆっくりと私に顔を寄せる。
「だったら……雪儚が自分で確かめると良い」
「あ……」
 そう言って勇雅は私にそっと口付ける。
 甘いチョコレートの味と勇雅からのキス……。
 やがて、勇雅がゆっくりと唇を離す。
「どうだ?」
「あ、はい。美味しいです……でも……」
 勇雅の問いかけに私は思ったことをそのまま伝える。
 確かにチョコレートは美味しかったです。
 でも……私にとっては……。
「勇雅の味の方が美味しかったです……」
「そうか、だったら……」
 勇雅は私の言いたいことが解ったのかもう一度、そっと口付ける。
 今度は軽く触れるだけのキス……。
 軽く私に口付けた勇雅は唇を離し、チョコレートを口の中に入れる。
「雪儚にもっと……味あわせてやらないとな」
 そう言って勇雅は私に口付ける。
「ん……」
 私に口付けや勇雅がチョコレートを私の口の中に流し込んでくる。
 その味はとても……甘い味でした。
 暫くそのままキスをして……私達はゆっくりと唇を離す。
「美味しかったか?」
「あ、はい……」
 確かに勇雅とのキスとチョコレートの味は美味しいです。
 でも、私は少しだけ物足りなくて……。
 その表情に気付いた勇雅がそっと私をベッドに押し倒す。
 勇雅に押し倒された私は……。
「私も……食べて貰えますか?」
 私は真っ赤になりながらも勇雅に言う。
「……ああ、解った。大事に頂かせて貰う」
 私の言いたいことを汲み取ってくれた勇雅は私に深く口付ける。
 今度は、触れるだけじゃない恋人同士のキス……。
 それはどんなものよりも甘いものでした。
















 余談ですが……私はこの後、勇雅に美味しく頂かれちゃいました
 でも、この時のことは教えられません……
 だって……ここからは二人だけの時間ですから……













 From FIN  2007/2/14



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